桜佐咲②
◼️
〈図書室〉
放課後の図書室。この時間帯は自習をする人がちらほらいるだけで、とても空いている。
「すいません。本の返却をお願いします」
「わかりました。…………はい、返却の手続きが終わりました」
「ありがとうございます」
どうしよう……何か借りていこうかな。この前借りられていた本が返却されていたら借りようかな。
「……春日井先輩」
本を眺めていると小さな声で話かけられた。声の主は同じ図書委員で後輩の
味美さんとは図書委員で一緒の仕事をしていて、好きな小説や作家さんが一緒で仲良くなった。
「今日も何か本を借りに来たのですか?」
「ううん。今日は返却しにきただけだよ。でも面白そうなのがあったら借りて行こうかなって思って」
「そうなのですね。……それなら以前話していた“パンケーキ事件”とかおススメですよ」
「あっそれ気になってたんだ。あったら借りてみるね」
「はいぜひ。また読んだら感想教えてください」
図書委員会がある時、仕事が終わったら味美さんとは感想をお互いに話したりする。味美さんの感想は聞いていて面白いので僕の中では密かに楽しみな時間だったりする。
「味美さんは……それ全部借りるの?」
「……はい。前に借りたのは全部読んでしまったので」
「え、もう全部読んだんだね。すごいね」
「空いている時間に読んでいたら、読み終わってしまいました」
体の1/3ほどの量の本を両手で持っている味美さん。前に借りていた時も今と同じくらいの量だった気がする。話題の本から難しそうな本まで色々だ。
「持つの手伝おうか?」
「い、いえ大丈夫です。重い本を持つのは慣れているので……。お気持ちだけでありがたいです」
「でも危ないから、カウンターまで手伝うよ」
「お、重たいですよ」
上に積まれていた何冊かを持つ。ずしっと重量感がある分厚い本ばかりだ。こんな重たいのに涼しい顔だったな味美さん。
「あ、ありがとうございます。……やっぱり春日井先輩は優しいですよね」
「そ、そんなことないよ」
「……ふふっ」
カウンターまで運び終わり手続きを済ますと味美さんが借りた本を鞄の中に入れていく。
「ありがとうございました。とても助かりました」
「ううん。これくらい全然。また何かあったら言ってね」
「はい。頼りにさせてもらいますね」
◼️
〈靴箱〉
「やっほー」
ある日の放課後に靴箱にいたところ、桜佐さんに話しかけられた。
「今帰り?」
「うんそうだよ」
「なら一緒に帰ろ? この前は不二に邪魔されて帰るタイミング逃しちゃったし」
「いいよ」
僕は二つ返事で答えた。桜佐さんとは家も近く、帰り道もほとんど一緒だ。
「いやー超久しぶりだね、こうやって帰るの。まあ……私が色々と忙しかったのもあるけど」
「そうだね。…………桜佐さんは体とか大丈夫? 仕事が最近忙しいって聞いたけど」
桜佐さんは人気なモデルさんだから雑誌のインタビューとか撮影がたくさんあって忙しいってクラスの女子たちが話していた。
「えっ全然大丈夫だよ。心配してくれてるの? 優しいなあ千尋は……そういうところ昔と何も変わんないね」
「そ、そんなことないよ」
学業とお仕事を両立するのはとても大変なことだと思う。だけど桜佐さんはいつも元気で疲れているところとかを見たことがない。本当にすごいと思う。
「ねえねえ千尋。桜佐さんなんて呼び方やめてよ。幼馴染なんだから昔みたいに咲ちゃんって呼んでよ」
「い、いや。咲ちゃんはちょっと……恥ずかしいよ」
「えーどうして?」
「ど、どうしても」
「ちぇー。……でも思い出すなー。小さい頃はさ、私が千尋の周りの事全部やってあげてたっけ」
「う、うん」
僕は運動も勉強も苦手で桜佐さんに全部教えてもらっていた。加えて両親も出張で家にいない、結衣姉さんも部活で忙しいことが多いので、近所の桜佐さんがご飯を作りに来てくれたことも多々あった。
桜佐さんもお世話が好きなのか、僕が何もできないことを不憫に思ったのかわからないが小学生に上がって高学年くらいになってもお風呂から着替えとかも全部手伝ってくれていた。
今思い出すと恥ずかし過ぎる……。
「覚えてる? 小さい時さ、千尋が私の家に泊まりに来た時に雷が怖いからって抱き合って寝たこと」
「…………うん覚えてるよ。台風来てた時だよね」
「そうそう! あの時の千尋は可愛かったなあ」
「恥ずかしいから早く忘れてほしいよ」
「ふふん残念、鮮明に覚えてるよ。あっそうだ。千尋、明日までの数学の宿題やった?」
「え…………あっ」
すっかり忘れていた。科目の中で数学が一番苦手で授業中も何を言っているのか全然わからない。数学なのに数字より英語の方が黒板に多く書かれてるところとかもわからない。
「もしかして忘れてた?」
「う、うん」
明日までに提出しないと先生に怒られてしまう。数学の先生は怖いから嫌だな。家に帰ったら頑張って解かないと。
「教えてあげようか?」
「…………いいの?」
「もちろん!」
「お、お願いします」
自分だけではわからないところだらけなので、桜佐さんが教えてくれるのはすごく助かる。
「任せなさい! まったく、千尋だけなんだからね。私から教えてもらえる男の子なんて」
「うん…………あ、ありがとう」
「どーいたしまして♪」
この後、桜佐さんに教えてもらったおかげで宿題を無事に終わらせることができた。
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