有翼の騎士の一途な求愛 SS

第1話

レフは大きなベッドの上で目を覚ました。一瞬、ここがどこだったかわからなくなり、すぐに騎士団総長の部屋だったと思い出す。裸のまま、たっぷりと眠った気がする。


横を向くと、その動きで傍らにいるゼインも目を覚ました。レフの頬を一撫でし、「おはよう」と笑う。


「おはよう」


レフは抑え気味に微笑んだ。気を緩めると、どうしようもなく顔が緩みそうで怖い。


昨夜もひと月ぶりの逢瀬で盛り上がってしまった。新任地に赴任している内務官を迎えに、毎月騎士団総長がやってくるのだ。


砦に帰る前にその場で一回致し、空を飛んでいる時は寝て、砦に着いたらみんなと一杯飲み交わして、それからまた夜を共にした。体はだるいが、心はしっかり満たされている。


「……昨日は、盛りすぎてしまった」


レフが反省していると、ゼインが肘枕して言った。


「だってひと月に一回じゃないか、俺たち」


「してる回数はもっと多いだろ」


「俺は、毎日ツバメちゃんにおはようと言いたい」


ゼインはレフの額に口づけると、全裸のままパッと起き上がって、ミントの葉が入った水差しからコップに水を注いで口をゆすいだ。大きな翼のある体は、彫像のように美しい。


ゼインは引き出しから真新しい下着一式を出すと、レフに差し出した。


「これ、やるよ」


「えっ……なんで?」


しかしレフは贈られた下着を見て、思わずカアッと顔を赤らめた。自分がどれほど古ぼけたものを着ていたか、思い知らされた気分だ。


自分では吝嗇家だとは思っていないが、物持ちはかなりいい。少し穴が空いたくらいだったら、自分ですぐ繕ってしまう。


それでもあまりにみっともないから、新しいものを贈ってくれたのだろうか。


とりあえずゼインに「ありがとう」と言った。しかしそれを手にした瞬間、レフは戸惑った。


「これ、絹が入ってるよな?」


高価な品だろう。ゼインを見ると、目を泳がせている。


「嫌か?」


「まさか。そうじゃなくて、高かったんじゃないかって……」


「俺はそこそこ金を貯めてるから気にするな。でも高かったのは、実際そうなんだ。……だから……君のお古はもらっていいだろうか」


「お古?」


真摯な顔つきをした男の手には、着古した自分の下着がある。


「……どうするんだ、それ」


ゼインは再び目を泳がせて、「……する」と言った。


「え、何? 聞こえなかった」


「君の代わりにする」


「ええ〜っ」


ゼインは下着を丁寧に畳むと、大切そうに引き出しにしまい、再びレフの横に座った。


「捨てろよ、あ、あんなぼろぼろのもの……」


レフが恥ずかしまぎれに抗議すると、「だからいいんじゃないか!」とゼインがムッとした。


「君が、俺の風切羽で作った羽ペンを使ってるようなもんだ!」


「ペンと下着じゃ、全然違うだろ!」


「まぁ確かに、ペンだと抱きかかえては寝られないな」


「抱きかかえて寝るつもりなのか!」


「だから着古したのがいいんだよ! 夜、寂しいんだ!」


さも当然とばかりに怒られ、レフはむぐぐと口を結んだ。


「ぼ、僕だって……寂しいよ」


レフは顔を少し赤らめながら、真新しい下着を身につけた。生地はしっとりとして柔らかく、体の線に優しく沿う。


レフはシャツの襟元をつかみ、スンとにおいを嗅いだ。自分のにおいと違う、知らない店のにおいがする。


「これ、肌触りいいな。ありがとう」


ゼインはレフの様子をじっと見つめて、大きく息を吐いた。髪をかき上げ、レフを引き寄せる。


「ツバメちゃん、俺にもその手触りを堪能させてくれ」


大きな体に抱きしめられ、レフはほうっと息を吐いた。薄い布越しに、張った胸の筋肉の膨らみを感じる。背中を撫でられ、目をそっと閉じた。


「確かに、気持ちいいな」


ゼインは滑らかな手つきで背中から尻を撫で、さらに胸のあたりをいじった。布を介して触られると、刺激は和らいで、むずがゆい快感だけがやってくる。


ふと股間に違和感を覚えて目を落とすと、そこには、疲れを知らないベルクトの下半身があった。昨日の夜にあれだけしたのに、もう元気になっている。


「朝から、ギンギンだな」


「朝だからだよ」


ゼインがレフの顔を挟み、丁寧に唇をついばむ。ミントの爽やかな香りが口の中に漂い、レフは陶然とした。


「本当は毎日こうしていたいんだ。好きな人と」


ゼインが顔を離し、明るい茶の瞳で見つめてくる。こんなに愛されて怖いくらいなのに、まだ足りないとばかりにずっと愛の言葉を囁き続けるのだ、この男は。


「僕だって、同じ気持ちだ」


レフが負けじと言うと、さりげなくベッドに押し倒された。ゼインは目を細めて、ちゅっと頬にキスしてくる。その軽やかな触れ合いとは対照的に、下半身に重い圧力を感じる。ぐぐっと押し入られて、レフは喘いだ。


「あっ、もう……」


「ずっと柔らかいままだな」


ゼインは急に野生みを帯びた顔つきになった。


レフが新任地で仕事をしている間、ゼインは巡回中にやってくる。その時は最後までできないから、際どい触れ合いばかりだ。


そうやってお互い高め合って、焦らし合い、お預け状態にして、一緒に夜を過ごせる日に、それまで溜めてきたものを全部解放するのだ。そうなると、挿れられてすぐに達し、ゼインが動かなくても極めてしまう状態になる。


