第14話 宝箱

 

 

 鈴木公平改めヘイス・コーズキーはやっとコアルームの外に出てダンジョン探索を始めた。

 割とすぐ二匹目の魔物と遭遇する。

 最下層の階段を上って次の階層に着く直前のことであった。


 それは巨大な人型で、コアルームの外にいたミノタウロス(仮)と同じく後ろを向いていた。いや、正確にいうとダンジョンの正面入り口の方向を向いていたというべきか。何しろヘイスは裏口といってもいい次元の穴からダンジョンにやってきて逆走しているのだから。


 その魔物はまさか後ろから侵入者があるとは思っていないのか、それとも単純に索敵能力が低いのかヘイスの存在には気がついてないようだった。


 少し安心したヘイスはじっくり観察してみる。


(大きさはミノサイズだな。でも角がない。メス? いや、馬か! ウマタウロスなのか? そんなの聞いたことねえ! あ、わかった、馬頭だ。メスじゃなくってメズ。シャレか? そうすっとミノはミノじゃなくて牛頭のほうだったか……ここは地獄か!?)


 アスラ神は阿修羅じゃなくて閻魔だったのか、というところまで妄想したヘイスはするべきことを思い出して準備する。


 といっても、向こうから見えない位置で棒を構えて、残りの大半は心の準備だったが。


(吸収!)


 声を出さずに発動してみる。バレるなら遅ければ遅いほうがいい。


「ヒヒーン? ブヒヒーン!」


(やっぱり馬だからヒヒーンか? 捻りが足りねえんじゃねえの?)


 予想通り魔素吸収のときの違和感は感じたようで、ウマタウロスならぬ馬頭(仮)は盛んに嘶いている。

 幸いなことにまだヘイスの存在には気付かれてはいないようだ。


 これは後ろの階段が盲点になっているだけではなく、実はコアルームでマイクロバブル全身洗浄したことも地味に臭い消しになっていたのであった。さすがに犬系の魔物には通用しないかもだが。


(よし、膝ついた。同じパターンだ。これは勝ったな)


 声に出していないのでフラグ回避、とばかりに魔素の吸収を続けるヘイス。


 努力が実ってついに馬頭(仮)は倒れこむ。


(よし。ここで鑑定だ……ダンジョンモンスター、HP1か……ミノと同じじゃん。名前も鑑定のレベル次第なのかね? さて、これからどうしよう……)


 ヘイスが悩んでいるのは自ら物理的に止めを刺すか刺さないか、ということ。

 いずれは、できれば今日中にはこなさなければならない試練なのだ。


(神サマは思考を誘導したって言ったけど、あまり変わった気がしないな。まだ怖いぞ。まあ、完全吸収でミノを殺せたのはそのおかげかもしんないけど、どうすっかな~。せめて食料目的なら……よし、コイツも完全吸収にしよう。人型は食う気にならん。せめてこの世界で人型モンスターも普通に食べられてるってわかるまでは保留だ)


 問題を先送りし、ヘイスは魔素吸収を続けた。

 馬頭(仮)は問題なく粒子化して消える。


「さて、ようやく次の階層だ。食えそうな魔物、いないかな~」


 ヘイスは階段を上りきり、新たな階層を確認する。

 そこは最下層と変わらぬ、石でできた回廊であった。違う点は何故か明るいこと。そして先が見通せないほど長いことだった。


 ヘイスはダンジョンに付き物の隠し部屋や脇道からの不意打ち、そして落とし穴に注意しながら、それでも足早に進んだ。


「落とし穴は勘弁だよな。今度はどんな世界に繋がってるのやら。それにしても、魔物少なくね?」


 エンカウントはまだ二匹。最大のダンジョンと聞いていたのでモンスターもそれなりに多いと予想していたが、拍子抜けだった。


「う~む。一本道でかなり歩いたけど、もう階段か。まさか一階層に一匹ずつなのか? それってダンジョン経営的にどうよ?」


 微妙な気持ちにはなったが、早くダンジョンを抜けられるならそれに越したことはないと、ヘイスは階段を登った。もちろん細心の注意を払って。

 上階の出口に近づくと、さらに注意して覗き込む。


(魔物は……いないな……あれ? 門番的なのは?)


 そこは無人の、コアルームに比べれば小さな部屋だった。階段の反対側には扉がある。


(とりあえず、吸収!)


 ヘイスは、透明な魔物がいる可能性も考えていきなり部屋に突入することなく階段から魔素吸収を敢行した。


(呻き声なし。物音もなし。こりゃほんとに何もいないな……)


 二度の戦闘? で魔素吸収のアドバンテージを理解したヘイスは安心して部屋に入る。

 そこであるものを発見した。


「うおっ! これって宝箱か!」


 誰が用意したか、機会があったらアスラ神にじっくり聞いて見たいと思いつつ、早速宝箱に向かう。


「なるほど。ここはお宝部屋ね? なんでコアルームにじゃないのかわからないけど。さて、ミミックな魔物の心配はないな。罠は……無理。そんなスキルはない。あ、そうだ、鑑定してみるか……おお! 宝箱・罠なし、だって。すごいぞ鑑定! レベル1なのに使えるじゃん! ではご開帳~。なんだ? 布?」


 取り出したのはいわゆるローブであった。


「これも鑑定。ん? ????のローブ、ってそれだけ? 褒めたとたんこれかよ。鑑定使えねえな。見りゃわかるっつうの。大体ローブってなにさ。バスローブぐらいしか知らねえよ。アニメで出てくるの、あれってどう見てもコートじゃん! よし、これはコート。フード付のコートに決定!」


 鑑定のレベルが低いことの弊害を無辜のローブあらためコートに八つ当たりするヘイス。実に大人げない。

 一応取り出してみたが、灰色の、それも元々白かった生地が薄汚れてしまったかのような色合いで、とても着たいとは思えないデザインである。

 それでも、この世界のファッションはまだわからないが地球産のスーツよりも目立たないだろうと確保することにした。


「アイテムボックスには入らないんだよな~って、入った! なんで? レベル上がってたか?」


 不思議なこともあるものだと、コートをアイテムボックスに入れたり出したりを繰り返すヘイス。もちろんステータスも確認してあるが、やはりレベル1のままだった。


「あ、そういえば、裏技があったっけ。てことはこのコート、魔素でできてるとか? ま、まあダンジョン産だからそういうこともあるのかもしれん。とりあえず持ち運びは問題ないと。あれ? じゃあ、もしかしたら魔素を込めて造ったこの棒も……おお、やっぱり入ったわ。こりゃ便利だ」


 本来はアスラ神と一緒に確認すべきだったのだが、時間が限られているのはむしろヘイスのほうだったので探索をしながらの手探りの確認になってしまう。

 それを改めて理解したヘイスは探索を続けるのだった。


「さあ、次はどんな階層かな? って、さむっ!」


 コアルームと同じく内開きの扉を勇んで開けたヘイスは、やはりコアルームのときと同じように直ぐに閉めてしまった。


「何で外が雪なんだよ!」


 ヘイスが見た光景は白一色。しかも凍て付く猛吹雪付で、誰がどう見ても雪景色そのものであった。


「このダンジョン南極にでもあるのか? そんなことは聞いてないぞ。じゃあ、やっぱりここはまだダンジョンの中か。フィールド階層ってやつかよ。どうすんだよ、餓死する前に凍死しちまうぞ!」


 ヘイスのダンジョン探索は前途多難である。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る