第8話 廻間麗奈③
<掃除時間>
授業も終わってみんな帰っていっていく中、僕は今週が掃除当番なので教室の掃除をしている。
掃除中、みんな今日返ってきたテスト結果の順位の話をしている。
「ねえねえ千尋。テストどうだった?」
掃除をしていると同じく掃除当番の桜佐さんが話しかけてきた。
「えっと普通だったよ」
「普通じゃわからないよ。数学はどうだったの? 千尋、数学苦手じゃん」
「今回は勉強できたから、赤点は逃れたよ」
今回は数学のテスト範囲がそんなに広くなかったからとても助かった。
「そっか。よかったね。それで何点だったの?」
「60点だよ」
「おお。千尋にしては頑張ったじゃん!」
いつもは赤点になるかならないかのギリギリなのだが、今回は余裕の赤点回避だ。
「私はね、90点だった!」
「すごい。さすがだね」
「へへっ。ねえ千尋、今度さ、みんなでテストお疲れ様会しようよ! カラオケとか言ってわーってストレス発散しよ!」
「うーん。僕はいいよ。人がいっぱいいるの苦手だから」
クラスのみんなでやるお疲れ様会とかが昔から苦手だ。人がいっぱいいて騒がしい場所が苦手だし、自分がそこにいてどういう風に過ごせばいいのかわからない。
「そっか。千尋は昔から少人数が好きだもんね」
「ごめんね」
「ううん全然大丈夫。じゃあさ、今度二人きりでお疲れ様会しようよ!」
「桜佐さんと?」
「うん。……嫌?」
「ううん。いいよ」
「本当にっ!? よっしゃ! 絶対だよ!」
ぴょんぴょんと跳ねて喜ぶ桜佐さん。
桜佐さんは余程嬉しかったのか、気分良く鼻歌を混じりに掃除をしていたが、急にピタリと止まってしまう。
「そういえばさ、千尋って廻間先輩のこと好きなの?」
「え………えっ!?」
桜佐さんのいきなりの質問に動揺してしまう。
「ど、どうして?」
「だってこの前、廻間先輩と一緒に楽しそうに登校してたし、ちょっと前もなんか校舎裏で廻間先輩に近づいてなんかしてたところ見つけちゃったから」
廻間先輩にハンカチでおまじないしているところを桜佐さんに見られてたのか。は、恥ずかしい。
「あれは廻間先輩がケガしてたから処置しただけで……そんな楽しそうにしてたかな?」
「してた。で、廻間先輩のことは好きなの?」
「ほ、ほら今掃除の時間だから……掃除しないと」
「…………千尋」
じっと僕の方を無言で見つめてくる桜佐さん。
「は、廻間先輩のことは人として好きだよ。尊敬しているし、ああなりたいなって思う」
「……………………それだけ?」
「え?」
「恋愛感情とかないの?」
持っていた箒をグッと握る桜佐さん。
「……僕が廻間先輩にそういう感情を持つのはおこがましいよ」
「どうして?」
「だって廻間先輩には宮町先輩がいるし」
宮町先輩はカッコいいし頭も良くて、僕なんかとは比べられない。
廻間先輩も付き合うなら宮町先輩みたいな人の方が絶対にいいに決まっている。
「それって千尋が廻間先輩に恋愛感情を持たないのと何か関係があるの?」
「……それは、ないけど」
「じゃあそういうのなしにして答えてよ。廻間先輩のことが恋愛的に好きなのか?」
「…………廻間先輩を恋愛対象では見たことはないよ」
「本当に?」
「…………うん。今は」
「今は? 今はってことはこれからはなるかもしれないってこと?」
じりじりと近づいてくる桜佐さん。なんか圧みたいなものを感じる。後ろに下がっていくと僕は壁際まで追い込まれてしまい、桜佐さんは目の前に立っている。
「ち、近いよ桜佐さん。少し離れよ」
「やだ。大事なことだから、千尋がはっきり答えてくれるまで離れない」
「そ、掃除、終わらせないと」
「もうほとんど終わってるじゃん」
確かにもう掃除はほとんど終わっている。桜佐さんは昔からこうって決めたら自分が納得するまで辞めないからな。はあ……言うしかないのかな。
「ほら言って? 廻間先輩と今後もし可能性があったら付き合いたいの?」
「……今後もし――」
「咲ー。早く帰ろうぜ……って何してんだお前たち」
諦めかけた時、桜佐さんの掃除が終わるのを待っていた不二くんがやってきて、桜佐さんに話しかけてくれた。
不二くんはクラスの男子の中心的存在だ。桜佐さんと仲が良くて、よく一緒に帰っているのを見かける。桜佐さん曰く、不二くんとは友達で付き合うとかはありえないらしい。
「ちょっと千尋に聞きたいことがあってさ」
桜佐さんが不二くんの方に顔を向けた隙にその場から抜け出す。助かった、ありがとう不二くん。
「じゃ、じゃあ先帰るね」
「えっ……あっ待って千尋。まだ答えを聞いて……」
桜佐さんの制止も無視して、掃除道具をロッカーに急いでしまって教室から出ていく。
「なんだあいつ。急いで帰って行ったな」
「はあ……」
「どうしたんだ。ため息ついて」
「……………別に」
「おいおい。なに怒ってんだよ」
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