桜佐咲④
◼️
「はぁ……はぁ……。よしっあいつもう来てないよね」
「はぁ……はぁ……」
「ごめんね千尋。なんか嫌なことに巻き込んじゃって……」
「う、ううん。大丈夫だよ」
あのまま家の近くまで走ってきた。さすがにここまでは男子生徒も追っては来ないと思う。
桜佐さんに手を引っ張られながら走ったので、傘を上手く差せず全身びしょびしょだ。
「じゃ、じゃあ僕も帰るね」
「えっ……待って千尋。お礼もしたいしさ、私の家に寄ってってよ」
「今、濡れてるから家で着替えて────」
「だったらうちでシャワー浴びてきなよ。ここからなら私の家の方が近いじゃん」
「で、でも僕の家も近いし、僕の家でシャワー浴びてから行くよ」
「嫌だ。私の家でシャワー浴びてって!」
「ちょ、ちょっと……」
無理矢理桜佐さんに連行され、結局桜佐さんの家にそのまま行くことになった。
「お、お邪魔します」
「たぶん今、ママも仕事だから誰もいないよ。そのまま浴室行ってシャワー浴びてきて。その間に着替え用意しとくから」
「先にシャワー借りていいの?」
「私より千尋の方がびちょびちょじゃん。ほら早く早く」
「う、うんありがとう。じゃあ先に借りるね」
◼️
<桜佐さんの部屋>
シャワーを浴びた後、部屋に案内され先ほど何があったのかを話してくれた。
「改めてごめんね千尋。変なことに巻き込んで……あと勝手に彼氏なんて言っちゃってさ」
「全然大丈夫だよ。あんなことで桜佐さんの助けになれたなら」
「ありがとう。…………さっきね、あの人に告白されて断ったの。あの人何回も告白してきて、めちゃくちゃ面倒くさくてさ……」
「そ、そうなんだね」
やっぱり桜佐さんはモテるんだな。他校の生徒からも告白されるなんて。
「うん。…………ほら私って、見た目がいいでしょ。だからさ、男の人によく言い寄られるんだ。学校の人とかモデルの人とか。
『俺、男らしいでしょ』『運動神経抜群で頭も良いんだよ』『こういうのが女子は好きなんでしょ』って言ってさ。知らねえっつうの、勝手に決めんなっ!」
桜佐さんはすごく苛ついているようで、話しながら足をとんとんと忙せわしなく動かしている。
「でもさ、私も一応モデルとかやってるから、そういう風に言い寄られても周りの目を気にして我慢するわけ。
でもそれが良くなくて『桜佐はああいうのがいいんだ』って何でかわからないけど広まってて、男子は皆あんな感じ。マジ最悪、何もわかってない」
め、めちゃくちゃ怒ってる……。桜佐さん相当ストレスが溜まっていたんだろうな。
「私の好みはその…………逆だから。引っ張ってくれるより私から引っ張りたいし。何なら好きな人のお世話をめちゃくちゃしたいのに……」
「そ、そうなんだね」
「そうなんだよ!」
不満をぶちまけてちょっとはスッキリしたのか落ち着き始める桜佐さん。
「……………………」
さっきから桜佐さんが無言のままじっと僕のことを見つめている。
「ど、どうしたの?」
「……何でもない。千尋には今日、とことん愚痴に付き合ってもらうからっ!」
「ぐ、愚痴?」
「そう! まだまだこんなもんじゃないからね、私のイライラしたことは!」
この後も桜佐さんの愚痴に付き合わされ、結局家に帰るのが遅くなってしまった。
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