第34話:救いの女神は死神か



「…………」


「うーん……はぁっ! お兄様成分を、すっかり堪能しましたの!」


 あれから、何時間にも渡り。

 カレンちゃんはマドカさんと共に俺の体を嬲り続けた。

 だが、それでも俺はただの一度もイってなどいない。

 その寸前で何度も何度も寸止めされて、快感を発散する事を許されず、ただ彼女達に体を弄ばれ続けたのだった。


「もう全身、いろんな汁でベトベトですわ」


「では、すぐに入浴の準備を」


「ええ、お願いしますわ。ついでに、お兄様への食事の用意も忘れずに」


「かしこまりました」


 裸のカレンちゃんはマドカさんと会話して、部屋を出ていく。

 そして残ったマドカさんと、俺の目が合う。


「大和君……」


「マドカ、さん……俺、は……」


「辛いですよね。こんなこと、本当はしたくないんです」


 マドカさんはそう言って、俺の手枷へと手を伸ばす。

 ああ、やっぱりこの人は優しい。

 俺のことを見捨てたりなんて――


「でも、しょうがないですよね」


 ガチャリと。緩んでいた手枷がキツく締められる音が鳴る。


「だって、大和君は私を忘れようとしたんですから。お嬢様と同じように」


「ち、違う……! 俺は……!」


「何が違うんですか? アナタはきらら様を選んだ。ただそれだけでしょう?」


 マドカさんが俺の腕に爪を立てる。

 爪が肉に食い込む感触が、ハッキリと分かる程に……マドカさんは腕に強い力を込めていた。


「それを恨んではいません。いつまでも待つだなんて、甘ったるい事を言った私が悪いんですからね」


「それは……」


「最初からこうすれば良かったんですよ。無理矢理にでも抑えつけて、私達以外の事は何も考えられなくさせればいい。そうすれば、ずっと一緒にいられるんですから」


「マドカさん、そんなの、駄目だ。俺は……アナタのそんな姿、見たくない」


「っ! じゃあっ! どんな私なら見てくださるんですかぁっ!?」


 耳をつんざく程の大音量の叫び。


「アナタの中にはきらら様しかいない! 最初から私も、カレンお嬢様も、他の人だって映ってはいない! だったら、こうする他に方法なんて無いんですよ!」


 彼女は怒りに満ちた瞳で俺を見下ろしながら、なおも叫び続ける。


「大和君、アナタの前にいるのは私ですよ? きらら様じゃないっ! 私なんです! アナタの事を愛している、白雪マドカなんです!」


「……」


「それが理解出来るまで、アナタを自由になんてしないっ! アナタを手に入れる為なら、私は――!」


「なんだってする。それが私達なんですよねぇ」


「え? きゃあっ!?」


 バチチチチィッと、電流が流れる音が聞こえたのと同時に、マドカさんが悲鳴と共に俺の上へと倒れ込んでくる。


「あら、お兄さん。とても魅力的な格好ですね」


「……ひかり、さん?」


 そこにいたのは、見覚えのある黒いスタンガンを片手に持つひかりさんだった。

 彼女はなぜか、くのいちのような……なんというか、黒いピッチリとしたボディスーツに身を包んでいる。

 

「助けに来ましたよ」


「助けに? 君が……?」


「ええ。もうお気付きだとは思いますが、私もお兄さんの事を愛しているんですよ」


 そう呟きながら、ひかりさんは気絶したマドカさんのスカートをまさぐり、鍵を取り出す。そしてその後、俺の四肢を繋いでいた拘束の鍵を外してくれた。


「やっぱり、君も俺の事を好きだったんだ……」


「あーあ、こんな形で告白する事になるなんて。ムードもへったくれもありませんね」


 残念そうに眉をしかめるひかりさん。

 しのぶやカレンちゃんと同じく、彼女との間にも……何か、俺が覚えていない過去の出来事があったりするのだろうか。


「どうしてここが分かったんだ?」


「元々、私やしのぶ、カレンはお兄さんを狙う仲間でしたから。あの子達の動きは、ある程度筒抜けなんですよ」


「そうだったのか。でも、仲間のカレンちゃんの邪魔をしていいのか?」


「お兄さんがきららを選んだ事で……しのぶもカレンも、手段を選ばずにお兄さんにアタックしたようですけど、私は違います」


 そう言いながら、ひかりさんは俺の手をぎゅっと握りしめる。


「私はみんなで幸せになる方法を見つけたいんです。お兄さんも、きららも、私やしのぶ、カレンやマドカさんも――」


「ひかりさん……」


「とりあえず、話は後です。まずはここから逃げ出しませんと」


「ああ、そうだね」


 俺はひかりさんに手を引かれ、この屋敷からの脱出をはかる。

 だが、この時の俺はまだ――甘い考えだったと言わざるをえない。


「お兄さん、私が付いていますからね」


「頼もしいよ、ひかりさん」


「あはっ、ありがとうございます。」


 しのぶも、カレンちゃんも、マドカさんも。

 みんな俺の事を愛して、少しずつおかしくなってしまった。

 じゃあ、目の前にいるこの少女がまともであるかどうかなど。


「お兄さん……私がちゃーんと守ってあげますからね」


 どこにもそんな保証は、ありはしないのだ。


【次回 雨宮ひかりの過去】

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