第10話 魔法修行続き

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あけましておめでとうございます。

今日から毎日20時に更新する予定です。

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 鈴木公平改めヘイス・コーズキーは魔法を使えるようになった。

 しかし、異世界での魔法理論など知る由もなく、疑問を呈するのであった。


『ふむ、土魔法のう。そなたの質問に対する答えはイエスでもありノーでもある、じゃな』


「えー。そんなスカした答えは求めてない」


『まあ聞くがよい。先ほども説明したが、無から有を生み出すのは神にとっても至難の業じゃ。人間では不可能じゃろう。これはわかるな』


「まあ、わかる」


『何かしら物質があればそれを改変させ別の物質を創ることができる。これは神にとっては容易じゃし、人間にとっても難易度は高いが不可能ではない。これはわかるかの?』


「わかる。錬金術そのものだな。科学的にも理屈を捏ねることができるな。あれだろ? なんか原子核とか中性子の数を変えれば別の原子になるってヤツ。水素と水素でヘリウムになる感じの。それができちゃう原初魔法スゲー」


『気に入ってもらえてうれしいのじゃが、そなたのレベルではまず不可能じゃな。それがノーという答えの理由じゃ』


「いや、俺だって核融合魔法使いたいとは思わないからいいんだけど。それって土魔法が使えない理由なのか?」


『土の種類によるということじゃが、そもそも土とはなんじゃ? そなたも疑問に思っておったじゃろ』


 ヘイスは考えた。

 石は土か? 砂はどうだ? 土にも種類がある? それはそうだ。荒地の土と肥沃な畑の土が同じであるはずがない。畑の土も栽培する作物によって土質が変わるとも聞いたことがある。まったく同一の土など存在するはずがないのだ。


 そしてアスラ神がヘイスの心を読み取り説明を続ける。


『そのとおりじゃ。土と簡単に言っておるが実際は無限の種類があるといってもよい。畑の土を完全にコピーするのは神にとっても至難の、いや、面倒な作業じゃ。じゃから、魔法で作り出せる土というのは実際は土のような何か、であろうな。特に奴らのシステムの魔法は特にそれが顕著じゃ』


「なるほどな。攻撃に使うんなら有機肥料やらpH値がどうのこうのは関係ないからな。土っぽいものを固めて石にするのが魔法の部分か」


『うむ。理解が早くてなにより。さらに理解を深めるために確認するが、そなた、ステータスに表示された生活魔法の一覧の順番を覚えておるか?』


「いや、順番までは……今見りゃいいか。ステータス。どれ……光、火、風、水だな」


『うむ。それはの、現象を引き起こしやすい順でもあるのじゃ』


「へー……よくわからん。光はどっちかっていうと難しいと思ってた。あと、闇魔法がない」


『そなたの知識にあるはずなのじゃが……しかたないのかの。光は波動、火はプラズマ、風は気体、水は液体じゃ』


「あ! 聞いたことある~!」


『ちなみに闇魔法と呼べる魔法もあるがフェイクとはいえ生活魔法に加えるわけにはいくまい?』


「たしかに。生活っぽくないな」


『エネルギー面で考えると確かに光や火は風に比べてコストがかかるかも知れぬが、魔法の場合魔力と魔素があれば発動は容易、ということじゃな』


「わかるわかる。火なんて可燃物と酸素の化学反応って習ったから余計に不思議だった。魔法の一言で解決するなんてズルイ。あー、じゃあ、この世界じゃ科学の知識は必要ないのか?」


『そんなことはない。そなたに相性がいいと言ったのは科学知識あってのこと。イメージしやすい上に応用も利く。いいことずくめじゃ』


「ほー? まあ、目立つとマズイからほどほどにしておくよ。で? 肝心の土魔法は? 液体の次? 固体?」


『そうじゃ。ただし、あくまでも発動のしやすい順で、液体に関する魔法でも水以外の、たとえば酒を生み出すなどという真似はとたんに難易度があがるじゃろう。水は水分子のみの集合体じゃから生成も容易なのじゃ。土も同じじゃ。主な構成物質である珪石、そなたの世界でいう二酸化ケイ素のみを集めるなら水と同じ難易度であろう。砂のままでもよし、固めて石にするのもよし。適度に湿らせれば見た目も土っぽくなるぞ。畑にはとても使えぬがのう』