レフが前後不覚になってから、ゼインは好きなように動いているらしいが、それもあまり記憶にない。だが今なら、その動きをちゃんと感じられるかもしれない。


「ゼイン、動いていいぞ」


獰猛な目が、ふっと笑った。


「君は延々イッてると、俺が動かなくてもずっと締めつけてくるからな。昨日も参ったよ」


「何が参っただよ、ちゃっかり何回も出してたくせに」


「5回も出すことになったのは君のせいだ」


優しく腰を揺らされながら、耳元で囁かれる。動きは穏やかなのに、中の圧迫感はすごくて、レフの弱いところはそれだけですぐに根を上げる。


「あふっ……うぅ……」


レフは小さく達した。ちょっと突かれただけでこのザマだ。


「やっぱり動かないほうがいいんじゃないか?」


レフはビクビク震える太腿を抑え、ゼインの体を脚で挟んだ。


「全然平気」


強がる恋人を見て、ゼインは眉を少し寄せ、心配そうな表情を作った。その引き締まった腰は、浅く、緩やかに動いている。


「そうか? 朝なんだから、無理するなよ?」


その瞬間、強く突き上げられた。


「ハァッ、うッ……」


それまで浅く突いていたのに、一気に深くされたらもうダメだ。レフの顎は上がり、太腿はだらしなく開いた。中の剛直は欲望で膨れ、我が物顔に振る舞っている。


「ほら、激しく動かされたら、ダメだろう?」


「ぜんっぜんッ……へいきッ!」


ゼインは挑むように激しく突いた。しかしその動きは規則的で、冷静だ。レフにはそれが悔しかったが、すぐにそれも快楽の波に押し流されて、どこかへいってしまった。


「ああっ、ああっ……ああっ!」


強靭な腰で蹂躙され、レフは身をよじらせた。ツンと立った乳首を戯れにつままれて、体が波打つ。


「やめっ……そこはっ……」


腰の動きは止められ、乳首は人差し指ですりすりと撫でられ、レフは悶絶した。体はどこもかしこも敏感になっている。


「だめ、ナカ、苦し……うごいてッ」


「ごめん、俺も出そうだからちょっとこっちで遊ばせて」


ゼインは舌先で胸の先をチロチロと舐め、存分に乳首を弄んでから、ちゅうっと吸い上げた。


「ンンンッ……アッ」


そこで達したくないのに、やってしまった。乳首で極めても、下半身の熱は完全に出ない。恥ずかしさが溢れるが、ゼインは動かなかった。


中からまた快感の波が襲ってくる。レフは一人、身を震わせた。


体を起こされ、ゼインの腿の上に座らされる。体位が変わり、また深く入って、レフは背を反らした。尻の肉を揉まれるたび、中があちこち当たる。特に、その反り返った角度は否応なく体内の弱点を圧迫してくる。レフは涙ぐみながらそれに擦り付けた。


「腰が動いてるよ」


ゼインの苦笑を、レフは口で塞いだ。その瞬間、思い切り下から突き上げられ、レフは大きく叫んだ。ゼインも、こらえていたものを一気に放った。




それからひと月後。空の砦からゼインが迎えに来るのを、レフは早朝からそわそわと待っていた。アレを見せたら、彼はどういう反応をするのだろう。少しドキドキする。


ゼインがやってくると、出迎えの挨拶のキスもそこそこに、レフはおずおずと布の包みを差し出した。


「も……もしよかったら、これ、もらってくれないか?」


ゼインは訝しげな顔をして、四角い布包みをほどいた。


「こ、これは……!」


レフは真っ赤になって顔を覆った。小ぶりだが、立派な肖像画だ。


「僕は固辞したんだ。でも侯爵閣下は芸術がお好きで……お気に入りの画家に僕を描かせると言って……これも習作なんだそうだ」


恥ずかしくて、つい早口になる。


「こんなに立派なものが、習作……!?」


「もっと大きなものを描きたいらしい。それで、これはもらったんだ。でも僕の家に置いてても、どうせ屋根裏で埃をかぶるだけだろう? それなら、ゼインにもらってほしいなって……」


ゼインはまじまじと絵を見つめると、胸にそっと抱きかかえ、天を仰いだ。


「これは、騎士団にではなく、俺個人がもらっていいものなのか?」


「もちろんだよ」


ゼインはパッと大きな笑顔を咲かせた。


「俺の部屋に飾るよ! 独り占めする!」


バッサバッサと翼をはためかせる。興奮しているらしい。


「あ〜、俺だけの! エリン卿だ!」


あまりの喜びようにレフは驚き、少しこそばゆい気持ちになった。恋人に自分の肖像画を贈るなんて、自惚れが強いのではないかと内心思っていたのだ。だがこの率直な男に、その心配は無用だったようだ。


「だから、あの下着は返してくれないかな……って」


「それはダメだ! 絵を見ながら、ツバメの羽を抱きしめたい!」


「ふ、古い下着を優雅に呼ばないでくれ」


このまま行くと、次は何がほしいと言い出すかわからない。


もう少し砦に帰る日を増やせるように、仕事の段取りを変えないと。


レフは、絵を愛しげに眺めるゼインを見ながら真剣に考えた。

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