62.祝宴は夜遅くまで続いた

 戦い終わって日が暮れて……夜の部に突入した宴は、さらなる盛り上がりを見せていた。というのも、参加出来なかった不満を花火にかえて打ち上げたルキフェルの花火が原因だ。祝い事があれば花火というのが、今後の流行りになりそうだ。


 魔王の結婚式以降、花火の魔法陣が飛ぶように売れた。各地で結婚式があると花火が上がり、子どもが生まれたら祝いの花火が打ち上げられる。あっという間に祝いの代名詞になった。今回もルキフェルが新作を打ち上げたので、しばらくしたら魔王城の売店に並ぶだろう。購入に殺到する民の姿が目に浮かぶ。


 魔族が並ぶテント下の鉄板は、大量の豚肉が並ぶ。トング片手に肉を焼くルシファーは、上手に結界を利用していた。熱と煙を結界で防ぎながら、風を吹かせて視界を確保する。火傷の心配がないため、焼けた肉から跳ねる油を無視して、ひょいっと隣の大皿に積み上げた。


 イヴを抱いたリリスが「えいっ」と肉を浮かせて並んだ人の取り皿に載せる。その様子を見ていた大公女が駆け付けて手伝いを始めた。イヴを離すわけにいかないので、リリスは現場での仕事から外される。あっという間に魔王妃と愛娘はヤンに回収された。


 少し離れた芝の上に寝転がったフェンリルの毛皮に包まれ、イヴはご機嫌だ。あぶぅと声を上げて、ヤンの毛を引っ張った。幼い頃のリリスと違い、さほど力が強くないのでヤンはじっと我慢する。気になるが吠えたり邪魔をしないように、そっぽを向いた。


 離脱したリリスの穴を、レライエが埋めようとして……お腹の袋に入った卵が危険だとアムドゥスキアスに連れ去られる。ルーシアはまだ失神したままなので、ルーサルカが入った。ところが少し先で野菜と魚を炒めるアスタロトに呼ばれ、これまた離脱。申し訳なさそうにシトリーが隣に並んだ。


「私ですみません」


「いや、助かる。珍しく人手不足だな」


 苦笑いするルシファーの少し先で、焼きそばという麺料理を振る舞うイザヤ。美味そうだと目で追っていると、アンナが持ち込んだ。


「魔王様、どうぞ。息子達にお肉を頂きますね」


 裏から受け取るのは狡い行為だが、魔王城の無料奉仕屋台に従事していると許される。これは特権として認識されていた。そのため文句も出ず、彼女は焼きそばを置いて肉の皿を受け取る。それから丁寧にお礼を言った。


「うちの翠と累を助けていただき、ありがとうございました」


「いやいや。先に防げなかった時点で詫びるのはこちらだ」


 手を止めずに肉を焼きながら、ルシファーは器用に応じた。そこへ魔熊が仕留めたミノタウロスが運ばれてくる。今度は牛肉だ。今のうちに豚肉を確保しようと、ルシファーは大急ぎで彼女の分を収納へしまう。


「塊で炙るみたい」


 料理方法が決まり、肉の塊ごと運ばれてくる。熱せられた鉄板を、結界ごしの素手で掴んだルシファーが、後ろへ置いた。芝が焼けてしまうが、後で復元をかけるので問題はない。イベントで芝が荒れるのはいつものことなので、明日からエルフ達の仕事が増えるだろう。これも公共事業のひとつだ。


「どれ、骨も入ってるのか?」


 状態を確認し、中の骨を利用して支えの棒に固定する。表面を炙り、焼けたところから削ぎ落とす方法に変更された。これは人気が高く、赤身も脂身も関係なく切っていく。包丁より長い、食肉専用の剣を器用に振るうルシファーに、アベルが声をかけた。


「それなら俺も替われるので、休んできてください」


「悪いな、頼む」


 交代して、ヤンの上で寛ぐ妻子の元へ向かった。取り置きした豚肉をリリスへ渡し、愛娘を抱き締める。頬擦りすると小さな手が拒むように頬を押す。それもまた嬉しかった。


「良かった。どの子も無事に戻ったし、イヴは可愛いし、リリスは綺麗だし。オレは最高に幸せな魔王だな」


「他に魔王がいないから、間違いないわね」


 思わぬリリスの切り返しに、ルシファーは答えに困り……ヤンがぶほっと吹き出した。

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