廻間麗奈⑮
■
<放課後>
約束通り廻間先輩と一緒に帰っているが何か話すわけでもなく、黙々と歩いている。
「…………」
「…………」
そのままお互いに何も話すことなく、とうとう先輩といつも分かれる場所に到着してしまう。
「えっと……」
「春日井君。一緒に来てほしいところがあるから、付いてきてほしい」
「は、はい」
言われた通り廻間先輩に付いていくと大きな一軒家に到着した。表札に『廻間』と書かれている。廻間先輩の家のようだ。
「入ってくれ」
「え、でも……」
「お願いだから」
少し押してしまったら泣いてしまいそうな顔の廻間先輩。
「わかりました」
断ることができずご自宅にお邪魔をする。
「お、お邪魔します」
「……父も母もは今出張中だから、そんなにかしこまらなくても大丈夫だよ。私の部屋で話そう、こっちだ」
案内された廻間先輩の部屋は机とベッドしかなく、マンガやゲームとかそういう娯楽品はひとつも見当たらず、机に参考書があるだけだ。
「ごめんね何もなくて……。つまらない部屋だろう」
「い、いえ。そんなことないです」
床に座ろうとするとベッドに座るように促される。申し訳ない気持ちがあるがベッドに座らせてもらう。廻間先輩は椅子に腰かけると口を開き始めた。
「…………前にプレッシャーで疲れてるって話したの覚えてるかい?」
「はい覚えてます」
まだ廻間先輩は怪我をする前に一緒に帰った時に話してくれたことだ。
「正直……この怪我をした時、部活のプレッシャーから解放されて……嬉しいと思ってしまったんだ」
「…………そうなのですね」
「怪我をしたって伝えた時は顧問の先生からは案の定、失望した目や溜息を向けられたよ。部のみんなからは心配の声を少しだけもらった。
でもすぐに『先輩の分まで頑張るので、勉強の方を頑張ってください』って声ばかりになった。……仁も同じだった」
グッと拳を握る廻間先輩。
先生からは失望され、部の仲間からの心配の声は少しだけですぐに期待の声に変わってしまった。
結局、廻間先輩は怪我をしてもプレッシャーから逃れることはできなかったのだ。
「完璧であることに…………もう、疲れたよ」
「…………」
もしこのまま廻間先輩から離れてしまったら、もう僕の憧れている廻間先輩とは会えない気がした。
今の廻間先輩に励ましの言葉は響かないと思う。僕が感じていることをそのまま伝えよう。
「あ、あの、廻間先輩はもっと人に甘えていいと思いますっ!」
「えっ……」
僕の言葉に廻間先輩は驚いた様子だ。
「周りから期待されるってこと僕には経験ないので、廻間先輩の苦しさを理解することはできないですけど、先輩はもっと言っていいと思います!
疲れてるとか、頑張りたくないとか、休みたいとか。素の自分を見せれる人に、例えば宮町先輩とかにもっと見せてもいいですよ」
「………………………………甘えてもいい。素の自分を出す」
「周りのみんなも完璧じゃない廻間先輩を絶対受け入れてくれると思いますっ!」
廻間先輩は頑張りすぎだと思う。完璧を求めすぎだと思う。
もっと気楽というか完璧じゃなくて、弱いところを他の人に見せてもいい。僕の今の気持ちを言葉にして廻間先輩に伝えたつもりだ。
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