93.新しい住人達は大歓迎されました

 灰色の精霊の仲間探しは、あっさりとベルゼビュートが解決した。他の仕事を放り出していいと命じた影響か、とにかく早かった。元から世界にいる精霊達が協力したらしく、見つかった4人はやはり何らかの金属系精霊らしい。


「土の精霊達と仲がいいので、一緒に生活させようと思っておりますわ」


 精霊女王の提案を拒む理由はない。精霊のことは彼女にお任せが基本だった。同様にドラゴン種や魔獣はルキフェル、ベールが幻獣・神獣に関する権限を持つ。現時点で眠っているが人型の魔族はアスタロトの管轄だった。多少被る部分もあるが、それなりに仕分けてうまく機能している。


「任せる」


「ありがとうございます」


 にっこり笑うベルゼビュートは、最近また巻き毛に戻った。ピンクのふわふわした巻き毛をかき上げる彼女は、息子ジルを豪快に肩に担いで笑う。


「金属の精霊は、何が出来るんだ?」


「地下鉱脈を探し当てたり、金属を増やしたり減らしたりすると言ってましたけど」


 金属を増やしたり減らしたり? 首を傾げる間に、ジルが落ちそうになる。幼子はじっとしておらず、よじよじと母の肩を背中に向かって前進し続けた。半分以上落ちたところで、後ろから風の精霊が支える。それを脇に抱えて笑う。アスレチックのようだ。


「鉱脈を探せるなら、ドワーフと引き合わせたら喜ぶんじゃないか?」


 鍛冶も建築も請け負う彼らなら、常に金属の鉱脈を探している。ある程度は探索の魔法で対応できるが、精霊が協力してくれれば力強いだろう。その提案に、ベルゼビュートも手を叩く。


「それはいいですわね。彼らも何か仕事が欲しいと言ったから、ドワーフと引き合わせてみるわ」


 その場の勢いで決まった顔合わせで、金属系精霊達はドワーフと意気投合することになる。その後彼らが掘削作業に力を合わせた結果、数ヵ月で一つの山を掘り尽くして大目玉を食らった。だが一緒に作業し、叱られたおかげでこの世界に馴染んだ精霊は、自分達の居場所を確保したようだ。


 巨人族と協力して大きな岩に含まれる希少金属を取りだしたり、アラクネ達の糸に金銀を薄くして纏わせる技術の開発に専念している。この世界に来た理由も理屈もわからないが、久しぶりに共存可能な異世界人……精霊? が現れた。


 異世界もさほど悪くない。アベル達日本人のように、この世界に馴染む者なら大歓迎だ。恒例の歓迎会が始まり、新たな精霊の存在が魔族に広く周知された。





 数日後。


「人族は話が通じなかったからな」


「言語は通じたけどね」


「魔物に分類しておけばよかったんだよ」


 ルシファーが溜め息を吐き、向かいでベルゼビュートが焼き菓子を頬張る。ルキフェルはいまだに人族が魔族扱いだった歴史を書き換えたいとごねている。過去を権力者の都合で変更するのは、害悪だと説得され納得したはずだが。ことあるごとに不満が口をつく。


「ベールはどうしたの?」


「今日は城に帰ってる。夜中に戻るって」


「ふーん」


 尋ねたわりにあまり興味はないベルゼビュートが、気のない返事をする。そこへエリゴスが駆け込んだ。


「ベルゼ、大変だ。ジルが!」


「ジルが?」


「机の脚を掴んで立ち上がった」


「「「え?」」」


 それは大事件。お目付け役がいない魔王城上層部は、一斉に動いた。好奇心旺盛だからこそ長寿種族でも病まずにいられる。長所なのだが、フットワークが軽すぎるのは欠点だった。全員で移動してしまい、一時的に魔王城が留守になる。夜半に戻ったベールにバレ、しっかり全員が正座で叱られた。


「私やアスタロトがいないと、すぐに騒動を起こすのはなぜでしょう」


 嘆く口調に滲む「だから我々がいないと」の響きに気づき、ルシファーが「いつも頼りにしている」とよいしょした。悪い気はしないベールの説教は、当初の予想時間の半分で終わったらしい。

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