廻間麗奈⑭
□■□
<職員室>
「まさか廻間がケガしてしまうなんてな……」
「すいません」
「はあ……」
溜息を吐く先生。目に見えてイライラしており足を激しく揺すっている。
「もう大会には出られないのか?」
「その可能性が高いです」
「まあ……こんなんじゃ出れても優勝は厳しいか。…………っち。もう大会まで好きにしていいぞ」
「……はい」
一回も私と目を合わそうとせずに会話が終わってしまう。
……まあ優勝できない『廻間麗奈』の価値なんてこんなものだろう。
職員室から出ると廊下に部の後輩が数名立っているのを見つけた。私を見つけると勢いよく駆け寄ってきた。
「麗奈先輩っ!!」
「怪我大丈夫ですか?」
「うん。安静にしていれば問題ないよ。ただ大会に出れるかどうかは微妙だね」
「そ、そんな……」
私の返答にみんな下を向いてしまう。数秒間誰も口を開かない時間が流れた。
「でもねもしかしたら治──」
「私、先輩の分まで頑張るので、勉強を頑張ってください!」
一人の部員が言葉を発した。そこからはみんなが顔を上げて、私に励ましの言葉をかけてくれた。
『先輩の分まで』『先輩は勉強の方を頑張って』『部活は残念でしたけど、初の大学合格期待しています』
涙を浮かべながら言葉をかけてくれる子もいた。
でも誰も私の怪我の完治を信じてくれる人はいない。……部活はもう終わり、次は勉強が完璧な私を期待している。
「……そうだね。みんなのこと応援してるよ」
あまり覚えていないが、私はこんなようなことを言った気がする。口が勝手に動いていた。みんなの理想の『廻間麗奈』を壊さないように。
□■□
「あっ」
図書室に向かう最中、廻間先輩と宮町先輩が話しているところに見つけてしまった。つい何を話しているか気になって盗み聞きをする。
「怪我は仕方がないことさ。一生懸命やっていれば誰にでも起こり得る」
「……ああ。そうだね」
「それに部活がすべてじゃない。この悔しさをバネにして勉強の方に力を入れていこう。麗奈は完璧なんだから」
宮町先輩が廻間先輩の肩をポンっと優しく叩く。
「そうだね。……励ましてくれてありがとう仁」
「お安い御用さ。そんなに落ち込まないようにな。じゃあ」
宮町先輩がいなくなっても廻間先輩はそこから動こうとせず、まるで糸の切れた人形のようだった。
「…………っ」
「せ、先輩大丈夫ですか?」
心配になり、思わず声を掛ける。
「ああ……千尋君か。うん大丈夫だよ」
廻間先輩は僕を見て微笑んでくれるが、いつもより元気がない。目の下にも隈がはっきりと見える。
「怪我をしてしまってね。右手首が痛くて、ずっとかばって練習していたら……左手首が悲鳴を上げてしまったよ」
廻間先輩の左手首には包帯が痛々しく巻かれていた。
「順調なら大会には間に合うかもしれないが、治るまでもちろん練習は禁止だそうだ」
「そうですか……」
もし治ったとしても練習なしのぶっつけ本番で大会の優勝は廻間先輩でもとても厳しいと思う。
高校生活最後の大会。廻間先輩は部員の誰よりも練習をしてその大会の優勝を目指していたのに、出られないかもしれないなんて……。
落ち込んでいる廻間先輩になんて声を掛ければいいのか迷っていると廻間先輩から話しかけてくれた。
「今日の放課後、また一緒に帰ってくれないか。…………お願いだ」
「はい。大丈夫です」
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