廻間麗奈⑰
□■□
<麗奈の部屋>
千尋くんが帰った後も私はベッドの上で余韻に浸っていた。
『は、廻間先輩はいつも本当に頑張ってますよ。すごいです。頑張りすぎなくらいだと思います』
『先輩はもっと甘えてもいいんですよ。完璧じゃなくても大丈夫なんです。無理しないでください』
『先輩は僕の憧れです。いつもかっこ良くて、みんなに優しくて』
「…………ふふっ」
甘えてもいい……甘えさせてくれる。完璧じゃなくてもいいんだ。千尋くんからの受け取った温かく魅力的な言葉を頭の中で何度も何度も反芻する。
今まで生きてきてあれほど胸が温かくなる時間はなかった。両親、先生方、友人、部活の仲間たち……
誰一人私にあんな言葉をかけてくれる人はいなかった。 千尋くんに撫でられている時、身体全体が幸せだった。優しくて、触れられたところ全てが気持ちよくて……。
加えて言葉を耳元でささやかれた時は電流が走ったのかと思うほどの快楽だった。千尋くんが私を抱きしめていなかったら溶けてしまうのではないかと思うほどだ。
「………んっ」
思い出しただけでもどうにかなってしまいそうだ……。
千尋くんに甘えている時間は本当に幸せだった。また甘えたい。またあの手で撫でてほしい。また耳元で褒めてもらいたい。またあの幸せを味わいたい。そのためには……。
「…………絶対に優勝してみせる」
怪我をしていても、相手が強くても関係ない。何が何でも優勝する。千尋くんからもらったハンカチのお守りを胸の上でぎゅっと握りしめた。
□■□
廻間先輩の家に行ってから何日か経った。あの日以降、廻間先輩は目に見えて元気になっていった。笑顔も多くなり、活気が出てきているように感じる。
廻間先輩の元気も戻って、周りの生徒や部活動の仲間たちもとても喜んでいた。
<教室>
「千尋ー、明後日なんだけど何か予定とかある?」
休み時間、桜佐さんが話しかけてきた。
「えっと……うん。その日はちょっと用事があって」
「マジか。一緒に映画でも行きたいなーと思ったのに……。ほら昔一緒に見た映画の続編、千尋の好きなやつ」
「ご、ごめんね」
「ちぇー。じゃあ今度の休み空けといてよ。映画一緒に行くから」
「わ、わかったよ空けとくね」
「それにしても可愛い可愛い幼馴染みの誘いを断るほどの用事かー。あっ……もしかして廻間先輩の大会見に行くの?」
「……うん。どうしても来てほしいって言われてて」
廻間先輩の家から自宅に帰った後、先輩から大会に応援に来てほしいとの連絡が何十通も届いた。
『千尋くんに私の最後の晴れ姿を見てほしい』
『他の誰でもなく、千尋くんに見てほしいんだ』
『千尋くんに応援してもらえば優勝できる』
『君に見てもらわないと不安になってしまうんだ』
『千尋くんのために頑張るから絶対来てほしい』
みたいな内容だった。『応援しに行きますね』と返信すると感謝の連絡がこれも何十通も送られてきた。
返信しないのも悪いと思ったので一応全部返信はしたけど……廻間先輩ってこんなに連絡を多く送ってくる人だったけ。
「そっか。……でもさ、廻間先輩良かったよね。大会出れるんでしょ?」
「うん。なんとか怪我の方も間に合ったみたい……すごいよね」
「いや凄すぎでしょ。やっぱり廻間先輩って普通の人じゃないね」
なんでもお医者さんが驚くくらいの回復力で怪我が治っていき、大会にも間に合うとのことだ。
「廻間先輩、怪我が治って元気になったのはもちろんなんだけど……なんか綺麗になったよね」
「そ、そうかな?」
「うん。あれは絶対好きな人ができたに違いないよ。宮町先輩と何かあったのかなー」
「ど、どうなんだろうね」
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