第一話 雨上がりの日が来るまで

海洋暦10023年12月31日 海洋連合帝国 ひんかい都徳安市とくやすし雲落うんらく区 NR徳安駅前プラザ


「国土気象庁は首都圏にかける豪雨警報を発令しました。都民に十分気を付けようと呼び掛けています」「豪雨で、現在中央本線全線大幅の遅延に見込まれます」


「こういう止まない雨、いつまで終わるんだろう」「せっかくの休日なのに、むかつく」「次の電車に間にあわないよ、急いで」「まもなく、10番線に、特急新都特快27号 新都行き 発車いたします」


冬めいた日々、雨と涼風が頬に衝撃し、耐えられないほどの寒さが全身に伝う。

できるだけ外に出ない人がいるかもしれないが、大方の人々は故郷の思いをかけて帰省の長い旅に出ようとする


大晦日、雨のせいで凄く大きくて灰色の雲が覆っていて空が薄暗く、きりがたちこめて視線が悪い。人々が途切れなく往来している帰省ラッシュの駅前では、一人の少女が傘も差さずに空を仰いで立ち尽くす


「雨がポツリと頬伝い、霧が立ち込める心を癒す。こういう天気、嫌いじゃない 誰でも私の邪魔にならない」


少女の名前は 明立あけたち時雨しぐれ 見た目はアジサイ色のツインテール髪形、ミルク如き白い肌、華奢きゃしゃで雛鳥のようなスタイル。都立上江高校の制服でスーツの黒いコートと茶色いグレンチェックスカート、可愛い女子高生だが、無表情で雨のせいで誰でも俯き、まなざしもさせずに通り過ぎていく。


あめが急に大きくなって、列車の遅延情報がどんどん出していく。雰囲気が急に変わる。


目の前は三人家族が軒下で抱き合って雨宿りをしている。赤ちゃんは母親の懐中でこっそり寝ている。


時雨の体もびしょびしょになってしまって、こういう光景を見ると、ついに昔のことを思い出す。


時雨は所謂「政治家族」で生まれた。父親は早死になってしまって、母親は家族の意見をさからい、一人で時雨を育て上げた。子供の頃は母親にかわいがられて、二人は下町で幸福な生活を送った。残念ながら、一年前交通事故で母親が死んでしまった。それから、時雨は浜海の高級住宅街に住んでいる政治家の叔父さんの家に寝泊まっている。叔父さんは時雨の母親の反発を根に持っているらしく、時雨に対してずっと素っ気ない顔をしている。国会の会議でよく出張し、時雨はつねに一人ぼっちの状態である。学校では、政治家の子だと聞いたら、「あのひどい政治家の子らしいよ、もしあの子と関わったらひどい目にあうぞ」と呟く。誰でも時雨と話し合わない、心の糸が折ってしまった。


「どうしてこの世界は私を受け入れないの、何も悪いことをしていないのに、いつもちゃんといい子をしているのに、どうしてこうなるの」「お母さん…」


雨と涙が一斉に急落した。鳴き声はまるでこの凄まじい空気と共鳴している。

誰でも関心をしない、この少女のこと。


「続いては、13番の天宿心乃あまやどここの選手、なんと女子高生ですね。それとも、曲も自作ですね。では、お聞きください 星の名前」遠くのビルの電光掲示板で放送しているテレビ番組は歌のコンクールらしい。


歌を歌っている女の子は、雪ごとき白いサイトテールの髪、青い瞳、すごくかわいいカラメル色のワンピースを着ていて、天真爛漫てんしんらんまんな笑顔で、リズムに合わせて曲を歌っている。


🎶私たち見たあの星、実はそんなに遠くない、夢をかなえようなら、つかんでおけよう🎶


心の糸が再び結びなおす。この歌声は、心の中の暗雲を蹴っ飛ばし、萎縮しているところの心を救い出し、世界の果てまで響き続ける。時雨の心いま、もどかしく、神様の降臨みたいな尊さが感じる、頬も赤くなる。


