第30話:結託するヒロイン達。しかしラスボス化する妹


「由々しき事態だわっ! ええ、由々しき事態よ!」


 きらら達の通う学校。その屋上に、学校内でも屈指の美少女達が集まっている。

 雨宮ひかり。雷堂しのぶ。カレン・クラウディウス。

 そして、カレンに仕えるメイドの白雪マドカである。


「お兄さんはもう、きららしか眼中に無いわ!」


「元々、危惧していた事だけどなぁ」


「正攻法で行かないから、こうなるんですの」


「あの、どうして私まで……?」


 いつもの面子に加えて、初参戦のマドカが困惑気味に訊ねる。

 彼女はひかり達の本性をほんの僅かにしか知らないので、当然ではあるのだが。


「マドカさん。こうなった以上、アナタに隠し事はしないわ」


「隠し事?」


「アタシ達は全員、兄貴の事が大好きなんだ。そりゃもう、きらら以上に」


「ぶっちゃけ、きららと付き合った最大の理由はお兄様なんですの」


「ええええええええええええええっ!?」


 そりゃもう、真実を知ったマドカの驚きぶりは尋常ではなく。

 目を丸くしながら、校舎中に響き渡るほどの大声で叫ぶ。


「そんなあああああああああああっ! 百合じゃなかったんですかぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? 騙したぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! よくも騙してくれたぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんんぅぅぅぅぅぅぅぅうぅぅっ! 大和くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ! しゅきぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」


