第12話:兄妹の絆は負けたりしない!
「たっだいまー!」
日も沈み掛けて、外ではカラスの鳴き声が聞こえ始める頃。
玄関のドアを勢いよく開きながら、俺の可愛い妹が帰宅した。
「お兄ちゃん、遅くなってごめんね。ひかりちゃんと盛り上がっちゃってさー」
リビングまでやってきた妹は、鞄をその辺に投げ捨てて、俺の元へと駆け寄ってくる。
その屈託の無い笑みに、俺は今まで……どれだけ助けられてきたのだろうか。
「もうそろそろ元気出た? ちゃんと晩ごはんは作ってくれたよね?」
「おかえり……きらら」
「……お兄ちゃん? 泣いてるの?」
俺は、こんなにも可愛らしく、大切な妹の彼女達に……とんでもない事をしてしまった。
ひかりさんの胸を鷲掴みにし、今日はしのぶのお尻を揉んだ。
兄として、いや、人としてやってはならない過ちを……俺は犯してしまったんだ!
「きらら……うぅっ、俺は……俺は……! う、うぅっ……」
「何か辛い事があったんだね。もう、しょうがないなぁ」
ソファの上で嗚咽を漏らす俺を見たきららは、両手を広げて……俺を抱きしめる。
ちょうどきららの胸に顔が当たるような体勢。
柔らかいきららの胸の中に包まれながら、俺はさらに涙を溢れさせていく。
「きらら……俺はお前に、謝らないと……」
「いいよ、別に。お兄ちゃんに何をされても、私は気にしないから」
ぎゅっと、俺を抱きしめるきららの腕の力が強くなる。
そのせいか、きららの心臓の鼓動が……ドクンドクンと伝わってきた。
「今はいっぱい泣いて、私の胸の中で癒やされなさい。現役JKのおっぱいだぞー、ほれほれー、気持ちええのんかー?」
「……きらら」
わざとらしく、おちゃらけてみせるきらら。
俺が落ち込んだ時、心が挫けそうになった時はいつも……コイツはこうして、俺を元気付けようとしてくれるんだよな。
「ありがとう」
「ほぇぁっ!?」
俺は立ち上がり、逆にきららを抱き寄せる。
この、健気で愛おしい妹を前に――俺はもう、耐えきれそうになかった。
「少し……このままでいてもいいか?」
「……うん。お兄ちゃんに抱きしめられるの、1番好きだから」
そのままずっと、俺ときららは――兄妹で抱き合い続ける。
そして俺は、心の中で再び誓う。
これから先、きららの彼女達を前にして……心を惑わされる事があるだろう。
でも、俺は絶対にきららを裏切らない。
きららと彼女達が幸せな結末を迎えられるように、全力で応援する。
「きらら、俺は必ず、お前を幸せにしてみせる。この世界の誰よりも」
「……やっぱり、今日にお兄ちゃんは変だなぁ」
「え?」
「だって私、お兄ちゃんの妹ってだけで――世界一幸せな妹なんだもん」
「きらら……」
ああ、そうだな。
じゃあ俺は間違いなく、世界一幸せな兄だ。
「えへへっ、お兄ちゃん。やっと笑ってくれたね」
「そうか?」
「うん。私の大好きな顔だよー」
ああ、神様。俺はアナタ様に深く感謝いたします。
こんなにも素晴らしい妹を、俺に与えてくれたんですから。
「というわけで、お兄ちゃん! 元気が出たところで、大事なお話があります!」
「大事なお話? 夜ご飯なら、今から腕によりを掛けてご馳走を作るぞ?」
「それもすっごく楽しみだけど! そうじゃなくて、明後日からの連休の事だよ!」
連休? そういや、もうすぐ祝日を合わせた3連休がある。
特に予定も考えていなかったが……さてはきららのヤツ、どこかへ旅行にでも出かけたいと言い出すのだろうか。
「実はね、ちょっとみんなで出かけたいところがあるんだー」
「出かけたいところ? まぁ、別に構わないが」
遊園地か、動物園か。それとも、温泉にでも行きたいと言い出すのだろうか。
いずれにせよ、可愛い妹の頼みだ。どこへだって、連れて行ってやるつもりだ。
「ほんと? じゃあ、お兄ちゃん。みんなで一緒に、無人島の別荘に行こうね!」
「ああ、分かった。たまにはゆっくりと、みんなで無人島の別荘だな」
「えへへっ! 魚釣りとか、私頑張っちゃうよー!」
「釣りよりも、銛で魚を漁るのとかやってみたいな。それと、折角なら望遠鏡とか持っていって、綺麗な夜空を――って、無人島の別荘だと!?」
無人島の別荘。あまりにも現実離れしすぎているワードに、ツッコミがあまりにも遅くなってしまった。
急に何を言い出すんだ、この妹は。ウチにはそんな別荘なんて無いというのに。
「うん。カレンちゃんの家が島ごと管理している別荘で、たまに遊びに行くんだって」
「カレンちゃんが?」
島ごとって、すごいスケールのデカイ話だが、たしかカレンちゃんの家はメイドさんがいるくらいの金持ちだっけか。
「そう! 無人島とは言っても、本土から近い場所にあるし、別荘も管理が行き届いているから泊まるのにはなんの問題も無いらしいよ」
「へぇ? そうなのか?」
男としては、何の準備も無い無人島で、小屋を建てたりするところから始めるサバイバルに憧れるものだが……それはあまりにもハードルが高い。
最低でも、雨風を凌げる別荘があるのなら、無人島での生活も楽になるだろう。
「カレンちゃんとしのぶちゃんとひかりちゃん。3人と付き合ってから、初めての旅行なの! お願い、行ってもいいでしょ?」
「ああ、別にいいぞ。でも、俺も行っていいのか?」
「こういうのは男手が必要でしょ? お兄ちゃんがいてくれれば、私も心強いし!」
そういうものか。まぁ俺も、きららの事が心配だからな。
付いていってもいいというのなら、是非とも同行したい。
「……分かった。俺も行く」
「うわぁーいっ! やーりぃーっ!」
嬉しそうにぴょんぴょん跳ねるきららとは裏腹に、俺の表情は少し硬い。
というのも、やはり……他の3人の少女達の存在が大きい。
ただでさえ、ひかりさんやしのぶと会うのが気まずいのに……それが二泊三日の無人島旅行だなんて。
「……大丈夫、だよな」
あんな間違いは、もう起こらない。起こせない。
きららの彼女達がどれだけ美少女で、魅力的であろうとも……俺はきららの兄として、誘惑には負けたりしない! 絶対にっ!
【次回予告】
『第13話:美少女には勝てなかったよ……』
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