第13話 ダンジョンモンスター
鈴木公平改めヘイス・コーズキーの初めての戦いが始まった。
「魔素吸収!」
対するはミノタウロス(仮)。
名称はともかくとして、身長はおよそ4メートル。ヘイスの2倍以上だ。
正面から肉弾戦で戦うのはどこかにいるかもしれない勇者に任せるつもりでチート能力を使う。それもボス部屋の扉の影に隠れながら。
「ブモーオオオオオッ!」
あからさまな攻撃ではないが、何かされていることに気がついたミノタウロス(仮)は雄叫びを上げ、周囲を探る。
不思議なことにコアルームの中のヘイスには気がついていないようだ。
「なあ、神サマ。何でバレないの? いや、怖いからそのほうがいいんだけどさ」
『結界の効果じゃな。その扉までが範囲じゃ。外では間違いなく気付かれるので注意することじゃ。幸運じゃったのう』
幸運といえば、まだアスラ神との交信も可能だった。
が、これも結界の外では続かないことに気がついたヘイスだった。
「げ! 吸収っていっても一瞬じゃ倒せないじゃん。見つかったらアウトじゃね?」
『それはそなたのレベルの問題じゃ。熟練すれば吸収のスピードも上がる。それに鑑定のレベルが上がれば相手の保有魔素量もわかる。大事なのは戦略じゃ。チートはチートじゃがあまり当てにするでないぞ』
「戦い方ねえ? 逃げ回りながらってのしか思いつかん」
『それも戦略じゃ。卑下する必要はない』
「ご高説どーも。おっと、やっと膝ついたぞ」
アスラ神と交信している間も掌をミノタウロス(仮)に向け魔素の吸収に努めていたが、その甲斐あってさしもの巨体も弱体化したようだ。
「ブモ……」
「弱ってる、弱ってる。もう一息だ。魔素吸収! まっそー! それ、まっそー!」
「ブモッ……」
ズシンという音がダンジョンに鳴り響いた。
「やった! 倒れたぞ!」
ヘイスの言葉通り、ミノタウロス(仮)は四つん這いの姿勢からさらに崩れ落ちるように腹這いになった。
だが、ヘイスは相手の生死がハッキリしないうちは外に出る勇気はなかった。
「神サマ。どうしたらいい?」
『鑑定を使うのじゃ』
「あ、そうだった。そんなスキルもあったっけ。じゃあ、鑑定……は? ダンジョンモンスター? これだけ? 名前は? HPは見えるけどMPは見えないの?」
『レベルが低いからじゃ。今はHPさえわかればよいじゃろうが。名前などさらにどうでもよいことじゃ』
「なんか納得いかねえけど、HPは1で耐えてる感じか。神サマ、次は?」
『そうじゃの、素材がほしければ自ら止めを差すがよい。そうでなければ完全に吸収してしまえ』
「いや、まだ踏ん切りがつかないから吸収するけどさ。その違いは何?」
『詳しいことは省くが、鑑定でダンジョンモンスターと出たじゃろ? 魔物には複数種類あっての、動物から変化した魔物とダンジョンが魔素から作り出した魔物が大きな分け方じゃ。ダンジョンモンスターは完全に魔素を失うと崩壊する。いや、崩壊して魔素がダンジョンに吸収されるといったほうがそなたにはわかりやすいかのう』
「ああ。ダンジョンあるあるだな。で、俺も全部吸収できるってわけか。途中で止めを刺したら何が違うんだ?」
『そなたの権能は唯一のものじゃ。普通の人間にとってはさほど変わらん。素材が取れるだけじゃ。まあ、肉は魔素に汚染されていて浄化しなければ食えんがの』
「ふ~ん、まだいろいろ知らないことあるな……って、ダンジョンモンスターって食えないの? 浄化って結局魔素を吸収することだろ? 吸収したら消えてなくなる? 結局食えねえじゃん」
『そこは加減を覚えよ。身体に影響するギリギリを狙えばそなたは調整済みじゃから食うても問題ない』
