桜佐咲③



 ■



 <放課後>


 靴箱に到着したと同時くらいに電話がかかってきた。……結衣姉さんからだ。


『もしもし千尋……』


「どうしたの結衣姉さん?」


『あのね今日さ、サークルの友達とご飯食べることになっちゃって……。夜ご飯いらなくなっちゃった、ごめんね。もっと早く言えよだよね』


「全然大丈夫だよ。楽しんできてね」


 何事だと思ったら大事ではなくてホッとした。お義母さんもご飯いらないって言ってたから、今日は僕一人か……。だったらそんなに手の込んだ料理ものを作らないでもいいや。


『ありがとう千尋。……あのさ、こんなわがまま言っていいのかわからないけど』


「なに?」


『明日、千尋のお弁当が食べたいなーって……駄目?』


「ううん駄目じゃないよ」


『やったー千尋大好きっ!』


「ふふっ何か食べたいおかずとかある?」


『本当に!! えっとね……ハンバーグっ! 千尋のハンバーグ好きだから絶対入れてっ!』


「ハンバーグね……うんわかった。他は何かある?」


『ないっ! あとは千尋におまかせっ! 千尋の料理はなんでも美味しいから』


「ありがとう。じゃあハンバーグと他に何かおかず入れるね」


『やったー超嬉しいよ! ……あっもうそろそろ講義が始まるから切るね』


「うん。講義頑張って」


『うん! じゃあね』


 ハンバーグの材料……家になかったから買ってこないと。帰りにスーパーに寄って行こう。



 ◼️




「うわっ……もう降ってきてる」


 買い物を終えてお店から出ると雨がパラパラと降り始めていた。天気予報では夜から大雨になるって言ってたけど早く降りそう……。雨が強くなる前に帰らないと。


 家に帰っている途中、人の多い交差点から男女が揉めている声が聞こえた。この声……桜佐さん?


「いやっ! 離してって!!」


 声の聞こえる場所に到着すると、桜佐さんが他校の男子生徒と何か揉めている様子だった。どうしたんだろう?


「いいじゃん! そろそろ付き合ってくれてもさっ!」


「だから、私はあなたのことを恋人としては見れないって何回も言ってるじゃんっ!!」


「いやいや俺、お金いっぱい持ってるし……ほら、これだってあのブランドのやつだよ」


「興味ないって!!」


「興味ないことないでしょ? それに俺、あのイケメンモデルともいっぱい友達だしさ」


「あーもう、しつこいっ!!」


 どうやら男子生徒の方が桜佐さんが付き合ってくれないことに対して納得していないみたいだ。


 桜佐さん、すごく困ってる。……ど、どうしたら助けられるだろう。


 誰かを呼ぶ…………。ううん、その間にも桜佐さんが男子生徒ともっと喧嘩しちゃうかも。知り合いの振りをして桜佐さんをあの場所から離れてもらう……。


 考えていると桜佐さんが僕に気付き、目が合う。桜佐さんは一瞬の隙をついて、男子生徒から離れることに成功すると僕の方に走ってくる。


「私、この人と付き合ってるからっ!!」


「えっ?」


「だから二度と近づかないでっ!! 今度近づいてきたらケーサツ呼ぶからっ!! 行こっ!」


「うわっ」


「お、おい待ってーー」


 桜佐さんは僕の手を引っ張ると相手の呼び止めも無視して、そのまま走り出した。

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