3. 皇女様の専属護衛(12月24日18時)

「ニコラスさん、どうしてここに!?」


「たまたま近くを通りがかったので」


「そうなんですね。危ないところ、本当に本当に助かりました。なんとお礼を申し上げて良いのやら」


 よほど怖かったのだろう、その目には涙が浮かんでいる。


「申し遅れました。私はこの国の第三皇女、マリー・キャロルと申します。命を救っていただき、本当にありがとうございました!」


 そう言って、ぺこりと頭を下げるマリー皇女


「そ、そんな、やめてください、そんな大したことはしていませんよ。ここにいる皆さんが体力を削っていてくれたからこそであって」


 そう。

 僕は止めを刺しただけにすぎないのだ。


 だから、マリー皇女にそこまでお礼を言われる程のことでは――


「いえ、あの魔獣には、剣も魔法も通じなかったのです」


 え?


「レクスライオン、それがあの魔獣の名前だ。剣や魔法が貫通しないほど硬い毛皮と、鋼鉄より硬い牙や爪を持った、ライオン型魔獣の王として知られている」


 騎士団の隊長と思しき女性が声をかけてくる。


「申し遅れた、私は第一騎士団隊長、セイバー・シヴァルリクというものだ。危ないところを助けてもらって感謝する。第一騎士団総員、心から君に敬意を表そう」


 第一騎士団だって!?


 この国の騎士団の中でも最強と言われる第一騎士団、しかもその隊長、セイバー・シヴァルリクといえば、帝国一の女騎士と名高い剣聖じゃないか!


「剣も魔法も通用しない、動きも素早いから姫様を逃がすことすらできない。君が来てくれなければ、今頃どうなっていたものか」


 あのライオンの魔獣、そんなに強かったのか!?


 いやでも待てよ、今までにもあんな奴を倒したことがあるような……?


「なので、ニコラスさんは私の救世主なんです。本当に、ありがとうございました」


 そう言ってにっこりと微笑むマリー皇女。


 そんな、救世主だなんて。


 淡いピンク色のほっぺに、ちょこんと浮かぶえくぼ。

 彼女の笑顔は、見とれてしまうには十分だった。


「そういえばマリー皇女、この男とどこかで面識が? 随分と親しげなご様子ですが」


 騎士団長の問いでふと我に返る。


 そうだ、なんでマリー皇女は僕のことを知ってたんだろう。

 直接の面識は一度や二度くらいしかないはずだ。


「ニコラスさんは、確か冒険者ギルド『ヨーキャ』の方です。いつも丁寧な書類を送ってくださるので、城の中でも有名なんですよ?」


 あー、えっと……。


「ほう、この男が、いつもマリー皇女がおっしゃっている男でしたか。 この王都で一二を争う最強ギルドのエースならば、先程の活躍も納得できるというものです」


 その……ですね。


「もう『ヨーキャ』にはいません。追放されてしまったので」


「何ですって! 追放!? あなたが、ですか!?」


 姫様が驚いた声をあげる。


「それに、いつもは事務作業をしていて、戦闘のときもあまり役には立っていないので」


「それは本当なのですか!」


 騎士団長も固まっている。


「ニコラスさん、何があったか話してください!」


 詰め寄るマリー皇女。


 いや、あんまり近寄られると、別のところに意識が向くんだが。


「いや、僕が外れスキルを持っていたのも原因なので、マリー皇女殿下にお聞かせするような内容では――」


「いいから! 話してください!」


 マリー皇女が僕の腕を掴んで抱き寄せる。


 ちょっと、当たってるって!

 何とは言わないけど柔らかいものが!


「ニコラスさん!」


 そんな強く押し当てないで!

 ダメだ、これ以上は気が持たない。


「分かりました、分かりましたから! 話しますから、腕を放してください!」


 僕はこれまでのことをかいつまんで話した。


 時折、マリー皇女の顔が怖くなる。


「……そう、でしたか。それはご苦労様でした。大変だったのですね。目の下のひどいクマも、そういうことでしたか……」


「セイバー、どうやら『ヨーキャ』はひどいブラックギルドだったようです、至急調査を」


「はっ」


 マリー皇女は騎士団長に指示を出すと、僕にこう告げた。


「……であれば、こうしませんか? ニコラス・クリストファーさん、私の専属護衛になるというのはいかがでしょう?」


 その意味を理解するのに、たっぷり一分はかかったと思う。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る