第35話:ひび割れゆく理性
「お兄さん、こちらへどうぞ」
「あ、ああ。ありがとう」
カレンちゃんの屋敷に監禁されていた俺は、ひかりさんの手引によって無事に脱出する事が出来た。
そしてそのまま、ひかりさんのアパートに一時避難する事になったのだが。
「なんだか、恥ずかしいです。お兄さんが、私の部屋に来るなんて」
「俺も、きらら以外の女の子の部屋に入るなんて初めてで緊張するよ」
靴を脱ぎ、そのまま奥の部屋へと向かう。
しかし、本当に不思議だ。
どうしてこんなにも、女の子の部屋っていうのは良い匂いがするのだろうか。
「散らかっていますけど、気にしないでくださいね?」
「ああ、大丈夫。そういうのは、きららの部屋に慣れて――え?」
その部屋に入った瞬間。
俺の目に飛び込んできたのは……壁一面に、ありとあらゆるところ埋め尽くすように貼られた俺の写真であった。
「こ、これは?」
「ふふっ、驚きましたか? これ、ぜーんぶ隠し撮りなんですよ?」
クスクスと笑いながら、ひかりさんはピチピチのボディスーツを脱ぎ始める。
どたぷんっと、大きな乳房が溢れる瞬間が見えたので、俺は慌てて視線を違う方向へと背けたのだが――その先ではソフトクリームを舐める俺の写真があった。
「あ、それはお気に入りなんです。お兄さんの舌使いがとってもエッチだったので、動画も保存しているくらい」
「……そうなんだ」
落ち着け。落ち着くんだ。
これくらい、許容範囲。まだ慌てるような時間じゃない。
「ふぅ……この潜入スーツは蒸れますね。ノーブラノーパンが正装らしいんですが、乳首は擦れるし、汗だくになっちゃうし……」
「……」
「やだ、お兄さんの近くで、すみません」
「いや、いいんだけど」
いけないとは分かっていつつも、ちらとひかりさんの方に視線を向けてしまう。
彼女の言うように、綺麗な肌にはじわりと汗が滲んでおり、特に際立って蒸れていたらしきアソコからは……ムワッという擬音が聞こえてきそうな感じだ。
「お兄さん? どこを見ているんですかぁ?」
「ご、ごめんっ!」
いかん。ひかりさんに救出されるまでの間、ずっとカレンちゃんやマドカさんに嬲られ続けていたせいか……思考がエロくなっている。
「いいんですよ。私、お兄さんになら何をされたって構いませんし」
「……でも」
「こんな格好じゃ、まともに話せませんよね。軽くシャワーを浴びてきますので、それまでここで待っていてください」
そう言い残して、ひかりさんは浴室の方へと向かっていった。
部屋に一人残された俺は、とりあえず座って待つ事にする。
「……」
中央にテーブル。脇にはピンクの布団のベッド。
可愛らしいぬいぐるみも置いてあって、実に女の子らしい部屋だ。
壁一面に俺の写真が貼られていなければ、の話だが。
「……ひかりさんも、か」
あのひかりさんが、ここまで俺の事を好きだったなんてな。
そりゃあ、見知らぬ女がこんな真似をしていたら、気色悪くて仕方ない。
しかし、あんなにも可愛くて、良い子にこれほど愛されて……悪い気なんてない。
「だけど、どうして……」
きっと彼女も、カレンちゃんやしのぶのように、俺を好きになったきっかけがあるのだろう。それなのに俺は、どうしても思い出せずにいる。
俺はなんて酷い男なんだ。
女の子達をこれほどの狂愛に落とすきっかけを作っておきながら、それを忘れてのうのうと暮らしているなんて。
「しのぶ、カレンちゃん……マドカさん」
当時の俺はきららしか目に入らなかった。
きららが好きで、大切で、愛していて。
あの子の為に、俺は産まれてきたのだと……あの頃も今も、そう信じている。
「…………」
でも、そんな俺の考えも少しずつゆらぎ始めていた。
きららの彼女達やマドカさんを可愛いと思う。
きららに向けるのと同じような感情が芽生え始めている事が、自分でも分かるんだ。
「俺は……どうすればいいんだろうか」
葛藤は尽きない。
チクタクと時計の針の音だけが響く一室で、大量の俺の写真に囲まれながら……俺はただひたすら、頭を悩ませ続けていた。
「お待たせしました、お兄さん」
そうこうしている間に、ひかりさんが戻ってくる。
じっとりと濡れた髪。
裸にバスタオルを巻いた状態の彼女の姿は、なんとも股間に悪い。
「そんな格好、風邪引くよ?」
「最近暑いですから、大丈夫ですよ。それよりも……」
ひかりさんはテーブルを挟んで、俺の向かい側に腰を降ろす。
そして、俺の瞳をまっすぐに見つめながら――口を開いた。
「単刀直入に言います。私は、お兄さんが好きです」
「!」
「ずっとずっと、お兄さんが大好きでした。だから、私と付き合って欲しいんです」
力強い瞳だった。
何の迷いも躊躇いも無い。
俺の事を本気で愛しているのだと分かる、そんな表情だった。
「……どうして、俺なんかを?」
「理由、必要ですか?」
「え?」
「好きになった過程や理由なんて、どうでもいいじゃないですか」
「そう、かな?」
「はい。それともお兄さんは、好きになる正当な理由があれば、それだけで相手を受け入れるんですか?」
勿論、そんな事はない。
確かにそう言われれば、どうして俺の事を好きなのか、なんてどうでもいい。
だって彼女はこんなにも、俺の事を愛してくれているのだから。
「ありがとう。すごく嬉しいよ、ひかりさん」
「あっ……」
「正直言って、俺も君の事が好きだ。魅力的だと思う」
「あっ、あっ、ちょっとイク……」
俺が喋る度に、ひかりさんの体が小刻みに揺れてビクンビクンとしている。
それは気になったが、俺は話を続ける事にした。
「だけど、ごめん。君の気持ちは応えられない」
「……」
「だって俺は、きららの事を……」
「待ってください」
「え?」
「私の気持ちって、なんですか?」
「??」
ひかりさんの言っている意味が分からず、俺は首をかしげる。
「私はお兄さんの事が好きですけど、別に付き合ってほしいわけではありません」
「そう、なのか?」
「はい。ただ、お兄さんの好きな時に……お兄さんが欲望を発散する相手として、私を選んでくださるだけでいいんです」
ひかりさんは四つん這いのポーズになると、そのまま床を犬のようにてくてくと進んで……俺の方へと迫ってくる。
重力に引かれた巨大な胸が、それはもう揺れる揺れる。揺れるとも!
