第18話:ボテ腹と水着サービス回
どこまでも広がる、雲ひとつ無い空。
燦々と照り付ける眩しい太陽。
透き通るような青い海。
「……この世の楽園だねぇ、お兄ちゃん」
「ああ、まさにバカンスって感じだ」
これぞ夏の風物詩とも言うべき理想の砂浜。俺ときららは、その砂浜に立てられたパラソルの下で、優雅にビーチチェアに寝転がっていた。
勿論、俺達の格好は水着である。俺は至って平凡なトランクスタイプの水着で、きららはオフショルダータイプのピンクの水着だ。
「波の音が心地いいよぉ」
「……癒やされるな」
どこからどう見ても、夏のビーチを満喫する兄妹の姿がここにある。
ただ――ある一点。
「で、でもぉ……お腹が、ぐるじぃよぉ……!」
「言うな……! 言えば辛さを思い出す……!」
俺ときらら。
両方の腹が、妊婦さんのようにぼっこりと膨らんでいなければ……の話である。
「うぷっ……! だめ、お兄ちゃん……う、産まれそう……!」
「やめろ……お前、それだけは……許されんぞ……うぐぐっ!」
フードファイターも真っ青な勢いで、俺達兄妹は昼食を一気に平らげた。
料理は美味しかったし、とても満足はしたのだが――その代償がこれだ。
俺達はもはや一歩も動けない状況となり、海で泳く事も出来ずに、ここで安静にしている他に無いのであった。
「このお腹……お兄ちゃんのせい、だからね? お兄ちゃんが無理やり、あんなに激しく(フードファイト)するから……」
「人のせいにするなよ。お前だって、(フードファイト)喜んでたくせに」
「酷い、酷いよ……ちゃんと認知してよ! アナタの子でしょ!?」
「もし仮にそうなったら、世界中を敵に回してでも責任を取ってやるから安心しろ」
「……え?」
まぁ、万が一にもそんな事はありえないけどな。
というか、きららの場合は美少女にしか眼中が無いから……子供を作るのは厳しい。
この先、科学技術が発達すれば、同性でも子供を作れるようになる可能性はあるが……
「それにしても、お前の子供……か。きっと親(きらら)に似て、すっげぇ可愛くなるんだろうなぁ」
「……うん。間違いなく、(お兄ちゃんに似た)すっごく可愛い赤ちゃんだろうね。てぃひひひっ、(お兄ちゃんとの子供が)今から楽しみだよぉ……!」
「?」
なんだ、きららのヤツ。随分と気が早い事を言ってるな。
もしかして、精子バンクを利用して人工授精で出産するとか言い出さないよな?
それとも、他に何かアテがあるとでも……?
「あら、なんの話をしているのかしら?」
「あっ、ひかりちゃん!」
俺が首を傾げていると、そこへひかりさんがやってきた。
まだ腹が苦しいので、俺は頭だけを横に向けて、ひかりさんの姿を視界に収める。
「……わーお」
ひかりさんの水着は黒のビキニだった。
多少、細部にアクセのようなモノが付いているが……基本的にはスタンダートな部類の水着だといえよう。
しかし、しかしである。そのスタンダートでシンプルな水着も、彼女が着たとなれば、その破壊力は尋常ではない。
今にも零れ落ちてしまいそうな大きな胸を支える、黒の三角地帯の……なんと危うすぎる事か。そして、水着のパンツ部分――これもイケない。
あの腰のゴムの部分が、こう……むにっと、肉に食い込むアレ。
その部分のなんとも言えない、えちえち感。本能に直接殴り込んでくる色気である。
「おほぉー! これはひかりちゃんの楽しみお乳! たまんねぇ~!」
きららは一瞬で悩殺され、目をハートマークにしながら鼻息を荒くしている。
もしも食べ過ぎで動けない状態じゃなかったら、きっと今頃はひかりさんにルパンダイブを決めていた事だろう。
「もう、きららは相変わらずえっちね。ところで、お兄さんは……どうです? この水着、私に似合っていますか?」
ひかりさんはそう言いながら、両腕を前で組んで……ぎゅむっとその大きなお胸様をお挟みになられる。そうされる事で、たわわなお胸様が、それはもう――それはもう。
「俺は今日の君の姿を、一生忘れないと思う。それくらい、今の君は綺麗で……魅力的な女性だよ」
「~~~~~~っ!?」
俺がそう褒めると、ひかりさんの全身がシュボッと真っ赤に染まる。
そしてなぜか、その場でグラリとよろけ……倒れそうになっていた。
「わわっ!? ひかりちゃん!? 大丈夫!?」
「だ、大丈夫だから……心配しないで。日差しが強いせいかしらね。体が熱くなってきたから、ジュースでも貰ってくるわ」
心配して起き上がろうとするきらら(ボテ腹のせいで無理だったが)を片手で制して、ひかりさんは別荘の方へとよろよろと歩いていく。
本当に大丈夫なんだろうか? もしも具合が悪いなら、俺も付いていって……
ッシャァァァァァァァァァッ! オニイサンダイシュキィィィィィィィィッ!
