第31話:エンディングに向けて。一転攻勢の始まり

「お兄さんときららの愛を手に入れろ! 大作戦の開始よ!」


「「「いぇーいっ!!」


 いつもの如く、学校の屋上へと集まった4人。

 彼女達は早速、きららの兄である晴波大和を籠絡する作戦を実行に移すようだ。


「作戦はシンプルよ。お兄さんを誘惑する! お兄さんに私達を強く意識させる!」


「そして、待機メンバーがきららとの愛を深める……でいいんだよな?」


「お兄様とイチャつくか、きららとイチャつくか、ですの!」


「……大和君はともかく、きらら様とイチャイチャ出来るでしょうか?」


「それはもう、ヤるしかないわ! みんな! 残された時間はもう少ないんだから、出し惜しみは無しでいくわよ!」


「「「おーっ!!」」」


 かくして、美少女4人による晴波兄妹の攻略作戦が開始される事となる。


【一人目 雷堂しのぶの場合】


「あっ、兄貴」


「ん? しのぶじゃないか」


 商店街に買い物に出かけると、バッタリとしのぶと会った。

 そう言えば、前にもこんな事があったような気がする。


「きらら達は一緒じゃないのか?」


「うん。アタシはいつものカラオケで、きららはひかりやカレン達とデート」


「カラオケ……そう言えば、きららから聞いたよ。しのぶの夢は、歌手になる事なんだってね」


「そう……だね……」


「しのぶ?」


「ううん、なんでもない。それよりも、こうして会えたんだからさ」


 言いながら、俺の腕に絡みついてくるしのぶ。

 その仕草はまるで、恋人に甘える女の子のようだ。


「……たまには、アタシとイイ事しない?」


「ああ、勿論。俺も興味があったんだ」


「えっ!?」


「今すぐ行こうよ。きららがデートなら、俺も暇が出来たし」


「そ、そんなに簡単に……決めちゃっていいの?」


「大丈夫だよ。ほら、遅くならない内に向かおう」


「……ひゃひ」


 俺は何故か真っ赤になったしのぶの手を引いて、目的地へと急ぐ。

 いやはや、いずれ一緒に行きたいと思っていたけど、こんなに早く機会が訪れるなんてな。どうせなら、今夜は羽目を外すのも悪くないかもな。


「(へへーん! どうだ!? アタシだって、兄貴を誘惑出来るんだ!)」


 しのぶも嬉しそうだしな。

 ああ、俺も楽しみで仕方ないよ。


【カラオケルーム】


「こんなこったろぉーと思ったよぉぉぉぉぉぉっ! ちきしょぉぉぉぉぉっ!」


「おおっ! すげぇシャウト! 流石は歌手志望だな!」


 マイクを片手に、デスメタルチックな曲を歌うしのぶに拍手を贈る。

 声質も綺麗だが、この力強い声量にビブラート、アクセントの付け方まで、まるで本物のプロ歌手のようだ。


「はぁっ、はぁっ……! あ、ありがと」


「しのぶの後に歌うなんて、恥ずかしいよ。俺、あんまり歌が得意じゃなくて」


「……いいんじゃない? カラオケなんて、自分の好きなように歌うのが一番だし」


「確かに、その通りかもしれないな」


 採点とかも1つの楽しみ方だが、それが全てというわけじゃない。

 好きな歌を、楽しく歌う。それが一番大事なのではないだろうか。


「じゃあ、今日は好きな歌を歌うぞー」


 俺はデンモクを片手に、曲のチョイスを始める。

 えーっと、これも久しぶりに歌いたいけど、少しキーが高いな。

 ここは様子見で……


「……ねぇ、兄貴」


「うん? どうしたんだ?」


「兄貴はさ、アタシがプロになれると思う?」


「え?」


 唐突にそんな言葉を投げかけられ、俺はデンモクから顔を上げる。

 するとそこには、じぃっと真っ直ぐな視線で俺を見据えるしのぶの顔があった。


「どうだろう? 歌が上手ければ、必ず歌手になれるなんて、甘い世界じゃない事は知っているし……あまり、無責任な事は言えないから」


「……っ」


「でも、しのぶ」


 なぜだろうか?

 こんな事、言っちゃいけないって分かっているのに。

 それでも、俺の口は勝手に動き、その言葉を言い放つ。


「俺は君にプロになって欲しい。君の歌声が世界中の人々を魅了する景色を、俺は見てみたい。そんな君を応援したいと思う」


「あっ……!」


「っつぅ!?」


 その時だった。

 俺の脳裏に浮かぶ――【存在してはいけない記憶】


「待て、俺は過去にも一度……こんな言葉を」


 砕け散っていたパズルのピースが、頭の中で組み上がり始めていく。

 そうだ。確か、あれは……数年前。

 俺はあの時――


「兄貴、やっと思い出してくれたんだね」


「しのぶ?」


 気が付くと、しのぶが俺の隣に座り、ぎゅっと手を握っていた。

 その瞳は潤み、感動に震えているようにも見える。


「ああ、そっか。そうだよな、あの時の子は……お前だったんだ」


 俺が取り戻した記憶。

 それは俺が、しのぶと初めて出会った日の記憶だ。



【次回 エクストラ2 雷堂しのぶの過去】

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