第7話 ステータス(裏)
鈴木公平改めヘイス・コーズキーは呆れられながらも、もう一度邪神ことアスラ神に説明をお願いした。
アスラ神は相変わらず淡々と説明しだす。
『よいか。そなたの使命は魔素の回収じゃ。そのための権能はすでに授けてある。じゃが、奴らのシステムに表示させるわけにはいかぬのでな、ありきたりのスキル名に偽装しておる。ありきたりといってもスキルとして同等の機能も持たせておるぞ。それが《MP回復》じゃ。魔素回収のついでにそなたのMPに変換すれば気付かれんじゃろう。レベルが低いのはリソースの問題で、以降はそなたの努力次第じゃな。
それから実際に魔素を吸収するのは、実は《生活魔法》に偽装したスキルじゃ。もとのスキルは《原初魔法》とでもういうべきかの。これはな、奴らがシステムを広めるまでこの世界で使われていた魔法じゃ。特に名前はつけとらんかったから《原初》でよかろう。ま、そなた一人がわかっていればいいことじゃから名前はどうでもよかろう。
で、じゃな。この魔法はそなたにとって相性がいい。魔素の回収をメインに調整しておいたが、本質は森羅万象に干渉するスキルと思えばよい。生活魔法で使える簡単な現象は自由に操れるぞ。熟練すれば神にも届きうる、神の権能そのものじゃ。どうじゃな? 我をまだせこいというか?』
「やだなー、神サマ。感謝してマスって。それより、森羅万象って大げさじゃない?」
『大げさなどではない。あらゆる物質、そなたの記憶を引用すると、分子や原子、電子や微粒子にも干渉できる。ゆえに光も風も重力さえ自由自在じゃ。魔法というより超能力、異能の分野かのう?』
「おおー、それそれ! そういうの待ってたんだよ」
『無論自己のMPと周囲の魔素量によって現象の規模は限定される。ゆえに魔素濃度の低かった千年前はたいしたことは出来なかったのも否定できぬ。システムが広まった現在で使おうとするのは一部の亜人と呼ばれている長命種族や精霊たちだけじゃな。種族固有魔法と思われておるゆえ使用には注意するのじゃぞ? そなたの記憶によれば、日本人の転移者はイメージ次第で自由に魔法を魔改造するのじゃったな? 特にそなたは回収した魔素を自由に使えるのじゃ。自重は忘れるでないぞ?』
「わかってる。目立っても怖いからな」
『後一つ、これもすでに伝えたはずじゃが、アイテムボックスの空間をを利用して魔素を溜めておくのじゃが、微粒子のままでも使用可能に設定したせいでリソースが足りぬ。故に表示されているレベルは実際にはマイナス1と考えればよい』
「それって、いまレベルⅠってことは……」
『うむ。実質0じゃな。本来のアイテムボックスのように何でも収納できるわけではない。まあ、レベルⅡになれば実質レベルⅠの機能になるわけじゃから気長に努力することじゃな』
「使えねー!」
『仕方あるまい。リソースが限界なのじゃから。ただ、ダンジョン・コアも収納できるように調整してあるゆえ、裏技として高濃度に汚染された物質なら収納できるはずじゃ。高濃度の魔物肉や魔素水を収納しておけば、そなたもしばらく生きていけるじゃろ?』
「そうだよ! ここ、食うもんないのか? 汚染肉って食えるのか? 中毒死するイメージしかないんですけど」
『そのイメージで正解じゃが、裏技といったじゃろ? 原初魔法を操れば魔素濃度も自由自在。収納時には汚染させ、取り出したら魔素を抜き出せばよい』
「なるへそ……全然食欲が湧かないけど餓死するよりマシか~。やだな~。あ、アイテムボックスで思い出した。一尋って何? サイズだってのはわかっけど……」
『ふむ。そなた、今話している言葉が日本語でないことに気付いておるか?』
「何の関係が……って、え? マジ?」
『うむ。契約前はそなたが瀕死の状態であったゆえ記憶を読み取り、我が日本語で語りかけていたのじゃが、契約がなったゆえ脳の修復ついでにこの世界の主要言語をインストールしておいたのじゃ。自然に話せておる。問題ない』
「インストールって……脳みその修復って、考えたら恐ろしいな、おい」
『神の御業じゃ。安心して感謝するがよい。それでじゃ、言語はともかく単位に関しては数値までメートル法換算などされぬ。幸いそなたの記憶に古い単位が使われていての、近い数値じゃった故流用したのじゃ。基本単位はこちらの発音で《पग़》。地球で近いのは《フィート》か《尺》で1पग़およそ30センチじゃな。世界が違っても考え方は似てくるようで、大柄の成人男性の足のサイズが由来じゃな。同じく成人男性が手を広げたときの長さが《दग़》。およそ1.8メートル、日本では一間、一丈などとも言うようじゃが、由来どおり《尋》を採用した。覚えがあるじゃろ?』
「えー? 知らないぞ? なんで神サマは知ってんの? 神サマだから?」
『まあ、神じゃからで合っておる。本人の思い出せない記憶も我にはお見通しじゃ。隠し事は通用せぬと知るがよい』
「ぐわーっ! そうだったよ! 記憶見られるってそういうことだった! いままでスルーしてたのは何でなんだ? 無意識に黒歴史から逃げてたのか!」
『これこれ。恥ずかしいのはわかるが、我は神じゃ。気に病むことはない。そうのたうち回るでないわ。まだ単位の説明がまだじゃ。この世界で活動するには覚えねばならんぞ』
「……ハイ。もう、いいです……」
『まったく……よく聞くのじゃぞ。尺の下は、日本風に合わせて《寸》表示にしておいたのじゃが、実際はインチに近く、およそ2.5センチじゃな。こちらでは一尺12寸と覚えておけばよい。尋の上はの、日本風なら《町》《里》と続くのじゃが、こちらも微妙な数値じゃから慣れるしかない。一町は60尋、およそ108メートルかのう。一里は12町でおよそ1.3キロじゃな。まあ、この世界で正確に使う機会はなかろう。参考になればよい程度じゃ』
「へー。12進法が混じってる感じか。まぎらわしいんだよな、あれ。あと覚えておくのは、重さぐらい? あ、お金と時間もか。お金とかも統一されてんの?」
『そうじゃの。これはここ千年の歴史にも関わるゆえ軽く覚えておいたほうが身のためじゃ。そもそもこうした単位は各地域でバラバラじゃった。しかし、侵略者のシステムは何故か単位が統一されておった。それも有力種族使う単位にな。多少の混乱はあったのじゃが、その後すべての種族で言語も単位も統一しようという機運が高まり現在に至っておる。このような世界、そなたの世界に比べておかしいと思うじゃろ? それとも、小説どおり、異世界の言語は統一されていて当然かの?』
「う~ん、不思議だけど、便利そう。やっぱり神サマが直接関わってるって理由じゃない? 地球はほら、神サマいないか無視状態だから」
『地球の在りようも興味深いのう。じゃが、今はそなたの常識をアップデートせねばならぬ。基本言語以外は地道に覚えるのじゃ』
「ハイハイ。リソース不足なのね。わかります。それに、常識知らずのいい大人って悪目立ちするからなあ。15歳くらいならテンプレどおり、冒険者になるため田舎から出てきたばかりで常識はよくわかりません、で通るんだろうけどねえ。ま、がんばって覚えますか」
『うむ。よい心がけじゃ』
こうしてヘイス・コーズキーは着々と使徒としての道を歩み始めるのであった。
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