第36話:近付く運命の時
窓ガラスをナタで叩き割り、部屋の中へと入ってくるきらら。
土足でガラスを踏む度に、ジャリッという耳障りな音が鳴る。
「ひかりちゃん? どういうつもり?」
「見て分からない? お兄さんに犯してもらおうと思っていたところなの」
「……」
煽るようなひかりさんの言葉を受けたきららは、手にしたナタを構え、殺人鬼のような瞳でひかりさんを睨む。
「ずっと騙していたの? お兄ちゃんを手に入れる為に、私を……! みんなで私を騙していたんだっ! あああああああああああっ!」
振り回したナタが床に突き刺さる。
何度も何度も、きららは怒りに満ちた叫びを上げながらナタを振り下ろし続ける。
「違うわ、きらら。私も、他のみんなも。決して、お兄さんだけを狙っていたわけじゃないの」
「ふざけないでっ!」
「いいえ、ふざけてなんかいないわ。むしろ、私が文句を言いたいのはアナタの方よ、きらら」
ひかりさんは一糸まとわぬ状態で、ゆっくりときららへと近付いていく。
馬鹿な。今のきららに不用意に近付くなんて、自殺行為だ!
「きらら。アナタの方こそ、私達の事を本当に愛していたの?」
「愛していたよ! 好きだったよ! それなのに!」
「嘘よ。アナタは本気で私達を愛してなんかいなかった。お兄さんに変な虫が寄り付かない為に、絶対に手を出せない妹の彼女という壁を利用して、お兄さんの意識が他に向けられないようにしていたんでしょう?」
「っ!?」
「自分で言うのもなんだけど、これだけの美少女が傍にいれば、他の一般人なんてどうでもよくなるわよね。実際、お兄さんは私達にくらっと来ていたみたいだし」
「……違う、私は」
「いいえ、違わない。アナタは私達を利用した。それと私達がアナタを利用してお兄さんに近付いたのと、何が違うというの?」
ひかりさんの言う事は正論だ。
もしも本当に、きららがそんな理由で美少女ハーレムを作っていたのだとしたら。
それは彼女達と同じ。相手の気持ちを利用したという事になる。
「私は世界で一番、大和さんが大好き。でも、二番目は間違いなくアナタよ、きらら」
「そんなのっ!」
「アナタだってそうでしょ? 私達の誰よりも、お兄さんを愛してる」
「……っ!」
「私達は同じよ、きらら。同類なの。最低で、どうしようもない」
「やだぁっ……! そんな事言わないでよぉっ! やだやだやだぁっ!」
「……ごめんなさい。でも、アナタには知っておいてほしかったの」
子供のように泣きじゃくるきららを、ひかりさんは抱きしめる。
そして、その手を頭に回して……よしよしと撫でた。
「お兄さんへの愛で、私達は狂ってしまった。このままだと、私達は誰も幸せになんかなれない。だけど、一つだけみんなが幸せになれる方法があるの」
「みんなが幸せになれる方法……?」
「ええ。きらら、アナタがハーレムを作るんじゃなくて。お兄さんがハーレムを作ればいいのよ」
「お兄ちゃんが、ハーレム?」
「ええ。私も、しのぶも、カレンも、マドカさんも……そしてアナタも。全員がお兄さんに愛して貰えればいい。そうしたら、私達も一緒に愛し合うようなものでしょ?」
こんな風に、と続けてひかりさんがきららの唇を奪う。
きららは一瞬だけ大きく目を見開いたが、抵抗する事なく、そのキスに身を委ねる。
「んっ、ちゅっ……ふわぁ、お兄ちゃんの味がする」
「ええ。さっきまでキスしていたもの。お兄さんと私のミックス味はどう?」
「……おいひぃ。もっとしてぇ」
「ええ。いくらだってしてあげるわよ、きらら」
妹と、その彼女が俺の目の前でキスをしている。
舌を絡め合い、唾液をお互いにすすり合う、深いキスを。
「これ、いい……」
「でしょう? だから……ネ? こうなったらもう……ネ?」
「うん。分かったぁ」
キスを終えた2人が、くるりとこちらを振り向く。
合計四つの瞳は、ギラギラと輝きを放ちながら――こちらを見つめている。
「お兄ちゃん。もう、いいでしょ? 私ね、今までいっぱい、いっぱい、我慢してきたんだよ? 本当の気持ちを抑えて、蓋をして。お兄ちゃんの可愛い妹を演じてきたの」
「き、きらら。落ち着け、まずは話を……!」
俺はズボンの乱れを直しながら、ゆっくりと後ずさる。
幸いにも、俺の後ろには玄関へ続く廊下があった。
「もう嫌なの。私はお兄ちゃんが欲しいの。お兄ちゃんに愛されたいの。お兄ちゃんに女として見られたいのっ! それがどうしていけないのっ!!」
「きらら……!」
「お兄さん。どうするんですか? 女の子が、こんなにも必死に告白しているというのに、まさか……答えをはぐらかすつもりじゃないですよね?」
「……」
ひかりさんの言う通りだ。
俺は答えを出さないといけない。
正直に言うと、俺の方だって限界だった。
良い兄貴として、妹を守らないといけない。
そんな建前の為に、俺が今までどれだけ……自分の気持ちを押し殺してきた事か。
「分かった。決着を付けよう」
「「!!」」
「でも、頼む。もう少しだけ待って欲しい。俺の答えは、しのぶやカレンちゃん、マドカさんにも聞いてほしいから」
「……ええ、それがいいですね」
「もう、私達だけの問題じゃないもんね」
「ああ。みんなに連絡して、俺達の家に集まって貰おう」
妹が美少女ハーレムを作ってから、ずっと。
悶々としたり、苦悩したり、色々な事があったけど。
その決着は、もうすぐそこまで迫っている。
俺の手で、全てにケリを付けるんだ。
<<最終運命分岐>>
A「俺は誰も選ばない」
B「俺はみんなを受け入れる」
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