桜佐咲⑧

 ◆□◆



「……………………」


 千尋の息を切らしてる姿はすごくよかったなぁ。一生懸命走っている姿や走った後に少し頬が赤くなっているのも超可愛らしいし……。

 運動苦手だけどサボらずに頑張るところは千尋のいいところだと思うけど、まだ風邪が治ったばかりだし無理はしないでほしい。


「どこ見てるの桜佐さん?」


 走り終わった千尋を眺めていると後ろから鷹来さんに声をかけられる。


「た、鷹来さん!?」


 鷹来さんは最近転校してきて、独特の雰囲気を持っている女の子だ。見た目もモデル仲間の誰よりも綺麗で、鷹来さんが転校してきた時は男子が色めき立っていた。


「……春日井くんを見てるの?」


 私の目線の先から千尋を見ていたことが鷹来さんにバレてしまった。


「う、うん。ちょっと千尋を見てたの」


「そっか。……春日井くん、すごく疲れてるね」


「そうなの。千尋は運動が苦手でちょっと運動しただけで息が切れちゃうし……。体も強い方じゃなくて、そもそも風邪が治ったばかりだからあまり無理してほしくないなって思って。また風邪がぶり返しちゃうかもしれないし」


「そうなんだ」


 いけない。鷹来さんに千尋について色々と話してしまった。


 人って好きなことほどついつい話したくなるものだ。千尋のことなら幼馴染みの私は何でも知ってるから聞かれてない事も話してしまう。


「ねえ桜佐さん……春日井くんの汗をかいてる姿って興奮しない?」


「えっ?」


「なんていうか……エロい? みたいな?」


 鷹来さんからの思いがけないカミングアウトに動揺してしまう。


「ど、どういうこと?」


「えっ……桜佐さんもそう思わないの? てっきりそうだと思ったのに。私は今の春日井くんを見てすごく興奮してるけど」


「え、えっと──」


「おーい咲。恵介くんが呼んでるよ~」


「う、うん! 今行く! ご、ごめんね鷹来さん」


「ううん。また春日井くんについて教えてほしいな」


 友達に呼ばれてしまったので鷹来さんとの会話を切り上げる。


 鷹来さんとはまだそこまで親しくない。それなのに私に千尋のことで興奮するって教えてくるなんて、ちょっと抜けているっていうか変というか……ううん、めちゃくちゃ変な人だ。


「…………」


 …………でも鷹来さんの言っていることには共感してしまう。


 確かに千尋の汗をかいてる姿を見ているとちょっといけない気持ちになっている私がいる。


 この前の千尋の看病をしていて体を拭いた時も正直めちゃくちゃ興奮していた。


 何で鷹来さんは私にそんなことを言ってきたのだろう。もしかして鷹来さん、千尋のこと…………。


「咲、やっぱり早かったな」


「えっ……う、うんありがとう。不二も相変わらず早かったねぶっちぎりだったじゃん」


「おう。まあもうちょっと早く走りたかったけどな」


「は、ははっ……。不二ならもっと速く走れるよ」


 不二との会話中にチラッと鷹来さんの方に視線を向けると、鷹来さんは千尋の方をジッと見つめていた。


 なんだろう……すごくモヤモヤする。



 ◆□◆



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る