496.ルキフェルの心当たり
二人を乗せたヤンは、真っ暗な魔の森をすいすい走る。木々の間をすり抜け、枝の高さを考慮して飛び越えた。
「ヤン、こっちは気にするな」
「結界があるからね」
一声吠えて二人に応じると、ヤンはさらに速度を上げる。目印になるのは、ロアの魔力だ。近付いていく間も、ルキフェルは計測を続けていた。シャイターンの魔力が感じ取れるのはいつか、ロアの魔力の近くに反応はないか。
水晶も身につけて録画し続けるほど、熱心だった。ヤンが速度を上げ、一気に崖を飛び越える。落ちる速度が早く、背筋がゾクゾクした。だがヤンは途中で崖を蹴飛ばし、方向転換する。器用に移動をこなしたヤンは、すたんと着地した。
崖を飛び降り、途中で壁を蹴飛ばして方向を変えながら、向かい側の低い大地に降り立つ。言葉にすると簡単そうだが、背中に二人も乗せて行う曲芸ではなかった。
「ヤン、今のはちょっと……キたぞ」
「分かる、ぞくっとした」
ルシファーが訴え、ルキフェルも同意する。そんな二人を、きょとんとした顔のヤンが振り返った。
「ですが、我が君……結界があるからと仰いましたぞ?」
「言ったな」
ルキフェルは無言で魔力感知の結果に眉を寄せた。
「反応ないけど、本当にシャイターンがいるの?」
「これが不思議なことに、いつもいるんだ」
結界のお陰で揺れを軽減しながら、二人は会話を続ける。目に映る光景のほとんどは黒い闇、時折近付いた木の枝や動物の光る目が視界に入った。魔力で景色を見る二人は、その形を大まかながら掴んでいる。
ロアの影が見えた途端、ぶわっと魔力が発生した。彼女の隣に強大な魔力が現れる。揺らいで光り、すぐに存在が確定した。
「今の……」
「視覚化するとすごい」
水晶を魔力感知に切り替えておけばよかった。ぶつぶつと文句を言うが、ルキフェルの声は弾んでいる。初めて見る光景に興奮していたのだ。
「絶対に僕が解決するからね」
「当てにしている」
ルシファーの応援をもらい、ルキフェルは気合を入れ直した。何一つ見逃さないよう、水晶をいくつも呼び出して設定する。それらを魔力で空中に固定し、姿の見えたシャイターンへ向けた。
「ロア、いつも助かる。甘い匂いは……やっぱり分からないな」
ルシファーが首を傾げる。隣でヤンも不思議そうに鼻をひくつかせた。
「花の香りはしますが、幼い若君からではありませぬ」
「僕もわかんないや」
ドラゴンは鼻が利く。魔獣と大差ない嗅覚を持つが、その分視力や聴覚は鈍かった。ほとんどのドラゴンは、足りない感覚を魔力で補っている。最も敏感に反応する嗅覚を魔力で強化しても、甘い香りは分からなかった。
「っていうか、ロアだけ分かる匂いって……」
「番の話は後だ」
魔獣同様、番の概念を持つのはドラゴンも同じ。竜族、龍族、竜人族。すべてが番を持つ種族だった。竜人族はだいぶ番を見分ける感覚が退化し、現在では恋愛結婚も増えている。しかし竜や龍は別だった。
番の話が事実だとしても、まったくの勘違いだとしても。どちらにしろ、シャイターンが行方不明になる件とは別だろう。
「現時点での推測だけど」
ルキフェルは慎重に切り出した。
「番だと仮定すると、答えが出そうなんだよ。資料や映像を確認すれば、もっとはっきりする。たぶん……番への求愛行動のひとつじゃないかな」
「消えることが、か?」
「すごく珍しいけど、事例を読んだよ。何にしろ、城に戻ってからだね」
ロアに包まれて眠る息子を見つめ、ルシファーも同意した。解決しそうな気配に、気が
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