「……ん? 今、別荘の方から何か聞こえなかったか?」
「え? そうかなぁ?」
「ひかりさんが向かっていった方だと思うけど、気のせいかな?」
「何? ひかりがどうかしたの?」
「ん? この声は……しのぶか?」
ひかりさんと入れ替わる形でやってきたのはしのぶであった。
ひょこっと、俺の顔を覗き込むようにパラソルの下に入ってきたようだ。
「ひかりなら、ウキウキでスキップしながら別荘に戻っていったよ」
「し、しのぶちゃんっ! そそそ、その格好は!?」
動けないきららが、両手両足をバタつかせながら暴れだす。
それもその筈、しのぶが着ているのは――
「どうして水着じゃないのぉぉぉっ!?」
「……別に。泳ぐ気分じゃなかっただけだし」
さっきまでと何ら変わらない、ビッグシルエットパーカー姿である。
つまり彼女は、水着に着替えていないという事になる。
「ガァッデェムッ! しのぶちゃん、これは重大なルール違反だよ!」
「ルールって何さ」
「それは勿論、恋人の私にえちえちな水着姿を披露するって役目だよぉっ!」
「いや、知らんし」
「みぃーたぁーいぃーっ! しのぶちゃんの水着姿がみぃーたぁーいぃーっ!」
楽しみにしていた彼女の水着姿が見られず、不満を顕にするきらら。
気持ちは分からなくもないが、こういうのは無理強いするものじゃない。
「落ち着けきらら。水着を着るかどうかは、しのぶの自由だろ?」
「うっ……!? でもぉ……!」
「それに、今日が終わりってわけじゃないんだ。またいつか、海かプールに出かける日の楽しみにとっておけばいいさ」
「……うん。無理を言ってごめんね、しのぶちゃん」
「いいよ。アタシこそ、期待に応えられなくてごめん」
しのぶはそう呟くと、きららのビーチチェアの隣まで歩いていき……きららの額にチュッと口付けを行った。
「ほぇぁっ!?」
「……今はこれが精一杯、かな」
照れたように、ポリポリと頬を掻くしのぶ。
それを見たきららは、カッと目を見開くと――ビーチチェアからぴょーんと跳ねるようにして飛び起きる。
馬鹿な、奴はまだ動けない筈では……!?
「しのぶちゃんからもキスきたぁぁぁぁぁぁぁぁっ! うぉぉぉぉぉんっ!」
両手を突き上げ、まるで獣のような雄叫びを上げるきらら。
するとなぜだろうか。あれだけボテッとしていた筈のきららのお腹が……みるみる内に凹んでいき、元のくびれのある細いラインへと戻る。
わー。凄いね、人体。
「うひょひょひょひょっ! しのぶちゃん、一緒に海へ行こっ!」
「いいけど、アタシは泳がないからね?」
「いいよいいよ! 私が泳ぐのを近くで見ていて! えへへへへーっ!」
痩せたきららはクラウチングスタートを決めて、海の方へと猛ダッシュしていく。
さっきまであんなに苦しそうにしていたというのに、若いってのは羨ましいな。
「……兄貴」
「うん? きららを追いかけなくて良いのか?」
「すぐ追いかけるけど、その前に……さ」
「え?」
しのぶは俺の座っているビーチチェアを跨ぐと、俺の上に覆い被さるような体勢で肌を密着させてきた。
「な、何を……!?」
「兄貴にだけは、見せておきたかったから」
動揺する俺の上で、しのぶはパーカーのファスナーをジジジッ……と、ゆっくり降ろしていく。
そうして出てきたのは、ゼブラ柄のマイクロビキニに包まれた――しのぶのおっぱい。
「……きららには、内緒だからね♪」
「あ、え……?」
「むぅ……そこは似合っているとか、可愛いとか言うところだろー?」
気の利いた言葉の1つも言えない俺に、しのぶは呆れたように頬を膨らませる。
しかしすぐに、ハッと何かに気付いたように目を見開いた。
「……んふっ。ねぇ、兄貴……これ、どういうつもり?」
彼女は今、俺の股間の上にお尻を敷く形で馬乗りになっている。
つまり。もしも俺が今ここで、彼女の水着姿に興奮しようものなら――
「んぁっ……♪ ばかぁ、こんなに硬くしやがって……下も水着だから、感触が直接伝わって……はぁんっ♡」
しのぶは腰をわずかに前後にグリッと動かし、甘い吐息を漏らす。
それからほんの僅かに、ビビクンッと体を震わせた後……ようやく俺の上から砂浜へと降りてくれた。
「兄貴……続きは、また今度にしようね」
そう言って、しのぶは自分の右の胸を、俺に見せつけるように揉んでみせる。
それを見た俺は……またしても、ピコンッとアソコを反応させてしまった。
「しーのーぶーちゃーんっ!」
「はーい、今行くからー!」
遠くからきららが呼ぶ声に答えて、しのぶはパーカーのファスナーを元に戻してから、海の方へと駆けていった。
こうして、この場に残されたのは……お腹と股間を膨らませた男が1人。
「きららに見せずに……どうして、俺にだけ? それに、続きって……?」
しのぶの取ったあまりにも不可解な言動に、俺は未だに混乱から覚められずにいた。
いや、本当はもう気付いていたのかもしれない。
ひかりさん、しのぶ、カレンちゃん。
彼女達は、きららのハーレム候補でありながら――
「もしかして、しのぶって――」
この俺を狙っているのではないか、という真実に。
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