「雨が上がるんだの、もしかしてあの子の歌声のおかげ」「不思議だわ」


雨が急にやんで、陽光が少しずつ大地にさす。世界が生き返るような天気だ。1ヵ月ぶりの晴れだ

「あの子、すごい」時雨も心の中の衝動を表し、わくわくする。


海洋暦10024年1月1日 海洋連合帝国 科羅都 内閣府 プロジェクト「トロ星」執行委員会「女神の神輿」例会


「きのうのコンクール、意外とほぼ全員が霊体アリナキス適性てきせい低下だと見込まれております。ただ、13番天宿心乃の適性は非常に高いです。いかがでしょうか、この子を募集してみましょうか」「昨日首都圏付近は1か月ぶりに晴れました。情報によると、この子のコンクールが放送している間に急に雨があがりました。霊体衝動の仕業だと確認されておりました」「この子は相応しいと思います」

委員会は心乃の募集をみとめた。


当日午後 科羅都 皇居 国王タワー 朝野ホール


「参ろう、我が卿よ」


「はっ~」


「例の件、どうなるのか」


「既に整えておりました、わが主よ。女神の神輿は成立いたし、近頃霊体適性

が相応しい女の子が発見されておりました。」


「よいのじゃ、1000年前女神の降臨のお陰で、我が国は繁栄であり、トロ星で一番先進国であるのだ。而も、朕は宇宙連合の主席まで担当しているのだ。我が国の万世不朽が保証できるのは、要するに、霊体アリナキス状態を保たなければいけないということなのだ。この計画を続き給え。」


「はっ。。」


カーテンの裏側、繊細なこえを操る人は、海洋連合帝国の皇帝である。

カーテンの表側の大臣は元老院議員、1000年前の月金戦争の将軍、それとも、時雨の叔父様、明立武生である


海洋暦10024年3月7日 浜海都上江区とじょうえく 都立上江じょうえ高校


春めいた季節が訪れる。雪が解く、花が咲く、魚が飛ぶ、鳥がさえずる。街は花香尽くめ。人々は年末年始の休みを忘れずに怠惰な生活を送っている。


「🎶私たち見たあの星、実はそんなに遠くない🎶」


時雨は桜咲きの通学路の坂道を登りながら、「星の名前」を鼻歌として歌っている。時雨は年末年始の休みに何回も心乃の歌を繰り返し、頭の中に曲がこだましている。

ふっと、一人の白髪少女が坂道の上の交差点をとおりかかっている。


「おい、おい」

返事がもらえない。少女が目線から消え去る。


「あの子は もしかして 心乃ちゃん?まさか、うちの学校の制服を着ているから、気のせいじゃない。」


クラスで


「はい、皆さん、年末年始の休み、どうですか。では、新学期がはじまりますよ。先ずは、新しい転校生がきます。こっちへ来てください」

年末年始の休みがおわり、1年b組のクラスの生徒たちが揃えている。


少女は教室に入り込んだ。その前のテレビで映った少女と同じ、サイトテールをつける真っ白な長い髪、上江高校の制服と違う青白いセーラー服、そして宝石みたいな青い瞳、どう見ても容貌端麗で天使の如き可愛い少女。


