第2話
〈自宅〉
「…………ただいま」
リビングに入ろうと扉を開けると結依姉さんに遭遇する。
7年前に僕のお父さんとお義母さんが結婚して結依姉さんと出会った。僕とは違って運動もできて、頭もいい。身内から見ても美人で大学でも告白を何度もされているらしい。
家では僕の姿を見るたびに舌打ちをする。自分の機嫌が悪いと暴力や僕の部屋を荒らしたりする。
「…………ちっ」
僕の顔を見るなり表情が一変、笑顔から苦虫を噛かみ潰つぶしたような顔になる。
「邪魔」
「ご、ごめんなさーー」
パチンッ! 慌てて結依姉さんを避けようとすると、急に頬を叩かれる
「っ………………」
「さっさとご飯作れよクズ」
「…………はい」
「ううん何でもないよ! いいなーそっちの弟はー。こっちなんて本当にどうしようもないよ。グズで不細工でさー」
◼️
〈千尋の部屋〉
いじめが始まってもうすぐ一年が経とうとしている。もう体も心もボロボロだ。これ以上は本当に耐えられない。
いつかみんな、いじめをやめてくれるはず。いつか桜佐さんも廻間先輩も結依姉さんも前の優しかった頃に戻ってくれるはず。
いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……いつか……。
そんな風に期待していたのも、今では馬鹿馬鹿しく思ってしまう。
「もう…………死んじゃおうかな」
死んでしまった方が楽なのかもしれない。死んだらこんな理不尽な目に合わなくても済む。
ベッドから起き上がり、机の引き出しに隠しておいた薬を取り出す。
睡眠薬だ。
いじめられるようになってから眠れなくなったので、強い効き目があるものを取り寄せて飲むようになった。
いつもは1錠なのだが、手に乗せられるだけの睡眠薬を瓶から取り出して、一気に飲み干す。
「…………っん」
これで、ずっとずっとずっとずっと………眠れることができたらいいのに。
そしたらこんな悪夢なんて見なくても済むから。
◻️■◻️
〈天界〉
『あーあ暇だなー。暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇暇』
天使Zが机の上に座って足をぶらぶらと揺らしている。
Zはとても優秀な天使だ。
能力は天使の歴史の中でも頭ひとつ抜けていて、できないことは何もない。何百年に一人の天才。天使の間では怪物と呼ばれている。
それゆえに仕事も早く終わってしまい、退屈な時間が多い。
『そうだ! 人間の人生設計をぐちゃぐちゃにしてあーそぼっと♪』
机から降りると足取り軽く、人間の資料が収納されている棚に向かう。
『うーん。どうやって遊ぼっかなー…………そうだ!』
Zは手を叩くと収納されている資料を何十冊か取り出す。
『人間に課題を背負わせて誰が生き残るかってゲームしよう』
さっきまでの退屈そうな顔はなく、とても生き生きとしている。
『課題は“親しい異性に嫌われる”にしよう! 嫌われるレベルをマックスまで上げて、精神的に追い込まれればそれだけで死ぬでしょ。人間って脆いから』
そう言ってZは取り出した資料を開き、楽しそうに何かを書き込んでいく。書き込んでいる手はとても早く、目で追えないほどだ。
とてつもないスピードで資料への書き込みを終わらせていき、あっという間に最後の資料に手をつける。
『ふふふーん♪ ……じゃあ最後の人間はえーと“カスガイチヒロ”ね。おお可愛らしい人間。好みかも♡ いじめに負けずに頑張ってねー』
天使は最後の人間の名前を呼んだ後、同じように資料に何かを書き込む。
『はい終わりー。ふふっ楽しみだなー。誰が最後まで生き残るかな?』
◻️■◻️
「……………………っん」
目を覚ますといつもの見慣れた天井があった。……僕の部屋だ。
…………変な夢を見た。何をやっているのかわからなかったけど、どこか恐ろしい夢だった。
「……………」
机に睡眠薬がある。結局、僕は死ねなかったんだ。窓を見ると外はもうすっかり暗くなっていた。
「…………ご飯、つくらないと」
重い体を動かして、ベッドから離れてリビングに向かった。
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