「責任なんて取らなくてもいいんですよ? 無責任に中出しして、孕ませて、我関せずでも構いません。私を愛してくださるのなら」
「そんな……馬鹿なことを!」
「馬鹿なこと? なぜ、それが馬鹿な事になるんですか?」
ひかりさんは俺を押し倒し、俺の上に馬乗りになる。
その気になれば、抵抗は出来たかもしれない。
でも、彼女の有無を言わせぬ迫力に、俺は怯んでしまった。
「お兄さん。例え話をしましょうか」
「……?」
「アナタは今、灼熱の砂漠を飲まず食わずの状態でさまよい続け、喉がカラカラです。今すぐにでも水を飲まなきゃ、死んでしまうでしょう」
「……」
「そんな時、大量の水を持った人が通りかかります。アナタはその人に、どうか水を恵んでくださいと頼みました」
いまいちピンと来ない話だ。
彼女は一体、何を言いたいのだろうか?
「しかし彼は、こう答えます。この水は全て、俺の妹に上げる為のものだ。だから君には一滴もあげられないと」
「あっ」
「アナタは食い下がります。そんなに水があるなら、一口くらいならいいだろうと」
「……」
「さて、ここで本題です。このままアナタを見捨てて去っていく人と、条件付きとはいえ水を恵んでくださる人。どちらが残酷だと想いますか?」
彼女が言いたい事が分かった。
つまり水とは、俺の愛情の事をさしているらしい。
「それとこれとじゃ、話が違うよ」
「いいえ、違いません。だって私も、しのぶも、カレンも、マドカさんも。アナタという水が無くては生きてはいけないんですから……んっ、ちゅっ」
ひかりさんは潤んだ瞳で俺の顔に近付き、唇を奪ってくる。
つい最近まで、キスの経験はきららだけだった俺が……これでもう、しのぶ、カレンちゃん、マドカさん、ひかりさんと……一気に経験人数が5人に増えたな。
「お兄さん。私は、知っています。お兄さんの愛情が、それこそ大海のように大量に溢れているという事を」
「……」
「ツバを吐き捨てる感覚でいいんです。鼻をかむように、トイレで排泄をするように、ふとした時に私達の事を思い出して――愛してくれれば」
ハラリと、ひかりさんの身に纏っていたバスタオルが落ちる。
そうして顕になった彼女の裸体の、なんと見事な事か。
ずっと半端な刺激を与え続けられ、敏感になっていた俺の分身は――すぐに臨海体勢となり、俺の上に乗っていたひかりさんのお尻を押し上げる。
「あんっ! すっごぉい……♪」
ズボン越しの感触を受けて、ひかりさんは赤い舌をチロリと出して舌なめずり。
獲物を狙う蛇のような目で俺を見下ろしてきた。
「お兄さん。もう、限界ですよね? ずっとずぅっと、きららに射精管理されて、カレンやマドカさんに半イキさせられて。溜まりに溜まった欲望を、びゅるびゅると吐き出したいんですよね?」
ひかりさんの手が、俺のズボンのチャックへと伸びる。
じじじっと、ゆっくり下ろされていくチャック。
そうして完全に開ききった瞬間、俺の股間は凄まじい勢いで飛び出し、バチンッとひかりさんのお尻を叩いた。
「ひゃっ! もう、お兄さんったら……!」
もはや、俺の頭には理性もへったくれも無かった。
俺の中の雄が。本能が。
目の前の女を、雌を、喰らえと囁いている。
「いいんですよ? この欲望を私の中に注ぎ込んでください。ね?」
もう、いいじゃないか。
俺は頑張ったんだ。でも、もうこれ以上は無理だ。
こんな状況で、断れる男なんて――
「お兄ちゃん……何、してるのかなぁ?」
その時だった。
「!?」
バリンッというガラスの割れるような音。
ハッとして音の方向へと視線を向けると、ベランダへと続く窓にべったりと顔を張り付かせながら、こちらを覗いている少女の姿があった。
「あら、思ったより早かったわね」
「きらら……?」
鬼のような形相で、刃渡り30センチは越えそうな巨大なナタを右手に持っているその姿は――一瞬、本気で誰だか分からなかった。
「ああああああああああああああああああああああっ!」
きららがナタを振り上げ、そしてソレを振り下ろす。
既にヒビの入っていたガラスは呆気なく砕け散っていく。
「お兄ちゃん……やっと、会えたね」
そこにいるのは、果たして本当に俺の妹なのか。
そう疑ってしまう程に、今のきららはとても恐ろしかった。
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