132.爆発待ちはいいが時間がかかる

 ルキフェルにより状況を纏めた結果、真珠と珊瑚を一緒の箱に入れて爆発の原因を探ることになった。さらに部屋の中に第三者がいると、混じってしまう可能性がある。これ以上混沌とした状況に陥るのは困るので、ルシファーとアスタロトの二人を執務室に残した。


 爆発により被害が出ないよう、周囲に結界を張ろうとしたが状況が変わると危険なのでやめる。代わりに執務室の前を通行禁止にした。爆発する室内を撮影したり記録する水晶をいくつか設置する。これが終わったところで、リリスは笑顔で手を振った。


「じゃあね、ルシファー。ちゃんと戻ってね」


「あ、ああ」


 返事をして手を振り返したものの、閉じられた扉に向けて溜め息を吐く。アスタロトは己の姿で行われた一連の所作を、気味悪そうに眺めていた。


「オレのミスだと思われてないか?」


「ちゃんと戻ってと表現しましたから、ルシファー様の所為だと考えてそうですね」


「やっぱりそうか」


 あとで説明して納得してもらわなければ。唸りながら窓際の席へ移動し、明るい日差しに背を向けて座る。書類を処理しようと手を伸ばしかけ、何もない机の上に瞬きした。処理が終わったとしても、数枚は届いている筈だ。一枚も書類がない状況に「そうだった」と呟いた。


「燃えるとマズイから片付けたんだっけ」


「することがありませんね。いつ爆発してくれるのでしょうか」


 同様に書類処理を取り上げられたアスタロトは、不満を顔に書いて引き出しを覗き込む。前回と同じ状況を作るため、宝石箱はやや開いた引き出しへ片付けられた。特に魔力の高まりなどの異変はない。


「これで爆発しなかった場合、どのようにしましょうか」


 純白の魔王姿で憂えるアスタロトの仕草が色っぽく、じっと見つめたルシファーが首を傾げる。自分の姿は8万年も付き合っているが、こんな艶めかしさは感じなかった。つまり中身の影響だろう。アスタロトはオレより色っぽいのか。妙な納得をしていると、無造作に頭を撫でられた。


「ん?」


「いえ、自分に触れる感覚とはどのようなものか、折角なので堪能しようと思いまして」


 意外と余裕のあるアスタロトに影響され、ルシファーは自分の体に抱き着いてみる。


「なるほど、リリスが抱き着いた時はこんな感じか」


「……何してんの、あんた達」


 ぼそっと吐き捨てたのは、別室で様子を見ていたルキフェルだ。絵的に問題があり過ぎて、リリスやベルゼビュートには見せられなかった。ベールが横から覗き込み、眉をひそめる。


 水晶で確認できる限りでは、ルシファーがアスタロトの金髪を撫でた途端、彼に抱き着かれた映像だった。なかったことにして、二人は一度映像を消去する。うっかり漏洩したら大事件だった。魔王城を揺るがすかも知れない未来の騒動は、大公二人によって葬られる。


「魔力に異常はないね」


「爆発が魔力ではない可能性はないの?」


 イヴをベビーベッドに寝かせたリリスが首を傾げる。ベルゼビュートは我が子の世話に席を外していた。この状況で、彼女は思わぬ視点を持ち込む。


「あのね、爆発が魔力なら防御魔法陣に排除されるでしょ?」


 かつて自分が暴走した時もそうだった。異物と判断され、ルシファーが逆凪を覚悟でリリスを守って転移したあの時と同じ現象が起きるはず。にも関わらず、今回は真珠が敷地外へ転移されなかった。


「防御魔法陣の履歴を確認しよう」


 大事な確認を見落としたルキフェルが、床に手を触れて防御魔法陣を呼び起こす。発動した時の条件や原因の場所を特定できる。すっかり忘れていた魔法陣を読み解く後ろで、ベールはルキフェルの後ろにクッションを押し込んだ。と、次の瞬間背中からソファに倒れ込む。


 ベールの世話焼きの理由に思い至り、大きく頷いたリリスはそっと離れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る