180.子ども達の個性と将来性
しばらくすると、ルーサルカの次男リンを抱いたアスタロトが顔を見せる。
「ルシファー様、リンもお願いしますね」
まだおむつの年齢だと預かれない保育園のルールに従い、城で働く者の大半は我が子を下の保育所へ預ける。現在は引退した侍女達が顔を出し、積極的にお小遣い稼ぎをしていた。毎日は無理だが働きたい隠居組と、忙しくて我が子に手が回らない若い母親達の利害が一致した形だ。
すでに育児を終えた隠居組は、元侍女ということもあり、慣れた手付きで赤子や幼児の相手をこなす。そちらに預けることもあるが、大公女達の子はルシファーの執務室にいることが多かった。
一番の理由は、常に誰かがいること。イヴの遊び相手にちょうどいいことが挙げられる。イヴの魔力量が多いので、ルシファーやリリスの目が届かない場所に預けるのは難しい。もっと育って、言い聞かせれば理解する年齢になれば、リリスのように保育園へ預ける選択肢も出るだろう。
現時点で預けて、他の子を結界で吹き飛ばしたら事件だ。保育所ではなく、ある程度育ってから保育園に預ける方が安全と判断したのは、大公達だった。お陰で、ルシファーの執務室は、立派な託児施設と化している。
リンが合流すると、互いに追いかけっこが始まった。気弱なリンが逃げ、イヴが追い回す。イヴと仲のいいマーリーンが、にこにこと後ろをついていった。必死の形相で逃げるリンは、以前イヴに身包み剥がされた経験がある。
自分を助けてくれそうな祖父アスタロトに「じぃ!」と助けを求めた。しかし、美しすぎる笑顔でスルーされる。世の中はそう甘くない。教えられた現実に、リンは全力で抗議した。追いかけてきたイヴの顔を蹴飛ばしたのだ。ここで魔王の結界が作動し、イヴは無傷だった。
最近は父母の魔力を判別し、周囲に纏っていると転んでも痛くないと学んだイヴは、結界を無効化せずに活用している。本能的な行動だろうが、今回はいい方に効果が出た。ここで鼻血でも出したら、リンの命は儚くなったかもしれない。
「イヴ、追いかけないで遊ぼうか」
結界への攻撃に気づいたルシファーが、イヴに優しく提案する。同じくらいの年齢なので、気になって追い回すのだが、その気持ちは常に空回りしていた。リンは怖くて逃げるし、逃げる獲物は追いたくなるのがイヴだ。母親によく似た狩猟本能が刺激されるらしい。
ぺたんと座ったイヴは、助言通りに追い回すのをやめた。ラミア人形を弄りながら、ちらちらとリンの様子を窺う。勇者アベルの血筋だろうか。黒髪にやや茶色がかった黒瞳のリンは、じりっとイヴへの距離を詰めた。毛を逆立てた猫のように様子を窺いながら、近づいては飛び退る。
徐々に近づく姿を、書類に押印しながら横目で確認するルシファー。その右隣の机で孫の冒険に笑みを浮かべるアスタロト。どちらも書類処理の手は休めなかった。
「イヴはお転婆なんだろうか」
「リリス様の時とそっくりではありませんか。あれは遺伝ですね。将来が楽しみです」
意外にも、アスタロトは好意的な反応だった。ルーサルカの臆病な面を強調して受け継いだ孫の方が心配だ。長男エルはここまで慎重な性格ではない上、どちらかと言えば剣術などが好きで活発な子だった。その差が余計に目につくのだろう。
将来は文官の方がいいかも知れません。この年齢で適性を判断しようとするアスタロトに、ルシファーは純白の髪を揺らして首を振った。
「まあ、そう言うな。このタイプは化けると思うぞ」
極端な怯えを見せる子は、意外にも優秀なハンターになったり騎士に育つ子も多い。過去の事例をいくつか挙げて、ルシファーは笑った。その時……。
「うぎゃあああ!」
大泣きする我が子イヴの様子に慌てて立ち上がり、机の上のインク瓶を派手に倒した。
*********************
※*※新作※*※ ファンタジー系、逆転劇
【要らない悪役令嬢や悪女、我が国で引き取りますわ ~優秀なご令嬢を追放だなんて愚かな真似、国を滅ぼしましてよ?~】
乙女ゲームの悪役令嬢、恋愛やファンタジー小説の悪女や悪役令嬢。優秀な彼女達はチート級の能力持ち、捨てるならモブ国の王女である私が引き取りますわ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます