第2話:妹の彼女達が俺に詳しすぎる

 ある日突然、妹に3人もの可愛い彼女が出来た。

 にわかには信じがたいこの状況を整理すべく、俺は彼女達との会話を試みたが……


「えっと、まずは俺から自己紹介した方がいいよな。えっと……俺は……」


「晴波大和(はれなみやまと)さん、ですよね」


「え?」


「歳は……20歳になったばかりだったか。今は大学2年だろ?」


「そ、そうだけど……」


「趣味は料理とお裁縫。ふふっ、お可愛い趣味ですわね」


「……う、うん」


 リビングへと通した彼女達に自己紹介をしようとしたのだが、俺が話すよりも先に……彼女達は俺の情報について口にする。

 一体どうして、と思っていると……その疑問には黒髪の清楚系彼女が答えてくれた。


「きららから聞いたんですよ。この子、いっつもお兄ちゃん自慢ばかりするので」


「てへっ♪」


「お前な……兄妹とはいえ、もうちょっとプライバシーを守ってくれ」


 舌を出している妹には後で説教するとして、とりあえず当面の謎は解けたか。


「いくらなんでも、初対面の人に色々知られているのは驚くぞ」


「あははは、ごめんねお兄ちゃん。でも、そんなに大した事は話してないから」


 きららの笑い顔を見ていると、本当かと疑いたくなるが。

 まぁ、別に知られて困る情報があるわけでもないしな。


「誕生日は7月5日の蟹座。血液型はB型。身長は176.2cmで、体重は70.3kg。足のサイズは27cmなのよね」


「好きな色は赤。好きな食べ物はラーメン。好きな動物はトカゲモドキ。好きな音楽のジャンルはネオクラシカルメタル」


「最近は運動不足に悩んでいて、夜にランニングをしていますのよね。でも、河川敷を通るルートは夜だと危ないですから、あまりおすすめしませんわ」


 前言撤回。ここまで知られていたら、もはや恐怖しか感じないっての。


「き~ら~ら~?」


「いひゃいいひゃいっ! わらひひゃひゃい! わらひひゃひゃひひょー!」


 兄のプライバシーをまるで守らないお喋り妹の両頬を、思いっきり引っ張って伸ばしてやる。この口か、この口が悪いのか!? ああん!?


「あぅ~……私、なんにも悪い事してないのに……」


「……俺の事に詳しいのは分かったから、今度は君達の事を教えてくれないか?」


 反省の色が見られない妹は放って、俺は彼女達の方へと視線を向ける。

 すると彼女達は、どこか嬉しそうに頬を上気させながら……眩い笑顔で自己紹介を始めてくれた。


「私はきららのクラスメイトの雨宮(あまみや)ひかりです。僭越ながら、生徒会長も務めさせて頂いております」


 おお、やっぱりこの子は俺の予想通り生徒会長だったのか。


「アタシは雷堂(らいどう)しのぶ。きららとはクラスが違うけど、一応同級生」


 そしてこのヤンキー風少女は、きららとは別クラスの同級生。


「カレン・クラウディウスと申しますの! きららとやしのぶと同学年ですけれど、歳は10歳でしてよ」


10歳っ!? という事は……飛び級なのか?