「あの子、もしかして最近話題になるJK歌手 心乃ちゃんじゃないの」


「心乃ちゃんだ」


「心乃ちゃんの歌、大好き!」


「え、あの子、どうして私の学校に転校したの、而も私のクラスに、これが定めか」

不意に、頬が真っ赤になり、瞳がピカピカしている。


「はいはい、みんなさん落ち着け、座って 座って。じゃ、天宿さんは自己紹介をお願いします」


「皆さん、はじめして、天宿心乃と申します。新重河高校から転校してきました。趣味はうたをうたうことです。よろしくお願いします。」


「ありがとうございます。では、授業が始まります。天宿さんは自分の席に座ってください。」


「あっ、どうしよう、心乃ちゃんはわたしのクラスに来るなんて、夢だに見えないことが目の前に!ああ、どうなるの、私、こんな恥知らず感情を」

時雨は授業の内容でも聞き流し、心乃のことばかり考えている。


休み中、男女を問わず、生徒たちが心乃の席の周りに囲い込んで話をかけている。


「ねね、心乃ちゃんって呼んでいい、友達になろう」


「心乃ちゃん、放課後、一緒にどこかに出かけてみないか、周りを案内してあげようよ」

「心乃ちゃんのメール先、教えてくれない?」


リア充の質問、心乃は困る顔をしている。どう返事するか分からない。笑顔のふりでごまかしてくる。


「情けない私、話をかけるぐらいできるだろう。心乃ちゃんと話したい、遊びたい、心乃ちゃんの歌を聞きたい!」


恥ずかしいあまりの時雨はずっと席に溜まり、一歩も踏み出せない。


「あの子、先の坂道で見かけるような。あの時私に何か話しそうな顔を。それに、私の歌を歌っていたようで」


心乃は時雨のことを気づいた。思わずに席から離れて、時雨のところへ移す。


「あのう、すみませんが、先の坂道で、何か私と話したいようで、どんなはなしですか。教えてくださいませんか。」


「えっ、なにもないですわ、すみませんが、どこかで会いましたの。」

心乃の直撃言葉で、時雨にびっくりさせた。はずかしがり屋の時雨は、ほほがまっかで、慌てて何も考えずに、冷静みたいな顔をして即答した。


「ああああああああ!心乃ちゃんが私に直接話しかけた!せっかくのチャンスなのに、何なのその反応、馬鹿じゃないのわたし、きっと嫌われちゃう!」

時雨の恥ずかしさは限界をこえ、はなしがおわってからすぐトイレの方へ驀進(ばくしん)した。


「あの子、変だもんね。わたしのことにふりをして逃げたんだ」

時雨のことは、心乃の心の中、芽生えていく。


1年前 都立上竜国民中学校 


時雨はいつも独りぼっちではない。中学校の頃、一人の女の子が時雨と一緒に遊んでいた。

「時雨ちゃん、ピアノ上手ね、もっと聞きたい!」


「はいはい、仕方ないわね、じゃ、もう一曲、聞かせてあげるわ」


優美なリズムの中で、天国にいるように、二人の少女が音楽室ではしゃぎしていた。

「こういう光景、終わりたくない、わすれたくない。」時雨はこう思った。


「時雨ちゃん、夏休みどこかへ旅に出ようか、せっかくの休みだし。能川の砂浜海岸っておもしろい、それとそれと、九愛山もいいね!」


「エリカちゃんと一緒でいたら、どこでもいいわ」



「きのう午後十時、宇文市の一軒のビルで火災が発生しました。一人の死者が確認、都立上竜国民中学校三年生の 栗部恵梨香です。」


残念ながら、一日後、こういうニュースが出た。

この記事を聞いた時雨は、雷鳴の如き鳴き声がでて、落ち込んでばかりいた。

あれ以来の放課後、時雨は音楽室でピアノを弾き、友人を記念する。


「エリカちゃんは今日も私の音楽を聞くかな」


夕暮れ時、オレンジ色に染まる音楽室、小鳥の歌がまた囀り始める。


「🎶木漏れ日、ひかりがさす、ともよ、また会おう🎶」


「何の素敵な声でしょう、どこで発出したの」


心乃は時雨の歌声を聞き、音楽室にむかっていく。


「あのう、名前、聞かせてくださいますか。」


「ギューっ」

時雨は心乃の急な訪れに驚かれ、ピアノの演奏を中止し、慌てて教室を逃走する。


「あの子、もしかして、わたしのこと、嫌いなの?」


「おい、待ってよ、聞きたいことがあって。。。」


「バカバカバカバカ、また逃げるの、早く戻ってごめんなさいって言うべきじゃないの、でも足、とどめられない」

戻ろうとする時雨は、足がとどめずに学校を出て、家の方に向かう。









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