廻間麗奈⑱

◼️



 そして大会当日。廻間先輩と約束をしたので、会場まで応援をしに来た。


 自宅からあまり遠くなく、スマホで確認しながら目的地まで迷わずに着くことができた。


「ここ……だよね」


 会場に到着すると剣道部らしき人たちがたくさんいた。みんなどこか緊張しているように見える。それを見て僕もなぜか緊張をしてきた。


 応援席に行く為の通路を歩いていると宮町先輩と廻間先輩を発見した。どうやら会話が終わったらしく、宮町先輩が僕と一緒の応援席に向かっていた。


 邪魔をしてはいけないと僕もそのまま向かおうとした時、廻間先輩に見つかってしまう。


「あっ千尋くん来てくれたんだねっ!」


 笑顔の廻間先輩が足早に僕の方に向かってくる。


「はい。約束したので」


「ふふっ嬉しいよ。……絶対に優勝するから見ててくれ」


「応援してます。頑張ってください」


「うん。…………あと、その……約束は絶対に守ってくれよ」


 廻間先輩が優勝したらまた甘やかす。恥ずかしいが約束は約束だ。


「わ、わかりました」


「ふふっ。じゃあいってくるね」


 廻間先輩が選手の控え室の方に歩いていく。



 ────



「優勝したら、また君の手で撫でてもらえる、褒めてもらえる、甘えさせてくれる……」


 あの幸福のために私は優勝する。




 




『個人の部、優勝は青ヶ丘高等学校三年の廻間麗奈さんです』



 大会は廻間先輩の優勝、前人未到の三連覇で幕を閉じた。


 始まってみると廻間先輩は怪我のブランクをまったく感じさせず、終始相手選手を圧倒するものだった。


 試合をしている廻間先輩の姿はとてもかっこ良くて、綺麗で凛としていた。見ていただけなのに僕も興奮してしまった。


「やっぱり廻間さんは強かったなあ」


「王者の貫禄って感じだったな」


「うん。今日の試合が今までで一番だったかもな」


 応援席にいた他の高校の生徒も廻間先輩の話で持ちきりだった。


 興奮が冷めないまま会場から帰ろうとすると、剣道部員と宮町先輩が廻間先輩を祝っている現場に遭遇する。


 僕も廻間先輩におめでとうございますって言いたかったが邪魔をしてはいけないので、またの機会にしよう。


 帰り道、携帯を見てみると廻間先輩から連絡がきていた。



『今日この後私の家に来てくれ。必ず来てほしい。待ってるよ』




 □■□



「先輩、さすがですっ! 本当におめでとうございます!!」


「怪我した時は本当にどうなるのかと思ってましたけど、やっぱり麗奈先輩はスゴいです!」


「今日はいつも以上に完璧な麗奈先輩でした!」


 涙を流しながら祝ってくれる後輩たち。


「ありがとう。最後にみんなの前でカッコいいところを見せることができて良かったよ」


 終わってみれば自分の中ではあっさりと優勝することができた。


 怪我の痛みも不安も感じることはなく、体のコンディションも今までで一番良い。負けるとは微塵も思わなかった。


 こんなことは初めてだ……。やはり千尋くんが応援してくれたからだろう。


「廻間さすがだぞ。俺は信じてた」


「……ありがとうございます」


 先生が笑顔で祝ってくれた。本当にわかりやすい人だ。怪我して大会に出られないかもと連絡した時は目も合わせなかったのに。


「麗奈、優勝おめでとう。やっぱり麗奈は完璧だったな」


「ふふっ。ありがとう仁」


 仁とがっちりと握手をする。


「…………と、ところで、もしよかったらその、この後夜とかお祝いでご飯とかどうだ?」


 仁からの食事の誘いを見ていた周りの剣道部員たちが盛り上がる。仁も顔を赤くしている。


「すまない。今日は疲れたから、また後日でもいいかな?」


「そ、それもそうだな。じゃあまた日を改めて。今日はゆっくり休んでくれ」


「うん。ありがとう」


 食事か…………。行くわけがないだろう。


 みんなと別れた後、すぐに千尋くんへ連絡をした。


『今日この後私の家に来てくれ。必ず来てほしい。待ってるよ』


「はあ……」


 千尋くんのことを考えると今日の試合よりドキドキしてしまう。


 …………早く会いたいな。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る