第37話:妹の彼女達とケリを付けてみた
なんでだろうか。
20年近く暮らしてきた我が家だというのに、今日はやけにいつもと違って見える。
その理由は、リビングに集まった5人の美少女達が原因なのだろうか。
「……ひかり、さっきはよくもやってくれましたわね?」
「私に断り無く、抜け駆けなんてするからよ。それに、目的の為とはいえお兄さんに痛い目を遭わせるなんて……許しがたい行為だわ」
「そ、そこに関しては……我を失っていたと言いますか」
「そうですわね。強引な手段だった事は認めますわ。お兄様……ごめんなさいですの」
「……謝って許される事ではないと分かってはいますが、申し訳ございません」
まずはカレンちゃんとマドカさんがひかりさんとバチバチに牽制しあうも、最終的には折れた2人が俺に頭を下げてくる。
「いや、もういいんです。これまで、みんながやってきた事は……全て水に流します。その上で、俺は俺の決断をみんなに受け入れて欲しい」
「……なんつうか、真面目に落ち込んでいたアタシがアホらしくなってきたよ。まさかみんな、そんな強引な手を使っていたなんて」
「むしろ正攻法で告白したしのぶが失敗したからこその、ワタクシ達ですの」
「ええー!? お兄ちゃん、しのぶちゃんの告白も断ってたの!?」
「……そうだよ。だからアタシにはもう、きららしかいないんだー」
しのぶは照れ隠しなのか、おどけた調子で隣に座るきららに抱きつく。
それを受けて、きららは嬉しそうに顔をニヤけさせる。
「きゃーっ! しのぶちゃんのえっちー! もっとしてー!」
「こらこら、イチャつくなら後にしてくれ」
仲睦まじいのはいいが、これでは話が進まない。
そろそろ、俺が話を切り出すべきか。
「もうすでに全員知っていると思いますが……この場にいる全員が、どういうわけか俺の事を好きでいてくれているみたいで」
「どういうわけって、ちゃんとした理由があるでしょ。アタシは母さんの虐待から救ってもらった上に、兄貴に夢を後押しして貰った」
「変態に殺されそうになっていたところを、身を挺して庇って貰えましたの」
「前世での恋人同士だから当然ですよ? エクリプス王国に攻め入られて、滅ばされた小国の姫と騎士。だからこの世では結ばれる事が運命で決められていたんです」
「大和君は、誰も見ないような私の陰の努力に気付いてくださりました。きっかけは他の皆様より弱いかもしれませんが……」
「理由なんか無いよ。産まれた時……ううん、お母さんのお腹の中にいた頃から、私はお兄ちゃんが大好きだもん!」
「……改めて、ありがとう。みんなの想い、愛の深さはよく伝わったよ」
俺とした事が野暮な事を言ってしまったな。
理由なんて、どうだっていいじゃないか。
大事なのは、みんながちゃんと俺の事を愛してくれているという事だけ。
「だからこそ、俺はみんなの気持ちに……誠実に応えたい。嘘偽りの無い、心の底からの気持ちをぶつけるつもりだ」
「「「「「…………」」」」」
みんなが口を閉ざし、俺の方へと視線を集めてくる。
次に俺が口にする決着の一言を……じっと黙って待ち侘びているようだ。
「みんなのお陰で、俺は自分の気持ちに気付けた。自分がどうしたいのか。どういう結論を導き出すべきなのか、理解出来た。だから、それがどんな答えであっても……みんなにはそれを受け入れて欲しい」
「「「「「……」」」」」
全員が一斉にコクリと頷く。
俺はそれを見届けると、みんなの不安と緊張をほぐす為に……自分に出来る精一杯の笑顔を浮かべ、口を開いた。
「俺は……きららが好きだ」
「!!」
「さっきのきららの言葉じゃないけど、きららが母さんのお腹の中にいた頃から……産まれるのが待ち遠しくて。産まれた瞬間、こんなに可愛い存在がいるのかと思った」
「お兄ちゃん……」
「それから数年が経って、それなりに物事を考えられるようになって。兄と妹が付き合えない事を理解した。だから、俺は男としてではなく……兄として、きららという最愛の女性を幸せにする事だけを目標に生きてきたつもりだ」
「……うんっ、うん! 私、お兄ちゃんのお陰で幸せだよ。今までも、これからもずっと……!」
感極まったのか、きららは泣きながら何度も何度も頷いてみせる。
俺もつられて泣いてしまいそうだったが、話はまだ終わっていない。
必死に涙を堪え、俺は言葉を続ける。
「でも、きららに沢山の彼女が出来て。俺の事を好きだなんて事は知らず、いろんな誘惑を受けてきて……俺は何回もコロッと堕ちそうになった。自分でも情けないと思うほど、きららを裏切ってしまいそうになったんだ」
ひかりさんに脱衣所で誘惑された時も、しのぶにカラオケで迫られた時も、クルーザーの上でカレンちゃんとゲームした時も。
