第27話 先行投資!
「……ということで、スライムが約千名。鼠人が約千名という結果になりました」
セレーナの報告を、俺は目を瞑って聞いていた。
そんなにたくさんいるわけがない……いや、現実を見よう。
恐る恐る目を開くと、大量の鼠人とスライムが大広間を埋め尽くしていた。
「まさか、アレク殿下にこんな力があるとは……」
セレーナはいまだに信じられないといった顔だ。スライムは変わりないが、鼠の姿が大きく変わったことに驚いているようだ。
さっきまで俺は、エリクとティアが集めてくれたスライムと鼠を眷属にしていた。
鼠人は俺の眷属になったことで子犬ぐらいの大きさになったから、声も大きい。チューチューとそれはもう大変賑やかだ。
セレーナが先ほど卒倒しそうになったのも無理はない数だ。
また、気になっていた眷属化後の個体差だが、大きな違いはなかった。
鼠はだいたい子犬ぐらいの大きさになり、二足歩行と俺との会話ができるようになっていた。中には、人の子供ぐらいの大きさのやつもいるけど……
スライムに関しては、本当に皆、眷属になる前と区別がつかない。魔物は姿が変わりにくいのかもしれない。だけど、俺の言葉は皆、理解できているようだった。
ともかく、俺は二千名近くの眷属を抱えてしまったわけだ。
加えて、鼠もスライムも繁殖力の高さで知られる……
「スライムは水を与えればどうにかなると思いますが……」
エリシアの不安そうな声に俺は頷く。
「鼠たちはそうもいかないな。ティア、食事は用意するが」
「チュー! 王様の言うことなら、子供を増やすのは考えるっす! そもそも、うちらもあまり子供は増やさないようにしてるっすから」
鼠人の長にしたティアは、そう答えた。
このアルス島は食料が少ない。
それもあって、人口を調整していたのだろう。
王様という言葉が気になるが、まあ俺の呼び方はどうでもいい。
「そうしてくれると助かる……スライムたちにも、もちろんちゃんと食料は用意する。だから分裂のほうはしばらく控えてくれるか?」
俺の声に、エリクとエレノアはぴょんと跳ねた。
スライムたちもまた、食料と人口には気を使っていたようだ。
「差し当たっては、水と食料を自分たちで確保できるようにしたいと思う」
食料はしばらく、帝都やローブリオンなど別の街で調達する必要があるだろう。それから狩りや漁業などで、自分たちで得られるようにする。
水に関しては水魔法でもどうにかなるが、やはり自分たちでいつでも飲める状態が好ましいはずだ。
「ティア。ここらへんで、飲める水が沢山ある場所を知らないか?」
「それなら、地下に飲める水が流れる場所があるっす!」
つまり、水道があるということか。
俺はセレーナに顔を向ける。
「この都市にも、地下水道があるのかな?」
「帝国の州都なら、まず必ず上下水道は存在するかと。構造は理解していませんが、私が来た時には蛇口から飲み水も飲めましたし、下水道も機能していました……もっとも、私がここにきて千年以上経っているので今も使えるかは不明ですが」
水道の整備にはお金がかかるし、技術も必要だ。
古代に水道を有していた都市も、今は水道を放棄している都市のほうがはるかに多いと聞く。
「分かった。ともかく、その水道の様子を確認しよう。あとは食料だが、まず……ユーリ」
「はい、何でしょう?」
「青髪族に、鼠人たちのために小型のクロスボウを作ってほしいんだが、作れるかな?」
鼠人たちは鼠のときより大きくはなったが、それでも小さい。
だから接近戦よりも、遠距離のほうが戦いやすい。
威力は落ちるだろうが、それでも数で圧倒すればアロークロウは倒せるはずだ。
防衛のためにも、狩りのためにもやはり武器は必要だ。
ユーリは自信たっぷりに答える。
「クロスボウですね! 鉱山のお供でしたから、作れます! なるべく扱いが簡単なものを作ります」
「そうか。材料費は惜しまないから、なるべく良い物を作ってほしい。アロークロウの羽や嘴も、ボルトに使ってくれ」
俺は《パンドラボックス》から金貨が五十枚入った麻袋をユーリに手渡す。
「こ、こんなにいっぱい……大丈夫なんですか?」
ユーリは袋を受取ると、それを不安そうに見つめた。
自分なんかを信用しても大丈夫なのだろうか、ということか。
もちろん信用している。
「大丈夫だ。ユーリや青髪族なら、きっといいものを作ってくれると信じてる」
「……必ずや、良い物を作らせます!」
「頼む。資金に余裕があればナイフや防具なども作ってくれ」
ユーリははいと深く頷く。
しかし、その武器ができて狩りができるようになるまでは時間がかかる。
「とりあえずの食料が必要だな……そうだな、帝都大神殿の修道院で買うか」
俺の言葉に、エリシアははっとした顔をする。
エリシアもいた修道院では、俺と同じ闇の紋章の持ち主や魔族たちが働いている。
そこでは、道具や食料を作っていた。
彼らの生活は、基本的にはそういった物を売ったお金で成り立っている。
俺が食料を買い取ることで、少しでも彼らの生活が良くなればと思った。
「アレク様……きっと、リーナたちも喜ぶと思います」
エリシアは嬉しそうな顔で答えてくれた。
ずっと《パンドラボックス》にお金を寝かせておいてももったいない。
お金を惜しみなく使って、このアルス島……いや、いつかはティアルス全土を豊かな場所にしていこう。
それにはやっぱり、もっとお金が必要。
手堅く稼ぐのもいいが、やっぱり競馬かな。一気に懸けて……っといかんいかん。
「……ともかく、まずはこのアルス島の安全確保から手を着けよう。皆、よろしく頼む」
「はい!」
エリシアを始め、皆元気よく答えてくれた。
こうして俺は、ティアルスの領地運営を始めることにした。
だがこのとき俺は、眷属が二千名増えて得た物を失念しているのであった。
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