177.報告会という最高幹部会議
最高幹部会議、もとい魔王と大公による謁見の間を使った会議が始まった。今回は魔王妃と大公女達も参加している。ちなみにイヴは、アデーレが預かってくれた。先日の拉致事件を受けて、イヴは当面一人にしない施策が取られている。
「さてと、誰から報告する?」
玉座に腰掛けるなり砕けた口調で首を傾げる魔王ルシファーの膝に、魔王妃リリスがちょこんと座る。いつもの光景なので、誰も指摘しなかった。玉座の前にある階段は、通常なら大公が左右に分かれて立ち、アスタロトが後ろに控える。しかし会議の場合は、全員が階段に陣取った。
大公女がいるため、ルシファーから見て右側が大公、左側が大公女に分かれた。慣れた様子で並んだ面々を見回す。大公側は4人全員揃った。大公女は仕事が抜けられないシトリーを除いて、3人が並ぶ。
「あたくしから」
異議のないことを確かめ、ベルゼビュートが口を開いた。分厚い報告書は、会計の数字が並んでいる。彼女がまとめた書類なら、字が汚いので後ほど文官によって清書されるだろう。
「今回の騒動の損失額が大き過ぎますわ。何らかの賠償を求める必要があります」
示された金額は年間予算の1割ほどだ。確かに無視できる額ではなかった。魔王城の修繕費用、臨時で雇った者達の給与手当、拉致された姫を助けるために動かした軍の経費など。騒動の期間が長かったため、予想外の高額出費だった。
「それについては案がある」
ルシファーが合図を送ると、ベールが複写した書類を全員に配布した。
「海側の暴挙による損失の穴埋めとして、海岸周辺の土地を要求します」
地図も同時に映し出され、あまり法外な請求ではないことも追加で説明された。その場で議決をとり、満場一致で答えがでる。この決定を海側に飲ませるだけの話だった。ここは外交担当のアスタロトの腕の見せ所だろう。
「外交はお任せください」
「任せる。あまり
相手のトラウマになるような手段は使うな。念の為に付け足したルシファーに、吸血鬼王は答えずに一礼した。つまり、ひどい取り立てを行う気だ。止める義理もないので、ルシファーも放置した。今回は本当に面倒が続いた上、最後に愛娘の拉致まで……あ!
「アスタロト、イヴを拉致したお前の偽者の正体は分かったか?」
「報告書はこちらになります」
用意した報告書を配布し、アスタロトは淡々と読み上げた。長い技術説明で眠くなる頃、ようやく締め括りが入る。
「つまり、陽炎の一種です。私の姿を写し取った陽炎を発生させ、気配を誤魔化したのでしょう。リリス様は魔力を色で確認なさいます。そのため、鏡のように映し出された色に騙されました」
「だから薄く感じたのね」
魔力量や属性そのものを感知するルシファーが相手なら、すぐに看破される仕掛けだ。相手がリリスの能力を知っていたかどうか、そこはこれからの「尋問」で答えを得るらしい。尋問に関しては聞くと痛いので、全員がスルーした。
微に入り細に入り説明してくれるアスタロトの尋問の中身、確実に魘されてトラウマになる。大公女への配慮という名目で、なかったことにされた。
「最後は僕だね。海王の座をルシファーに譲りたいと嘆願が出てる」
「オレに?」
ルシファーの整った顔が歪んだ。眉を寄せ、嫌だと訴える。面倒ごとや書類処理がこれ以上増えるのは御免だ。そんな顔に、アスタロトが止めを刺した。
「ご安心ください。私が話して参ります」
外交担当だし、きちんと断ってくれるはずだ。そう考えたルシファーは顔をしかめたまま頷いた。これだけ嫌悪感を露わにしていたら、平気だろう。「のはず」や「だろう」がいかに危険か、ルシファーはまだ身に染みていなかった。
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