第9話 廻間麗奈④

「痛っ」


 慌てて逃げてきたせいで人とぶつかってしまい、床に転んでしまう。


「す、すまない大丈夫かい……って千尋くん?」


「は、廻間先輩?」



 部活の服を着ている。そっか……テスト期間が終わったから部活動も今日からまた再開だった。


「すいません。ぶつかってしまって……」


「いや全然大丈夫だよ。……千尋君、怪我をしているじゃないかっ!?」


「えっ……あ」



 確認すると肘が少し擦り剝けていた。転んだ時にできたのだろう。ちょっとヒリヒリするがなんてことない。



「早く保健室に行かないと」


「こ、このくらいなら平気ですよ。ぶつかってしまって本当にすいませんでした」



 その場から立ち去ろうとすると廻間先輩が強引に前に入ってくる。



「いや駄目だ。保健室に行くぞ」


「でも、本当にちょっと擦り剥いただけなので……」


「そこからばい菌などが入ってしまう可能性だってある。保健室に行って消毒だけでもしてもらった方がいい」



 かなり熱のこもった様子の廻間先輩。先ほどの桜佐さんと同様の圧を感じる。僕のことをそんなに心配してくれているのかな……。



「先輩、部活の練習ありますよね。僕一人で保健室行けるので大丈夫ですよ」


「いや、私としてもぶつかってしまった申し訳なさがある。一緒に行かせてほしい。それにこの前のおまじないのお礼もまだしていない」



 廻間先輩の手元をふと見てみると手首にハンカチが結ばれていた。おまじないを続けてくれているんだ。



「う、うーん」


「…………断るなら強引に連れていくことになるよ」


「わ、わかりました」


「よし。じゃあ保健室に行こう」



 廻間先輩の後ろを付いていきながら保健室に向かう。保健室に到着し、扉をノックして中に入る。



「失礼します。…………先生は今不在のようだな」



 保健室の中には人がおらず、先生はどこかに行ってしまっていた。



「先生がいないなら、消毒は大丈夫ですよ」


「いや消毒液の場所はわかっている。確かここら辺に……あった」



 廻間先輩が机の上に置いてあった消毒液とガーゼを持ってくる。



「勝手にいじってもいいんですか?」


「大丈夫だ。駄目でも後で謝ればいいさ。さあ肘を出してくれ。少し染みるぞ」



 擦りむいた箇所を出すと廻間先輩が消毒を垂らして、ガーゼをトントンと当てる。


 ……ちょっと染みて痛い。



「ぃっ………」


「…………………」



 消毒が終わっても、無言でじっと僕の肘を見つめる廻間先輩。


「……………廻間先輩?」


「えっ…………あ、ああ。すまない。ちょっとボーっとしていて。よしこれで消毒完了だ」



 少し慌てた様子であったが、消毒液などを元の場所に手際よく片付ける。



「ありがとうございます。消毒までしてもらって」


「いや、これくらい何てことないさ。君のくれたこのおまじないに比べたらなんてことないよ」



 ハンカチの付いた手首を撫でる廻間先輩。力になれたみたいでなによりだ。



「またいつか何かお礼します」


「お礼か。……………なら今日の部活の練習を見学に来てほしいな」


「見学ですか?」


「ああ。君に久しぶりに私の頑張りを見てほしくてね。…………ダメかな?」



 今日は何も用事もないし、一回くらいなら見学してもいいかも。廻間先輩の部活を頑張っている姿を見てみたいし。



「わかりました」


「ほ、本当かい!? ははっ……嬉しいよ。じゃあ行こうか」


 とても嬉しそうな廻間先輩。そ、そんなに見学に来て欲しかったのか……。

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