128.ありがちでベタな展開

 現場の状況を確認し、さらにルシファーとアスタロトの状態を調べたルキフェルは、肩をすくめた。


「ある意味、簡単だね。結界が間に合わなくて、受けた衝撃のせいで中身が交換された。同じ衝撃を浴びたら、戻れるかも」


 あぶぅ、目が覚めたイヴはリリスの授乳が終わり、無邪気にルシファーへ手を伸ばし……固まった。自分を甘やかす父が、父ではない。そこまで明確な判断ではなくとも、違和感を覚えたようだ。


 不満そうに唇を尖らせて、ぶぶぶぶぅと唾を吐いて不満を露わにした。仕草は可愛いが、さすがは魔王夫妻の子だ。その潜在能力は計り知れない。魔力を封じられたというのに、ルシファーに触れる前に気づいた。


「困りましたね」


「まったくだ。これではリリスとアスタロトが、夜に同衾する羽目に陥るじゃないか」


 憤慨する場所がおかしいルシファーへ、リリスが爆弾を落とした。


「安心して、今日は私とイヴで寝るわ。ルシファーはアシュタと一緒でいいわね」


「「嫌だ(です)」」


 声が重なった二人を見て、仲良しねと笑うリリスに悪気はない。中身が入れ替わったなら、ルシファーの姿でも彼ではないので一緒のベッドで眠る選択肢はない。もちろん、アスタロトの姿をした夫を寝床に引き込む気もなかった。


 ましてやいつ戻るかわからないなら、二人が一緒のベッドで寝た方がいい。それは親切心から出た本音だった。だからこそ、より残酷にルシファーの精神を抉った。


 胸元を押さえて「苦しい」と吐き捨てるアスタロト。中身がルシファーと分かっていても、周囲はぶるりと身を震わせた。見てはいけないものを目にした気分だ。睨みつける純白の魔王の迫力に、目を合わせてしまった者が倒れた。被害者続出の現状を踏まえ、人払いが行われる。


 魔王の執務室に入れるのは、大公以上の存在に限った。例外は、侍女長でアスタロト大公夫人であるアデーレのみ。今回の騒動の口止めをして、アデーレは一息ついた。腰の抜けたベルゼビュートも部屋に入り、現在は気味悪そうに二人を見ている。


「アスタロト、ここにいる冷たいものは何だ?」


「ああ、封印したアレです。間違っても外へ出さないでくださいね」


「ああ、こんなのをいつも抱えてるんだな。体が芯から凍えるようだぞ」


「慣れですよ」


 さらりと流すアスタロトに、ルシファーは同情の眼差しを向けた。と同時に、堪えきれずルシファーの背に翼が現れる。2枚広げて、アスタロトはぐったりと脱力した。


「魔力量が多過ぎて気持ち悪いですね、普段から散らしてはどうでしょう」


「ん? オレは平気だった。ずっとその状態だし、今更だぞ」


 体の中を迫り上がってくる圧倒的な力を放出すると、翼の形を取る。日常的にこの魔力を体内に収めるのは、消耗しそうだった。アスタロトの魔力とは相性が悪く、余計に暴れる気がする。


「早く戻らないと危険だが」


「そうですね。目の前に自分がいるのも気持ち悪いですし」


 互いの意見は一致している。


「いい方法はあるか? ルキフェル」


 アスタロトの姿で尋ねられ、ルキフェルはさらりと答えた。


「衝撃で入れ違ったんなら、同じ衝撃で戻ると思う。失敗した時のために、部屋は二人きりの方がいいね。別の誰かが混じると、さらに混乱するから」


 頷いた二人を残し、全員が部屋から出る。扉を閉めたベルゼビュートが、ぷはっと吹き出した。


「なんか似合わなくておかしかったわ」


「アスタロトに聞こえる距離で、ベルゼはバカだよね」


 はっとした後、青ざめる美女に同情する者はいない。リリスは心配そうに扉へ目を向けた。


「嫌な予感がするわ」


 その呟きで、この場にいた全員が不安になった。

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