「勘違いはしないでください。きららをダシにしているとか、そういうわけじゃないの。私達は本気で、きららの事も愛しているわ」


「そうでもなきゃ、兄貴以外の奴と付き合うなんてごめんだからな」


「お兄様は可愛いですけれど、きららも負けないくらい可愛いですものね」


「あっ、それなら問題無いです」


 さっきまでの狼狽えっぷりはどこへやら。

 妙にスッキリした顔で、マドカは微笑む。


「それに、納得もしました。通りで皆様が、大和君に過剰なスキンシップを行うわけですね。私はてっきり、ひかり様だけなのと思っていましたが」


「前に話した通り。お兄さんという底なし沼に、私達は沈んでしまっているんですよ」


「では、大和君がアナタ達の誰かに手を出した……というのは?」


「アレは、マドカさんと兄貴を別れさせる為の罠。本当は、何もしちゃいないんだ」


「裸で同じベッドで寝る時点で、半分ヤっているようなものですけれどね」


「……つまり、私が大和君と別れる羽目になったのは皆様のせいだと?」


 ギラリと、マドカの鋭い眼光が3人へと向けられる。

 しかし、今さらその程度で怯むような少女達ではない。


「私達を諦めさせる為の、仮の交際だったんですよね? 私達を利用して付き合っていたんだから、私達に破局させられても文句は言えないのでは?」


「なるほど。痛いところを突いてきますね」


「それに、あのままだとマドカさんはきららに殺されていたわ」


「そうはなりません。鍛えていますから、しゅっしゅっ!」


「マドカが返り討ちにしたところで、きららの精神が壊れてしまいますの。そうなったら、お兄様はどうなると思いまして?」


「っ!」


「きっと、自分のせいだと責めて。壊れたきららの責任を取ろうとするだろうな」


「どちらにせよ、マドカさんに勝算なんて無かったんですよ。むしろ、最後に大きな爪痕を残せたんですから、感謝して欲しいくらいですね」


 あの悲劇的な別れがあったからこそ、大和はマドカを強く意識するに至った。

 そういう意味では、マドカに得のある作戦だったのかもしれない。


「お兄さんと愛し合う上で、きららは避けて通れない。きららがお兄さんのハーレムを許して、なおかつそのメンバーに認められないとね」


「きららが正妻だとして、要するに兄貴の愛人枠を勝ち取りたいってわけだ」


「だから、きららと付き合うのが一番なんですの。きららと愛し合えば、そのままお兄様ともなし崩し的に愛し合えますわ」


「……確かに、理に適っていますね。仮にハーレムが無理でも、きらら様と付き合っていれば大和君の近くにいられますから」


「そういう事。でも、今の状況はとてもピンチなの」


 親指の爪を噛みながら、ひかりは悔しげに呟く。


「きららが余りにも、お兄さんに意識が寄り過ぎている。こうして私達全員を置いて、真っ先に直帰してしまうほどに」


「このままじゃ、アタシ達はきららに捨てられるかもな」


「そんな! お兄様だけじゃなく、きららまで失ったら……!」


「……きらら様がそうなったのは、私のせいですよね。私が立場も弁えずに、大和君と付き合おうとしたから」


「それは仕方ないですよ。私がアナタの立場なら、同じ事をしました」


「右に同じ」


「マドカを責めたりはしませんわ。恋する乙女として、やるべき事をしただけですもの」


 同じ男を愛した者同士、通じ合う部分があるのだろう。

 彼女達の間に、恨みや嫉みは存在しないようだ。


「ありがとうございます。しかし、これからどうすればよいのですか?」


「兄貴もすっかり、きららラブだもんな。畜生、あんなに毎朝キスしやがって……アタシも早く、キスしたいってのに」


「お兄様とのファーストキス! 待ち遠しいですの!」


「ええ、そうね。私達の誰一人として、キスまで進んでいないというのに」


「…………」


「あら? マドカさん。どうしてそんなに、汗を流しているんですか?」


「ふぇっ!? そ、そんな事はありませんよ!? 別に私は大和君とキスなんて!」


「「「……」」」


 前言撤回。嫉妬心はバリバリあるようだ。


「マドカさんの抜け駆けは置いておくとして。とりあえず、取れる方法は2つね」


「1つはきららの意識をもう一度、こっちに向けさせるって事か?」


「ええ。そして2つ目は」


「お兄様を監禁、調教して、ワタクシ達の事しか考えられないペットに洗脳しますのね!?」


「カレンお嬢様。目を輝かせながら、そんな怖い事をおっしゃらないでください」


「まぁ、それはやりすぎだけど……方向性は同じね。私達のアタックでお兄さんに、きらら以外の女の子を意識させるの」


「よっしゃー! 遂にアタシ達のターンってわけだな!」


「そうね。ここから先はもはや、どんな手段を使ってでも、お兄さんを落としに行かないと……間に合わなくなるわ」


「ワタクシの予想では、きららが仕掛けるのは――次の危険日」


「きららがお兄さんを籠絡させるのが先か。それとも、私達がお兄さんときららを攻略するのが先か」


「上等だ! 全面戦争、望むところだっての!」


「「「「おーっ!」」」」


 こうして、当人達の知らないところで……開戦の狼煙が上がる。

 兄と妹。倒錯した思いの行末は、果たしてどこへ向かうというのか。


【一方その頃 晴波家】


「……お兄ちゃん」


「ん? どうしたきらら?」


「んーん、呼んだだけー」


「は? なんだそりゃ」


 自宅のリビング。

 ソファで俺の膝を枕にしているきららが、甘えてくる。

 俺はそんな可愛い妹の頬をスリスリと、右手で撫でていた。


「んへへへへっ、くすぐったいよぉ」


「お前のもちもちほっぺが、俺を狂わせるんだ……ああ、このエレガンスラインが、毎日俺の飯をパクパクして培ったこの肉が!」


「あっ、ひっどぉーい! 私は太り気味なんかじゃないよー!」


 俺にからかわれたきららは反撃とばかりに、頬を撫でる俺の手の人指し指をパクリと咥えこんだ。


「あむっ……ちろちろ、ちゅっ、じゅるっ、じゅずずずずっ……!」


 舌先で、指の先をチロチロと弄り、指の腹をツツーッと舐める。

 それから口をすぼめて、きららは俺の指を喉奥まで咥え込み、強く吸引してくる。

 

「うっ、くぅぁっ……!」


 舐められているのは指だというのに、なんとも言い難い衝撃が背中を駆け巡る。

 もし、もしもだ。これが指ではなく、アレなら――


「あはっ♪ お兄ちゃん、なぁに? これぇ♪」


 膝枕されているきららの頭に、膨らんで硬くなった俺の息子が当たったようだ。

 きららはクスクスと笑いながら、頭を前後に動かし始める。


「いけないんだぁ。実の妹相手に、こんなにしちゃってさぁ」


「っ……! き、きららっ……!」


「ダメだよ? まぁ~だ、ダメぇ。いっぱい溜めた方が、気持ち良くなれるもんね?」


 起き上がり、きららは俺の顔を覗き込むようにして近付いてくる。

 そして、チュッと啄むような口付けを俺に何度も、何度も浴びせてきた。


「……我慢してね、お兄ちゃん。そしてあの日が来たら、きららを大人にして?」


「き、らら……でも、俺達は兄妹で……」


「でも、兄妹である前に愛し合う男女でしょ? 何が問題なの?」


「……そう、だな。そうかも、しれない」


「そうだよ。だから……ネ? こうなっちゃったからにはもう……ネ?」


「きらら……むぐっ!?」


「ちゅっ、れろっ、はぁんっ……! お兄ちゃん、もっとキス、いっぱいキスしたいの。お兄ちゃんの唾液、全部ちょうだい……! じゅっ、じゅずるるっ!」


 兄と妹しかいない家に、淫靡な水音が響き渡る。

 理性という一筋の糸が断ち切れる日は、そう遠くないのかもしれない。

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