「なるほど。土っていろいろな分子の寄せ集めの場合難しいのか。有機物って創るのも大変だってことだな。よしわかった。二酸化ケイ素? だったら俺でもできると。物は試しだ。土出ろ~。ケイ素出ろ~。棒になれ~」


 できたことはできた。

 鉛筆サイズの棒が。


「……なんで?」


『ここがダンジョンじゃからじゃ。魔素によって物質は強化されておる。そなたが干渉できるのはその程度だったということじゃな』


「あ~。ダンジョンあるあるか。しょうがない。広いし、地道に集めてせめてポール一本分、これも修行だ」


 ヘイスは宣言どおりコアルームを歩き回り、干渉できる土の成分を集めた。


『あー、がんばっているところを済まぬが、もっと簡単な方法があるぞ』


「なにそれ? 早く言ってくれ」


 土のポールを50センチまで伸ばしたところで神サマからお告げがあった。


『土魔法はあとにして、魔素回収を実際にやってみるのじゃ』


 神サマにとってはこれが本命だった。


「魔素、見えないんですけど」


『水の分子と同じことじゃ。見えなくとも、この部屋は濃いぞ。地球に流れ込んだ後でも30%はある』


「確か、地球で0.1でこの世界の千年前で1%で今は10%だったか? え? 30? 俺こんなところにいて大丈夫なのか? 放射能みたいなもんだろ?」


 ヘイスはいまさらながら自己の置かれた環境に慄いた。


『安心せよ。そなたの身体は調整してある。それにパッシブで魔素回収の能力を授けたと言ったじゃろうが。忘れるでない』


 アスラ神の説明でホッとするヘイス。


「そっか。そういえばそんな設定だったな。で? パッシブなら練習要らないんだろうし、アクティブな能力があるんだっけ?」


『そうじゃ。ステータスに表示できんが、原初魔法がその権能じゃ。風を起こし水を集めた要領で魔素を集めればよい。集まったらそれこそ自動でアイテムボックスに回収する仕様じゃ』


「仕様て……まあ、やってみるけど、見えないし、想像したこともないから微妙……」


『これ、イメージは重要じゃといっておろう。自信も大事じゃぞ』


「へいへい。じゃあ。魔素集まれ~。魔素~。どうだ? 集まってるか?」


『全然じゃな。パッシブと変わっておらん』


「え~? 真剣にやってるのに……魔素~魔素~まっそ~まっそ~」


『これ! ふざけるでない』


「へいへい。すみませんねえ。でもまじめな話、魔素がイメージできないんだけど」


『おかしいの? そなたの知識で十分じゃと思うのじゃが』


「小説を知識といわれてもねえ。そこまでオタクのつもりはないし……」


『しかたないのう。リソースが足りないんじゃが、こればっかりはそなたにやってもらわねばならぬ仕事じゃからの。いま精神を繋げる。イメージを送るゆえ気をしっかり持つがいい』


「え? どっかで聞いたセリフ。いやな予感が……って、イターッ!!!」


 油断していたわけではなかったが、突然の頭痛に頭を抱えるヘイスであった。


『一瞬の接続じゃから気絶まではせんかったの。重畳重畳』


「ちょうじょうじゃねえよ! いてーよ!」


『もう痛みはないはずじゃ。ほれ、早う試さぬか』


「へいへい……健康状態まで把握されてるって、ある意味恐ろしい。上司がブラックな件」


『早くやらぬか』


「わかったって。まっそ~。まっそ~。イメージったって、あんま変わらん気が……まっそ~まっそ~。どうだ? 集まったか?」


『うむ。成功じゃ。よくやった。これでいつでも外に出られるな』


「え~? こんなんでいいのかよ」


 ヘイスは納得いかなかったが、その後神サマの指導でダンジョンの床から魔素を抜き取り、普通の石材に戻してから土魔法を使う。

 立派な土のポールが何本も立てられたのだった。


 これで洗濯もはかどるだろう。


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