第7話 ギャビ―=コルト
「ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ………………」
息が尽きるまで叫ぶと、リーゼはふらついてしゃがみ込んだ。
「リーゼ? お~い、大丈夫か?」
「……すみません。その、あまりにもショックで……うぅぅ……」
本当にショックだったのだろう。顔色を青くして、涙まで浮かべている。
「だよなぁ。まぁあれだ。アカデミーに入学出来ねぇのは残念だけど、俺達が友達なのは変わらねぇからさ! 俺もしばらくはこの街にいるだろうし。適当に遊びに行くわ」
「ぇ、と、はぁ……」
フィストは気楽に言うのだが、リーゼの慰めにはならなかったらしい。
「アカデミーは関係者以外立ち入り禁止だぞ」
話を聞いていた門番がそんな事を言ってくる。
「マジか。じゃあ、リーゼが遊びに来いよ。それならいいだろ?」
「そ、そうですね……アカデミーは授業や実習で忙しいので、あまり遊びには行けないと思いますが……は、ははははは……ひぐっ」
精一杯笑みを浮かべようとしているようだが、途中で挫けて涙を零した。
「マジか。なぁおっさん。なんとかならねぇか?」
「おっさんではない。お兄さんだ」
怖い顔をさらに怖くすると。
「見せてみろ」
フィストから推薦状を受け取る。
中身を覗いて、門番の眼つきが鋭くなった。
「これはっ!」
お、いけそうか? と期待していると。
「字が汚すぎて全然読めん!」
ガクッと、フィストが肩でこける。
「だぁぁ! あのクソ師匠が!?」
本当に役に立たない師匠である。
「そもそも君はなんなんだ? これは、なにかの冗談なのか?」
訝しんで、門番が聞いてくる。
「いや、俺もよくわかんねぇんだけどさ。師匠がここ通えって。卒業生だから、その推薦状があればどうにかなるだろとか言われて持たされたんだけど」
「師匠……なんという名だ」
顔は怖いが良い人らしい。親身になって、そんな事を聞いてくる。
フィストは考え込み、頭を捻った。
「そういや俺、師匠の名前知らねぇわ」
かくん、とリーゼと門番が肩でこける。
「フィストさん!?」
「本当、なんなんだ、君は……」
「いやだって、気付いたら一緒に居たし、その頃から師匠だったし。名前とか、気にした事もねぇよ」
言ってから、フィストはハッとして手を鳴らした。
「もしかして、シショウって名前とか!」
「……あり得なくはないが、だとしたら、心当たりはないな」
「いや、ありえないですよね!?」
ツッコんでから、リーゼは推薦状を覗き込んだ。
「うわ! 本当に汚い!」
自分なら読めるかもしれないと思ったのだろうが。そちらについては諦めたらしい。
「でも、あの! フィストさんは物凄く強いんです! さっきも、私が新入生の男の子に乱暴されそうになってた所を助けてくれて!」
「吸魔症に対する偏見か。可哀想にな。だが、ダメなものはダメだ」
「いえ、そういう事ではなくてですね! とにかく、フィストさんは物凄く強いんですよ! その時も、相手の放った魔術を素手で払っちゃったんです!」
「魔術を、素手で……まぁ、かなり加減した攻撃なら、出来なくもない、か?」
こんな奴がか? と疑うようにフィストを眺めつつ、門番が呟く。
「最初のは弱かったですけど、最後のはこのくらいの威力がありました!」
リーゼが右手を上げると、掌の上に先ほどの少年が放ったのと似たような炎の槍が生まれた。
「まさか。流石にそれは……」
疑ってから、門番はフィストに聞いた。
「本当か?」
「いいや」
「フィストさん!?」
ギョッとして、リーゼが叫ぶ。
「いやだって、握りつぶしたじゃん? 弾いたら火事になりそうだったし。やれって言われたら出来るけど。やるか?」
「面白い。やってみろ」
門番に言われて、フィストはリーゼがやりやすいように距離を取った。
「いーぞ。弾くか、握るか?」
「握ってみろ。そちらの方が難しい」
「あいよ」
「行きますよ!」
答えると、待っていたリーゼが腕を振って炎の槍を放った。
リーゼの放った炎の槍の方が、形がしっかりして真っすぐ飛んでいる。そんな事を思いながら、フィストはあっさり握り潰した。
順番を待っていた野次馬達が、うぉ!? マジかよ!? と驚きの声をあげる。
「それが限界か?」
門番は驚いたようには見えないが、よく見れば片方の眉が少し上がっていた。
「いや、全然余裕だけど」
「ね! 凄いですよね! これだけの事が出来るんですから、その師匠って人も、凄い人だと思うんです! 卒業生って事は、勇者って事ですよね! アカデミーには、三級以上の勇者による推薦入学制度があるはずです!」
必死になってリーゼが言う。助けようとしているのだろう。良い奴だなとフィストは思う。
「そんな事は知っている。だから、この推薦状の主を知りたいんだ。が、分かった所で難しいだろうな。指輪が反応しないのなら、この推薦状は正規の手続きで書かれた物じゃない。惜しい才能だとは思うが」
言葉通り、門番は口惜しそうではあった。
「難しいって事は、名前が分かればワンチャンあるかもしれねぇのか?」
「約束は出来ないが、可能性はある」
「なにか思い出したんですか?」
期待して、リーゼが聞いてくる。
「いや。けど、俺だったら師匠の字、少しくらいは読めるかもと思って」
門番から推薦状を返してもらい、目を通す。
「なんだ。師匠にしては綺麗に書いてるじゃん」
フィストは拍子抜けした。全然読める。一応、師匠なりに気を使ってくれたらしい。普通の人には読めないようだから、あまり意味はなかったが。
「その字が読めるんですか!?」
「なんと書いてある」
「あー。『あたし、ギャビ―=コルト。一級勇者で拳聖。こいつの師匠。こいつアカデミーに入れてやって。ダメそうな感じだったらカイルに相談して。よろぴく~』だってさ。へー、師匠ってギャビ―ってんだ。全然師匠って感じしねぇな」
知った所で、しっくりこない。フィストにとっては、師匠は師匠という事らしい。
そんな事より、二人はかなり驚いたようだった。
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