「う~ん。難しそう……いや、普通の人は皆物理とか魔法で止め刺してるんだ。俺ができない理由はないな。ま、コイツは人型だし、美味いって小説にはあったけど、今回は無しで。吸収、吸収!」
初めての魔物討伐は完全吸収を選択したヘイス。
しばらく吸収していると、だんだん魔物の姿がぼやけてきた。
「おおっ! これが崩壊か。あんまグロくないな。血も崩壊してるのか。うん、いいことだ」
崩壊の途中で吸収をやめたらどうなるか、そんな疑問も感じたが、やはり最初は完全吸収の方針で行くことにしたヘイスだった。
「よし。スゲーな。跡形もないぞ……さて。さすがに腹もすいてきたし、シャレにならなくなる前に一匹でも狩って来ないとな。グダグダしてる余裕はねえな。じゃあ、神サマ、ちょっと行って来る」
『うむ。我はこれ以上の手助けはできん。気をつけるのじゃぞ』
「命大事にってか。わかってる。じゃあな!」
ボス部屋の扉前。魔物はあのミノタウロス(仮)一匹だけのようだったが、それでもヘイスはほかに魔物がいないか慎重に探りながら部屋を出るのだった。
「ここが結界の外か。おーい、神サマー? ……返事がない。しかばね……じゃなくて声が聞こえない。あ、一回出たらもう入れないって事はないだろうな。いや、試しておこう……あ、入れるじゃん」
『なんじゃ? まだおったのか?』
心配したようなことにはならずホッとしたが、何か言い訳をしなければと考えたヘイスの目に、洗濯に使った石柱の一群が止まった。
「いや、大丈夫。今思い出したけど、その土のポール、武器にならないか? 剣で戦うのはまだ自信ないし、棒で牽制しながら吸収できないかなって思って」
『好きなようにやってみるがよい。実感はないじゃろうが今のそなたは中級冒険者並みのステータスじゃ。多少重い武器も扱えるじゃろう』
「へーそうなんだー」
軽く答えながらも作業を続ける。
自分の作り出した石柱を圧縮し、細く長く、そして折れないようダンジョンの壁を参考に魔素を込めていく。
出来上がったのは、直径3センチほど長さ2メートルの半透明の白っぽい石の棒だった。先端は魔物に刺さって抜けなくなると対処できないと判断し滑らかに仕上げてある。
石製なのだから当然それなりの重量があるはずなのだが、アスラ神のいうとおり、ヘイスは軽々と振り回すことができていた。
「よし! 今度こそ三度目の正直だ! 逝ってくる!」
『うむ。この結界は使徒のそなたは自由に入れる。いつでも戻ってくるがよい』
「そういうのは先に言おうな! じゃあな!」
やはり神と人間は違うのか、たまにテンポが狂うことがある。
そんなことを考えながらヘイスはコアルームを出て行くのであった。
「あー。ここが何階か聞けばよかった。地図も要るよな。何だよ神サマ、穴だらけじゃん」
さすがにまたまた戻る気にもなれず、ヘイスは仕方なく前に進む。
幸い、最下層だからか、階段がすぐに見つかった。
もちろん上るしかない。ボス部屋前には門番よろしく一匹のミノタウロス(仮)しかいなかったようだ。
「交代要員はいないのか。仁王サマみたいにペアだったら危なかったかな? あ、どうせ吸収するから関係なかったか……」
くだらないことを考えながら階段を上るヘイス。
少し空腹気味だが体力は地球にいたときよりも上がっているようで、長めの階段だったが息も切れずに終わりが見えてきた。扉はない。
ここからはさらに慎重に息を殺して進む。
(なんかいる!)
ヘイスはとっさに顔を伏せた。
そしてゆっくりと顔を上げて階段の上を覗き見るのであった。
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