気絶していなければ、手を出してしまっていたかもしれない。
「マドカさんとの仮恋人関係も、その後の別れでも。こんなに綺麗で優しい人と付き合いたいって本気で思った。俺は、自分でも嫌になるくらい……意思の弱い人間だ」
「大和君……」
「ひかりさんは俺の事を助けてくれるし、傍にいてくれるとホッとする」
「お兄さん……」
「しのぶに対しては俺が傍にいて守ってやりたいって感じるし」
「兄貴……」
「カレンちゃんにはいつでも甘えて欲しいと思う」
「お兄様……」
「そしてきららは……俺の可愛い妹。手も掛かるし、だらしないし、アホな事ばかり言っているけど――それでも、大好きな妹なんだ」
「お兄ちゃん……!」
「この中で誰か一人だけを選ぶなんて、俺には出来なかった。だから、俺は――」
俺はソファに腰掛けているみんなの前で膝を突き、そのまま頭を垂れるようにして床の上に頭を擦り付けた。
いわゆる、土下座のポーズを取り……俺は自分の思いの丈を全てぶつける。
「みんな! 俺にもう少しだけ、時間をください!」
「「「「「えっ!?」」」」」
俺の答えが予想外だったのか、全員が一斉に素っ頓狂な声を出す。
「ど、どういう事なの!? ここで答えを出すんじゃなかったの!?」
「そうですよ、お兄さん! 私のハーレム案を受け入れるか、受け入れないのか!」
「もしくは、アタシ達の誰か一人を選ぶのか……まぁ、すでに振られているアタシにはその可能性は無いんだけどさ」
「お兄様、説明してくださいませ」
「大和君、まさか……答えが出せずに、先延ばしにするつもりですか?」
「いや、ごめん。そうじゃないんです。言い方が悪かったですね」
総ツッコミを受けて、俺は冷や汗を流しながら頭を上げる。
みんなのジトっとした瞳を受けつつも、俺は本当に言いたかった事を伝える。
「みんな! 俺のモノになってくれ! ひかりさんも、しのぶも、カレンちゃんも、マドカさんも……きららも。全員、俺と付き合って欲しい」
「「「「「ほぇ!?」」」」」
「俺はもう逃げない。例え世界に後ろ指をさされる事になっても、誰になんと言われようとも、俺は俺の好きになった人達を――幸せにしたい。それが俺の答えだ」
俺は全員の目をまっすぐに見据え、ハッキリとそう告げる。
その言葉が衝撃的だったのか、誰もが硬直して……口を何度もパクパクさせていたのだが、やがて最初に――ひかりさんが動き出す。
「っしゃああああああああああああああああああああっ!」
天高く右手を掲げ、感極まった様子で叫ぶひかりさん。
「ふ、ふぇっ……! ふぇええええええええええええええええんっ!」
続いて、しのぶが両手で顔を押さえながら大号泣を始める。
「やりましたわ。投稿者、変態監禁お嬢様。7月26日(水)19時14分22秒。先日監禁したお兄様(20)と連絡をくれた彼女達(4人)とワタクシ(10)で、家の中で愛を誓い合いましたの」
カレンちゃんはパニックになっているのか、何やらブツブツと呟きながら、スマホを高速でタップしている。
「大和君。私は……信じていました。でも、あれ? おかしいですね。信じていた筈なのに、分かりきっていた筈なのに……涙が、ひっく、止まらない……」
マドカさんは笑顔のまま、涙の雫を頬に伝わせていた。
「……ちぇー。最初は私の一人勝ちだと思ったのになぁ」
きららは、ほんの少し不満げに唇を尖らせていたが、すぐにいつもの可愛らしい微笑みを浮かべると……トコトコと俺の傍に駆け寄って、抱き着いてくる。
「えへへっ! だけど、これが一番いいのかもね! 私も、お兄ちゃんも、みんなが幸せになれるもん!」
俺の大好きな妹が、みんなが……嬉しそうに笑ってくれている。
それが見られただけでも、俺こそが世界一の幸せ者なのかもしれない。
「これよ! これが私達の待ち望んだハッピーエンドなのよぉぉぉっ!」
「兄貴ぃっ……しゅきぃ……あたし、もう絶対ダメだって思ってたのにぃ……ふわぁぁぁぁぁんっ! 兄貴だいしゅきぃぃぃぃっ!」
「あぁ~、たまりませんわ」
「夢みたい……ああ、これが現実なら、どうか醒めないで」
なんだか全員、感極まって少々様子がおかしくなりつつあるのか気になるけど。
「あっ、でも。お兄ちゃん、どうしてさっき……時間が欲しいって言ったの?」
「おっと、そうだ。それが一番大事なんだった」
俺がなぜ、素直にみんなに告白せずに、時間をくれと言ったのか。
その説明をする必要がある。
「俺はみんなを受け入れたい。でも、その前にやらなければいけない事がいっぱいある」
「やらなければいけない事?」
「ああ。そもそも、今の日本じゃ重婚は認められていない。さらにそこに実の妹も含まれているなんて、どう足掻いても世間から非難を受けるだろ?」
