第3話:男子禁制の百合の園(兄は除く)


「よし、こんなものかな」


 紅茶を淹れ終え、お茶菓子の用意もオーケー。

 後はこれを、2階にいるきらら達の元まで運ぶだけだ。


「よいしょ……」


 俺はお盆を両手で持ちながら、気を付けながら階段を上がっていく。

 すると、廊下の角にある部屋から、楽しげな声が聞こえてきた。


「ひかりちゃーん! 膝枕してぇー!」


「もう、きららったら甘えん坊ね。ほら、おいで」


「んふふー……堪りませんなぁ」


「おい、きらら! まだトランプの途中だろ!」


「ワタクシが大貧民ですの……クラウディウス家はもうおしまいですわ」


「私はトランプより、みんなとイチャコラしたいよぉ」


「ようやくアタシが大富豪になったんだ! もっと楽しませろっての!」


 どうやらトランプで盛り上がっていたようだ。

 懐かしい。俺も昔はよく、きららとトランプで遊んだものだが。


「おーい、お邪魔するぞ」


 俺はきららの部屋をノックしてから、扉を開く。

 おっとと、片手でお盆を支えるのは意外と大変だ。


「むぅー! お兄ちゃん! 私のハーレムルームに入って来ないで! 男子禁制だよ!」


 俺が部屋に入ろうとした瞬間、ベッドの上で雨宮さんに膝枕されていたきららが起き上がり、俺を通せんぼしようと迫ってくる。


「何が男子禁制だ。いつもお前の部屋を片付けているのは誰だと思ってるんだよ」


「うぐっ……!?」


「それに、俺を追い出していいのか? 折角、紅茶とお菓子を持ってきたのに」


「か、かいもーん! とおってよーし! くるしゅうないぞー!」


 実に呆気なく開放されるハーレムルーム。

 俺は苦笑しながらも、きららの部屋へと足を踏み入れると、雷堂さんとカレンちゃんが囲む丸テーブルの上にお盆を置いた。


「お兄さん、わざわざありがとうございます」


「いや、いいんだ。むしろ、こんな簡単なものですまない」


「……アタシ、紅茶好きっすから」


「このクッキーも美味しそうですわ!」


「あはは、そっか。喜んで貰えたなら嬉しいよ」


 薄情な妹とは違い、ちゃんと感謝の気持ちを示せる彼女達。

 外見だけではなく、中身まで美少女じゃないか。


「お邪魔して悪かったよ。じゃあ俺はもう行くから、何かあれば呼んでくれ」


「用なんか無いよー! お兄ちゃんは、さっさと出ていくのだー!」


 俺がお盆を置いた途端、強気になって俺を部屋から追い出そうとするきらら。

 だが、そんなきららの行動を……雨宮さんが止める。


「待って、きらら。どうせなら、お兄さんも一緒に遊びましょうよ」


「えええー!? なんでー!?」


「良く考えて、きらら。もし私達がアナタと本当に付き合ったら……大和さんは私達の義理のお兄さんになるでしょう?」


「た、確かに……!」


「だから今の内に、お兄さんとも親睦を深めておくべきだと思うの」


「ああ。良く知りもしない奴が兄貴になるなんて、気持ちわりぃからな」


「ワタクシも、もっとお兄様とお話ししたいわ!」


 確かに、恋人を選ぶ上で……相手の家族というのは軽視出来ない問題だ。

 もしも俺がロクデナシならば、きららを振る理由の1つになりかねない。


「うーん。みんながそこまで言うなら、しょうがないなぁ。お兄ちゃん、未来の義妹達と交流する事を許しましょう」


「……俺に拒否権は無いのか」


「妹の恋路を応援するのが、お兄ちゃんの役目でしょ? おねがーい♪」


 さっきまでの態度はどこへやら。

 甘えるように、きららが両手を広げて俺に抱きついてくる。

 無駄に大きくなった胸を惜しみもなく押し付けてきやがって。

 実の妹の胸なんて、そりゃ、ちょっとは嬉しいかもしれんが……


「「「……」」」


「ひぃっ!?」


 俺に抱き着いていたきららが、いきなり俺から手を離して悲鳴を上げる。

 そして何かに怯えるようにキョロキョロと、周囲を見回し始めた。


「きらら、どうしたんだ?」


