131.緊張感の欠片もない明け透けさ
「確信があるのですか」
穏やかに尋ねたアデーレに、肩を竦めてみせる。明るい表情のリリスは、イヴをあやしながら言い放った。
「カンよ!」
「……少し考えましょうか」
溜め息をついたルシファー姿のアスタロトに、ルキフェルが同意する。魔の森の娘としてのカンなら信じるに値するが……どうも適当に言った感じがした。実際、リリスは考えるのが面倒になっている。ルシファー達なら、失敗しても何とか解決すると楽観的だった。
「ダメ?」
「不安要素を減らさないと、アスタロトは動かないぞ」
「ふーん、面倒なのね」
あぶぅ! 同意するようにイヴが右手を振り上げる。それから振り下ろす仕草を始めた。首を傾げたルシファーが近づく。
「何をしてるんだ、イヴ」
いつもの父と同じ口調で話しかけるアスタロトに、むーんと眉を寄せて赤子は唇を尖らせた。可愛いので、つい普段と同じように指で押さえる。むにむにと指先で遊ぶ感覚は、自分の体と同じだった。
「アシュタがイヴをあやす姿って、なんか違和感あるわね」
無言で頷く周囲に、美貌の魔王はにやりと笑った。アスタロトの「後で覚えてろ」と言わんばかりの笑顔に、全員が顔を引き攣らせる。特にベルゼビュートは逃げ腰だった。
「戻すために、真珠を爆発させましょう。いいですね?」
早く戻りたい意識が先に立つアスタロトに押し切られ、ルシファーは「う、うん」と頷く。その外見が逆なので、何とも言えない気持ち悪さが残った。アスタロトに対して、こんなに強気のルシファーなど、二度と見られないかも知れない。
危険だと言った側から、戻りたい一心でリリスの適当な案が採用された現場では、真珠を爆発させる方法について議論が始まった。最初の真珠が爆発したとして、内部にほとんど魔力はなかった。大公が確認し、魔王自身が太鼓判を押したのだから間違いない。
ならば、爆発の原因は何か。記憶を探りながら、思いついた状況を二人は並べ始めた。軽い音、転がった音、何かにコツンと当たった音。箱に真珠はしまわれていたが、魔力のない真珠と珊瑚を纏めて一箱に混ぜたこと。魔力が暴発する前に予兆は感じなかったこと。
一番重視されたのは、爆発の予兆がないことだ。何らかの影響や理由で魔力が爆発したのなら、直前に膨張する魔力を感じ取れる。箱自体に何も細工はなかった。魔力を封じる魔法陣も、遮断する機能も。何ひとつない、ただの宝石箱だ。他に変わった宝石が入っていた状況でもない。
アスタロトの細く繊細そうな指が、がさつなルシファーの動きで宝石箱を開ける。ベルゼビュートとリリスが中を確認した。現時点で残っているのは、魔力がないと判断された珊瑚ばかり。
白い小粒真珠を、試しに珊瑚の上に置いてみることに決めた。危険なので、女性は後ろに下がるようお願いする。そろりと下がろうとしたベルゼビュートに、美貌の魔王に宿る辛辣な吸血鬼王が嫌味を向けた。
「大公ともあろう者が、なぜ一緒に下がるんですか」
「女性だもの」
「……女性? ああ、そうでしたね」
忘れていました。ルシファーの顔で言い放つ嫌味は、威力が普段の数倍増しだった。ぐさりと刺さったベルゼビュートが、豊満な胸を両手で押さえる。
「あたくしの何がいけないのよ」
「その大きさがいけないわ」
「リリス様、陛下に揉んでいただけば大きくなりますよ」
「そうなの? じゃあルシファーの努力が足りないのね」
明け透けな女性達の話を背中に受けながら、金髪の青年は項垂れる。
「オレが悪いのか」
「男は女には勝てません。何しろ子を産み育てる種族ですから」
男と女は種族が違う。勝てるわけがない。どんなに強い男であれ、女性から生まれるのだから。ベールにそう諭され、魔王は学んだ。母なる女性に逆らうのは危険だ、と。
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