第3話
〈教室〉
「情けない体ー」
「お腹の痣って昨日咲がキックしたやつかな」
昨日同様、誰もいなくなった放課後の教室。昨日と同じ女子3人と桜佐さんに囲まれると制服を脱がされ、パンツのみにされて教室に残されている。
「……服、着てもいいですか?」
「ダメに決まってるだろ」
「あーあ。本当にナヨナヨしてて気持ち悪ーい」
「咲の好きな人とは全然違うねー」
「ちょっと。こんなのと恵介を比べないで、怒るよ」
「ごめんごめん」
「今日もこの後予定があるから、これで許してあげる」
そう言うと桜佐さんは掃除用のバケツに溜めた水を僕の頭にかけてきた。
体も床もびしょ濡れになってしまう。水はとても冷たく、体の体温を奪っていく。
「あははははっ!! だっさー」
「今回は服が濡れないように脱がしてあげたんだからありがたく思ってね」
「わー。咲、優しい」
「…………はい。ありがとう、ございます」
「床拭いとけよ」
何事もなかったように桜佐さんたちは教室から出て行く。
「…………うぅ」
◆
〈渡り廊下〉
教室の床を拭き終わり、下駄箱に続く渡り廊下を歩いていると廻間先輩と仲の良い
……最悪だ。
先輩の前を通らないと下駄箱に行けない。時間をどこかで潰す? でも先輩たちの話がいつまで続くのかもわからないし……。
幸いにもまだ先輩は話に夢中で僕に気付いていないようだ。なるべく気づかれないように先輩の前を足早に通り過ぎる。
「そこの君。ちょっと待って」
な、なんで……。楽しい話をしてるなら僕なんて無視すればいいのに。
呼び止めると渡り廊下にコツコツと靴音を響かせながら僕に近づいてくる。
「制服が乱れているぞ」
「えっ……………ぃっ!」
宮町先輩に見えないように足をぐりぐりと踏みつけられる。制服のボタンを留めてくれる振りをして、耳元で小さな声で話しかけてきた。
「私たちの幸せな時間を……何故お前はいつも邪魔をするんだ」
「…………す、すいません」
足を踏む力がさらに力強くなってきた。廻間先輩は宮内先輩に背を向けているので顔が見えていないと思うが、
「消えろ」
トンと胸を押される。僕から離れると優しい顔のみんなから憧れている廻間先輩に戻っていた。
「次から気をつけるように」
◆
〈自宅〉
今日もいじめに耐えて部屋に入ると、部屋中が台風来たのかとが思うほど荒らされていた。
…………結依姉さんだ。
今日はいつもよりひどく荒れている。よほど気に入らないことが大学かどこかであったのだろう。
「…………えっ!? な、ないっ!!」
でも今回は荒らすだけじゃなかった。写真がなくなっていた。亡くなったお母さんとの写真が全部、きれいさっぱりなくなっている。
「結依姉さんっ!!」
「………………うっさいな。何?」
リビングのソファでくつろいでいる結依姉さんに詰め寄る。
「僕の写真どこやったのっ!?」
「はあ。何で私に聞くわけ? お母さんじゃないの」
スマホから目を離ずに答える結依姉さん。
「だって、いつも機嫌が悪くなったら僕の部屋をめちゃくちゃにするの結依姉さんじゃん!」
「そんなの知らない。私のせいって勝手に決めるな、ウザい」
変わらずスマホを操作し続けている結依姉さんに
「…………っ。か、返してよっ!!」
ソファにいる結依姉さんに近づき肩を掴む。
あの写真はお母さんと僕が一緒に写っている大切な思い出の写真だ。亡くなってからずっと大切にしてきた。
返して返して返して返して返して返してっ!!
「っ! 痛いなっ!」
僕より力の強い結依姉さんに簡単に押し返されてしまい、床に倒れ込む。
「っぅ!!」
「知らないって言ってるだろっ! しつこいんだよっ!!」
倒れ込んだ僕に結衣姉さんは殴る蹴るを繰り返す。お腹、背中、膝、腕、顔、首…………体中に痛みが駆け巡る。
「私は知らないって何回も言ってんだろう、なあっ!!」
「返して………お母さんの写真……返してよ」
「…………マジムカついた。今日はあんたが謝るまでずっと殴るから」
僕も必死に抵抗をするが、結依姉さんの延々と続く暴力に心が折れてしまった。
「…………ごめんなさい。僕の、勘違いでした」
「はあ……はあ……。うざっ」
結依姉さんは謝罪に満足したのか、扉を思い切り閉めてリビングから出て行った。
「……………………どうして、こんな」
■
タンスや本棚が倒され漫画が散乱している部屋。結依姉さんからの暴力が終わった後、その部屋のベッドで横になっている。
「………………」
もう、疲れた………………限界だ。これ以上は耐えられない。
足取り重くベッドから起き上がり、そのまま部屋を出て家からも出ていく。
外は日が落ち始め、オレンジ色になっていた。
死ぬならなるべく誰にも迷惑をかけないで死なないと。学校の近くに川があるからそこに行って……。
ふらふらと歩いていたので、気付くと踏切に来ていた。
「えっ……」
目の前に一人の女の子が踏切内で立ちすくんでいるのを発見する。
「な、なんで……」
踏切の中に少女がいるのに周りの人は何故か誰も気づいていない。まるで何もないかのようだ。
電車がどんどんと迫ってきている。このままだと少女は轢かれて死んでしまう。
…………どうせ死ぬなら最期は人を助けて死のう。
僕は迫っている電車には目もくれず無我夢中に走り出し、踏切内に入って少女を押し出すことができた。
「えっ……何で私が見えて――」
良かった。間に合っ――――
グシャ……
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