随分と幼い見た目だとは思っていたが、まさか本当に幼女だとは……


「なるほど。君達の名前はちゃんと覚えたよ」


「ふふーんっ! どう? 私の自慢の美少女ハーレムは!」


 得意げに胸を張りながら、過去一のドヤ顔を見せるきらら。

 そりゃあ、これだけの可愛い女の子達がいっぺんに恋人になったのなら、自慢したくなる気持ちも分かるが……


「なぁ、君達。本当に……俺の妹と付き合っているのか? 何か弱みを握られて脅されているのなら、俺が責任を持って妹を懲らしめるぞ?」


「ちょっとー! それってどういう意味!? さすがの私もぷんすかだよー!」


「嘘を吐かずに教えて欲しい。君達は本気できららのハーレムに入るつもりなのか?」


「「「……」」」


 俺は彼女達の瞳をまっすぐに見つめ、単刀直入に本題を訊ねる。

 これでもし、少しでも動揺するようなら、俺は――


「お兄さん、正直に言います」


「……ああ。頼む」


「私達は少し前まで、きららの友達でした。そんな関係を終わらせて、ハーレムに入ってくれと言われた時には動揺しましたが――」


「だろうな……」


「その答えを、まだ決めかねているんです」


「え?」


 雨宮さんは少し困ったように額に汗を浮かべながら、きららの方を見る。

 そして、もう一度俺の方へと向き直ると……話の続きを口にした。


「だから私達はお試しという形で、きららの彼女になったんです」


「お試し……?」


「はい。きららのハーレムに入って、本当に幸せになれるのかどうか。見定める為のテストみたいなものだと思ってください」


「きららがアタシらを納得させられれば、晴れてハーレム成立」


「それまでの間は仮の恋人状態というわけですわ」


「……なるほど」


 まぁ、元々が親しい友人関係だというのなら、そういう譲歩もアリなのかもな。

 単純に交際を断るよりも、一度恋人関係を経験してからの方が、お互いに納得もいくだろうし。


「仮なんかじゃないよっ! だって、すぐに私がみんなを納得させるもんね! てぃひひひひひっ……!」


「あのなぁ……それが1番難しいんだぞ?」


 ポジティブな妹を諌めつつ、俺は頭の中で現状を整理する。

 要するに、きららが彼女達に告白をして……その答えを出すまでの間、お試しで付き合っているみたいな状態って事だ。

 このハーレムが成立するかどうかは、きららの今後次第となる。


「……よく分かったよ。そういう事なら、俺からは何も言う事はない。みんな、妹の事をしっかりと見定めて……後悔が無い選択をしてくれ」


 俺はそう告げると、椅子から立ち上がり……台所の方へと向かう。


「お兄ちゃん? どこへ行くの?」


「後で紅茶とお菓子を持って行くから、お前は自分の部屋に彼女達を連れて行け。折角の恋人達の水入らずを邪魔するほど、俺は野暮じゃないさ」


「……うんっ! みんな、私の部屋に行こう!」


 俺の気遣いを受けて、きららは彼女達を引き連れて2階の自室へと向かっていく。

 やれやれ。仮とはいえ、きららの作った美少女ハーレムを目にする事になるとはな。

 父さんや母さんには、なんて説明しようか……


「ねーねー、ひかりちゃん達って、どうしてあんなにお兄ちゃんの事に詳しかったの?」


「あら、前にきららが話してくれたじゃない」


「ほぇ? そうだっけ?」


「んな事より、きらら……お前の兄貴の部屋はどこだよ? ここか? それともあっちの部屋か?」


「お兄ちゃんの部屋は私の部屋の向かい側だよ。でも、それがどうしたの?」


「ま、間違って入ったりしねぇように……聞いておいただけだっつうの。誰がお前の兄貴になんか興味があるかよ! ふざけんなっ!」


「あっ、そっかぁ……ごめんね、しのぶちゃん」


「いざ、突撃でしてよぉーっ! お宝ゲットですわぁー!」


「カレンちゃんっ!? そっちはお兄ちゃんの部屋だよ!? 入っちゃダメ!」


「…………まぁ、ワタクシとした事が、間違えてしまいましたわ」


「私の部屋はこっちだからね。さぁさぁ、みんな入ってー!」


 なんだか、随分と上が騒がしいな。

 女3人集まれば姦しいというが、4人もいれば相当なもんだな。


「さて、お湯でも沸かすか」


 あの中から、何人がきららの本物の彼女となってくれるのか。

 分の悪い勝負にも思えるが、兄としては妹の恋路を応援しないわけにはいかない。

 俺に出来る限りの事は協力してあげないとな。

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