「う、ううん。気のせい……かな? なんだか、背筋がゾクッとしたような、気がして」


「あらあら、きらら。熱でもあるんじゃないかしら?」


「おい、具合がわりぃなら無理すんなよ」


「……眠っていた方がいいですわ。ほら、横になって休んでくださいまし」


「え? う、うん……そうだね」


 様子のおかしいきららを心配しているのか、3人の彼女達はきららを引っ張るようにしてベッドまで誘導すると、きららを布団の中へと押し込める。


「きらら、アナタが早く元気になってくれないと……私達は心配だわ。今はゆっくりと休んでちょうだい」


「明るい部屋だと寝れねぇだろ。それに、アタシ達の話し声も邪魔だよな」


「だったら、良いモノがありますわ!」


 そしてどこから取り出したのか、アイマスクとヘッドホンをきららへと装着する。

 これできららは、周囲の状況が一切分からない状況になってしまった。


「みんな! ありがとう! 私、すぐに良くなってみせるからね!」


 目隠し&ヘッドホン状態で、ニコニコと宣言するきらら。

 いやいや、体調が優れないなら、みんなには帰って貰えばいいじゃないか。


「なぁ、みんな。今日はもうこの辺で……」


「ふぅ……心配したら、喉が乾いてしまいましたね」


 心苦しく思いつつ、みんなに帰って貰おうと俺が口を開きかけた……その時。

 雨宮さんがテーブルの上に置かれた紅茶のカップを手に取ろうと手を伸ばし――


「きゃっ、いっけなーい(棒)」


「へっ?」


 雨宮さんが突然、よろけるようにバランスを崩して倒れ込む。

 その際にカップの1つが倒れて、彼女の制服を濡らしてしまった。


「あつっ……!?」


「だ、大丈夫か!?」


 俺は急いで彼女の傍に駆け寄り、紅茶に濡れたブレザーを脱がせる。

 このままでは紅茶が染み込み、彼女が火傷してしまうと思ったからだ。


「はい、大丈夫です……」


「ああ、それは良かっ……あっ!」


 ブレザーを脱がし、ホッとしたのも束の間。

 俺の視界に飛び込んできたのは、紅茶に濡れたせいで……ブラウスに透けてしまっているピンクのブラ。

 しかも、雨宮さんの大きな胸の谷間まで……くっきりと見えている。


「きゃっ……!」


「ご、ごめん! これ、使って!」


 俺は自分の着ていた上着を脱いで、それを雨宮さんへと着せる。

 不可抗力とはいえ、俺はなんてモノを見てしまったんだ。


「し、下からタオルと……冷やす為の氷を持ってくるから!」


 動揺は激しかったが、とにかく今はやるべき事をしなくては。

 俺はすぐに立ち上がると、きららの部屋を飛び出し、急いで階段を降りていった。

 しかし、俺がそんな風に慌てふためく裏で――ニヤリとほくそ笑む者達がいる。


「……ふふっ、あんなに顔を真っ赤にしてくれるなんて。かーわいっ♪」


「おい、ひかり。てめぇ、1人で上着を独占してんじゃねぇーよ」


「ちゃんと分け前は頂きますわよ! さぁ、早くワタクシにも嗅がせて!」


「ええ、勿論よ。それにしても、こんな簡単に脱ぎたての服が手に入るなんて……きららには感謝しないといけないわね。よしよし……♪」


「ふぇっ!? 誰か今、私の顔を撫でてくれた!? 嬉しいっ! もっとして! ねぇねぇねぇっ! もう私、元気ビンビンになっちゃうよぉ~!」


「あの人の妹というだけでも十分なのに、本当にいい子だわ」


「ああ、こんなに近くでアイツと話せるのも……きららのお陰だからな」


「すぅーはぁー……すぅーはぁー……あぁ、堪りませんわ……この頭にガツンと響くような刺激――脱ぎたてじゃないと味わえませんの」


「あ、こら! アタシの分も残しておけよ! つーか寄越せ!」


「うむぅー……! 引っ張らないでくださいまし!」


「喧嘩しないの。そんなに必死にならなくても、安心しなさい。チャンスはこれから、いくらでもあるんだから――うふふふふっ」

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