「そんなの、クラウディウス家の権力を使えば……!」
「確かにそれも一つの手ではある。もしもこの先、本当に困った時にはカレンちゃんの家を頼るかもしれない。日本に居場所が無くなったら、あの無人島みたいな場所に引っ越すとか」
「ああ、あの島ならいいね。音楽活動もできそうだし」
「周囲の目を気にしないで、好きなだけズッコンバッコン出来そうだものね」
「私と大和君の……運命の場所。素敵です」
「うーん。お兄ちゃんが何かしなくても、世間の目なんて気にする事なくハーレム出来そうだと思うけどなぁ」
「世間に対してはそうかもな。だけど、それとは別に……みんなの家族に、俺はハーレムを認めて貰いたいんだ」
「「「「「!?」」」」」
「俺達の両親は勿論、ひかりさん、カレンちゃん、マドカさんの両親。しのぶは……親戚の方だけではなく、本当のご両親にも」
「どうして、そんな……」
「それが俺のケジメだ。今言った全員に許しを貰えるまで、みんなには俺と付き合うのを待っていて欲しい」
そう答えて、俺はもう一度頭を深々と下げる。
「そんなの無茶ですわ。お父様にバレたら、お兄様が消されかねませんわ」
「うっ! ちょっと怖いな」
「うちの親は、私に無関心だから。簡単に許してくれそうだけど」
「それはそれで問題だから。そっちはそっちでなんとかする」
「……伯父さんや父さんはともかく、母さんは無理だと思うけど」
「無理でも、俺はやり遂げたいんだ」
「大和君。言いにくいのですが、私の両親は既にいません」
「ごめん……知らなかった」
「お兄ちゃん、お父さんとお母さんを説得とか絶対に無理だよ! 最悪、引き離されちゃうかも!」
「かもな。だけど、そうなるのも……覚悟の上だ」
ひかりさんやマドカさんを除き、ほとんど全員が批判的な意見のようだ。
「それくらいの無茶をやれないような男が、5人もの女の子を同時に幸せになんて出来ないよ。だから、それを成し遂げる日まで。何週間、何ヶ月、何年かかるか分からないけど……みんなには、待っていて欲しい」
「お兄ちゃん……」
「だけど、これだけは必ず約束する。俺は今よりももっと成長して。みんながこれから先永遠に、俺を選んだ事を後悔しない程の良い男になってみせる!」
「後悔なんてするはずがありませんよ、お兄さん」
「兄貴が今より良い男になったら、アタシ達がおかしくなっちゃうっての」
「ワタクシ達もその間に、お兄様に見合う素敵な淑女に成長しませんとね」
「大和君が選んだ道なら、それがどんなに険しくても……私は応援します」
「もう、しょうがないなぁ。お兄ちゃんってば、一度言い出すと聞かないし。やれやれ、困ったお兄ちゃんだよ」
「おいおい、お前が言うのか、それを」
「あいたぁーっ!? デコピンはやめてぇーっ!」
きららの悲鳴をきっかけに、笑い声が起きる。
みんな本当に楽しそうに、嬉しそうに笑ってくれている。
「ああ、やっと。俺は……」
ずっと見たかったものが、そこにはある。
俺を好きでいてくれる女の子達が。
俺が大好きな女の子達が。
幸せに笑い会える、そんな光景が。
「っとと、いかんいかん。気を緩めている暇は無いぞ」
泣きそうになる顔にパチンと一喝の一撃を入れて、俺は気を引き締める。
一日でも早く、彼女達全員を彼女として受け入れられるようになるんだ。
本当に大変なのはこれからなのだから。
「ねぇねぇ、お兄ちゃん! 待っている間は、キスはオッケーなの!?」
「駄目」
「え? ではえっちな事も駄目なんですか? ぐちょぐちょのぬっぽぬっぽも?」
「当たり前だよ」
「じゃあ兄貴と一緒にカラオケは?」
「それはアリ」
「お兄様への欲求が我慢出来なくなったら、どうしますの? ワタクシの理性はお札よりも軽いんですのよ?」
「そうなったら、俺は逃げる」
「大和君を誘惑して、大和君から手を出してきた場合はどうなりますか?」
「出さないですよ。俺は、この約束を絶対に破らない。だから、マドカさん……俺の力になってくださいね?」
「なんかお兄ちゃん、マドカさんだけやたら優遇してなーい? 怪しいなぁ」
「そうよそうよ! 抜け駆けメイドの優遇はんたーい!」
「はんたーい!」
「反対ですわー!」
「そ、そんな……お嬢様まで!?」
道は険しい。先は思いやられる。
だが、彼女達がいてくれれば、俺はきっとやり遂げられる。
「そりゃまぁ、一途系銀髪片目隠し巨乳メイドとか……属性強すぎるし」
「「「「うがぁー! やっぱり!!」」」」
「大和くーんっ!?」
俺はそう、信じている。
【次回 エピローグ 妹の彼女達が俺を狙っていた】
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