桜佐咲⑨
◼️□◼️
私がお世話をしてあげたいと思ったり、甘やかすのが好きになったのは絶対に千尋が原因だと思う。
「千尋のおかあさん、こんにちは!」
「あら咲ちゃん、こんにちは。千尋なら部屋で着替えてるわよ」
「はーい」
千尋の部屋までダッシュで迎えに行く。
「千尋ー。出かける準備できたー?」
「えっと……まだ。んと……よいしょ。ご、ごめんね咲ちゃん」
「もーうしょうがないなー。入るよ」
部屋に入るとまだ着替えを終えていない千尋がいた。
「全然準備終わってないじゃん!」
「む、難しくて」
「ほら私が手伝ってあげる。バンザイして」
「うんごめんね」
初めの方はただ早く遊びたいからいつもモタモタしている千尋を嫌々手伝っていた。
「はいできたよ!」
「ありがとう咲ちゃん」
「……っ」
でも頼ってくれた後の千尋の笑顔を見て、嫌々ではなく嬉しさで心が満たされ始めていた。
そこからは千尋に頼られることが好きになっていったし、自分から積極的になっていった。
────
「これ千尋の好きなやつ、お母さんにお願いしてお弁当入れてもらったの。食べさせてあげるね!」
「えっい、いいよ。咲ちゃんに悪いもん」
「遠慮しない。はいあーん」
「あ、あーん。……美味しい」
「でしょでしょ。いつかは私が作ったの食べさせてあげるからね。あっ千尋、ごはん溢してるよ」
「んん……本当だ」
「ほら。口の周りも汚れてるし。拭くからじっとしててね」
「ぅん……ありがとう咲ちゃん」
「どーいたしまして」
千尋は美味しいと食べ物を口いっぱいに入れちゃうからよく溢してたっけ。千尋のおかげで私は料理もできるようになった。まあ千尋も料理が上手だから、手料理を中々食べてもらえる機会がないのが残念だけど……。
────
「せっかくのお泊りなのにすごい雨が降ってきたね」
「ほ、ほんとうだね」
「台風が接近してるんだって。ほら雷も鳴ってる」
「……う、うん」
「どうしたの千尋?」
「……僕、雷が怖くて」
「そうなの?」
「ご、ごめんね」
「なんで謝るの、千尋悪くないじゃん。そうだ! じゃあ雷が怖くなくなるように今日は一緒のお布団で寝ようよ!」
「えっ……で、でも咲ちゃんに迷惑かけちゃうし」
「迷惑じゃないよ。私、千尋の事で迷惑だって思ったことないから! ほら一緒に寝よ?」
「う、うんありがとう咲ちゃん」
渋る千尋の手を引っ張って一緒の布団で寝たのは私の忘れられない思い出だ。
雷を怖がってプルプル震えている千尋も可愛かったけど、私が怖くないよって話してあげたら安心して眠っちゃう千尋はもっと可愛かったなあ。また一緒の布団で寝たいなあ。
────
「千尋、今日のかけっこすごく頑張ってたね!」
「うん。でも1位になれなかったから……」
「1位じゃなくても頑張ってたよ。ほら撫でてあげる!」
「も、もう恥ずかしいよ咲ちゃん」
「でも撫でられて嬉しいでしょ?」
「う、うん……。恥ずかしいけど、嬉しい」
「ふふっ……」
ああ……たまらない。私がお世話をしてあげる、褒めてあげると笑顔を向けてくれる。恥ずかしながらも嬉しそうな顔をしてくれる。
小学生の頃には今と同じで千尋のお世話をすることがとても満たされるものになっていた。
────
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