桜佐咲⑤


 ◼️



 <千尋の部屋>


「千尋ー。学校遅刻するよー」


 ノックをした後、部屋に入ってくるお義母さん。


「…………んっ」


「珍しいね。まだ布団から出れてないなんて」


「…………うん」


「千尋……もしかして熱ある?」


「…………わからない」


「どれどれ。うわっ熱いね。これは100%熱あるわ」


 どうやら風邪を引いてしまったみたいだ。全体的にだるくて咳や鼻水が出るし、体の節々が痛い。


「今日は学校休んだ方がいいな。学校にはお義母さんから連絡しとくから」


「…………ありがとう。ゴホゴホッ」


 今日は学校を休むことになった。学校に電話をし終えた後、お義母さんが冷えピタを貼ってくれたり、氷枕を用意してくれたので少し楽になった。


「あとは薬……あったかな? ちょっと探してくるから寝ときなよ」


「……うん」


 うぅ……動くと体中がダルいし、辛いな。……今日は一日中横になって大人しくしておこう。



 ────────



「お、お母さん!? 千尋が熱ってーー」


「しーっ。今、寝てるから」


「ご、ごめんなさい。……何かの病気? 大丈夫だよね? ち、千尋死んだりしないよね?」


「しないしない。結依は心配しすぎ。昨日雨に濡れたって言ってたし、たぶんただの風邪」


「そ、そっか……」


「さても……でもどうしようかな。今日からお母さんまた出張だから千尋の看病ができなくて、お父さん現在絶賛出張中だし」


「わ、私が看病するよ!」


「結依も今日、単位のかかったテストなんでしょ。休んじゃ駄目じゃない?」


「うぅっ……。で、でも千尋が」


 ピンポーン。チャイムの音が聞こえる。


「あら。こんな朝早くから誰かしら?」




 ────────



「………………ぅん」


 どれくらい寝ただろう。ちょっとだけ楽になったかも……。


 …………ん? 何かご飯のいい匂いがする。


 両親も今日から出張で結依姉さんも今日は大事なテストのはずだから今は家に僕一人のはずだけど…………。


「あっ起きた。おはよう千尋。体の調子はどう?」


「えっ…………どうして、桜佐さんがいるの?」


 僕の寝ているベッドの隣に置いてある椅子に座っている桜佐さん。


「ん? 千尋の看病しようかなって」


「……が、学校は?」


「サボったよ。……だって風邪引いたの昨日の私のせいでしょ? 千尋って昔から体弱いもんね」


「そんなこと……ゴホッ!」


「ほらほら。病人はしっかり休む」


 咳き込む僕の背中を優しく擦ってくれる桜佐さん。


「……学校はサボっちゃだめだよ。あとどうやって家に入ったの?」


「千尋のお母さんから鍵貸してもらったの。まあ私もさ、最近仕事も立て込んでて疲れてたから休みたいと思ってたし。ほら体をいたわるためのサボりだよ」


 う、うーん…………なら仕方ないのか? お義母さんも桜佐さんに簡単に鍵を貸すのはどうかと思うけど。


「今日は私に甘えてもいいからねー。ていうか、じゃんじゃん甘えてね」


「えっ……わ、悪いよ。そんなの……」


「全く悪くないから。そうだ! 千尋、お腹空いてるでしょ。ほらお粥作ってきたよ。じゃーん」


 いい匂いの正体はお粥だった。卵のお粥に梅干しが乗っていてとても美味しそうだ。桜佐さんは茶碗にお粥を掬うと、お粥を一口僕の口の前まで持ってくる。


「はいあーん」


「じ、自分で食べれるよ」


「口開けて? あーん」


 桜佐さんは僕の声を聞こえないふりをしている。たぶん何を言っても状況は変わらずだし、ここは恥ずかしいけど食べさせてもらおう。


「あむっ。……………………お、おいしい」


 ほど良い味付けと梅干しの酸味がとても美味しい。


「でしょー。私の手作りだからね。ゆっくり食べようね」


 とても嬉しそうな桜佐さん。再びお粥を一口僕の口の前まで持ってくる。


「熱くない? ふぅふぅした方がいい?」


「だ、大丈夫。食べ頃だよ」


「そう? はいあーん」


 それからずっと桜佐さんに食べさせてもらって、半分ほど食べてお腹がいっぱいになる。


「ごちそうさまでした」


「お粗末様でした」


 暖かいお粥を食べたからか体がポカポカしてきて、喉も渇いてきた。


「ねぇ桜佐さん」


「どうしたの?」


「水、取ってもらってもいい?」


「いいよ。ちゃんと飲める?」


「の、飲めるよ」


 風邪を引いていても水くらいは飲むことはできる。桜佐さんは心配性過ぎるよ。


「………うーん。やっぱり心配だから手伝う」


「だ、大丈夫だよ」


「はい。水持って」


 抵抗する元気もないので、そのまま受け入れる。ペットボトルを持つ僕の手を支えて飲むのを手伝ってくれる桜佐さん。


「んっ……。ありがとう」


「うん。ちゃんと飲めたね」


 お粥を食べ終わった数分後、熱がまた高くなったのか急にボーっとしてきた。


「桜佐さん……」


「どうしたの?」


「ちょっと…………寝てもいい? なんか……体がまた熱くて」


「もちろんだよ。ゆっくり休んでね」


 優しく微笑んでくれた桜佐さんの顔を見て、僕は眠りについた。ここから後のことはほとんど覚えていない。

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