第6話 ステータス(表)

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ちょっとだけタイトルを変えました。


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『もう心の準備は出来たかの?』


「ハイ……」


 いざとなってヘタレたが、ゴネてもしかたがないとわかっているので男は覚悟を決めたようだ。

 ついでに、これから獲得するであろうステータスの偽装についての内容も話し合い済みである。リソースに限りがあるので男の要求はほぼ却下されたが。


『よし。コアを壊すのじゃ』


 結界とやらの解除は実感できなかったが、謎の声の合図があった。


「おりゃ!」


 男は暗い中、ぼんやりと光るダンジョン・コアの前で待機し、合図とともに思いっきり踏みつけるのだった。

 武器など携帯しているはずもなく、石ころでもいいから手ごろな何かを探そうにも暗すぎて断念。

 謎の声から、すでに男の頭突きでかなりのダメージを与えているのでもう一度頭突きすれば破壊できるとアドバイスされるが、頭突きしたくてしたんじゃない! と拒否した上で選択された蹴りだった。


「うわ! 真っ暗になった! そりゃそうか……『レベルが上がりました』うわ!」


 コアの光が消えて一瞬後、突然謎の声が、今まで会話していた『のじゃ』口調とは違う声が聞こえてきたため、男は驚いた。


『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

『レベルが上がりました』

 ・

 ・

 ・

 ・

『レベルが上がりました』


「おお! 一気に来た! 数えてらんない!」


『スキル《蹴技》を習得しました』


「おっと、スキルまでゲット! 魔法は?」


『称号《大器晩成》を取得しました』


「称号? 大器晩成って、日本語じゃん……ん? もう終わりかな?」


『我が使徒ヘイス・コーズキーよ。うまくいったようじゃな。称号は我も予想外であったが、内容からして危険はあるまい』


「リアルでその名前を呼ばれるとハズいんだけど……」


『そなたの希望どおりなのじゃが……慣れろというしかないのう』


 男こと鈴木公平。システムに組み込まれるとステータスにも名前が表示されると聞いて、この世界の常識を確認した。

 現代日本人にとってはテンプレだという感想しかないが、大半が西洋風の名前が主流で、これもテンプレで日本風の地域もあるという。

 じゃあそのまま『コウヘイ・スズキ』で大丈夫かと思われたが、自称神サマの数十年に一度くらいの情報収集によるとその地域は鎖国中だそうで大部分の地域で悪目立ちする可能性もあるという。

 ならばと、男が日本でプレイしていたゲームで使っている、スズキコウヘイのアナグラムで、なんちゃって西洋風ネーム『ヘイス・コーズキー』を採用した。しかも、『コーズキー』に至っては元は『香月』だと言い張ることも出来る仕様である。


「ま、確かにゲームで慣れてはいるから問題ないっちゃないけどな。それよりシステムに組み込まれたら、こうしてアンタと……あれ? 名前聞いたっけ? とにかく、自称神サマの邪神と話してて見つかったらヤバイんじゃないの? 邪神の使徒って、火炙りになるイメージしかないんですが……やっぱり使徒やめていいですか?」


『安心せよ。結界は張り直した。結界自体は奴らのシステムにも存在する。特にここはダンジョンじゃ。おかしなことではない。

 そうじゃ、我の名じゃったな。すでに忘れ去られて久しいが、かつては《アスラ神》と呼ばれていたのじゃ。探せば痕跡ぐらいは残っているじゃろう』


「アスラって、阿修羅か? インドだか中国の?」


『そなたの記憶で見たが、単なる偶然じゃろう。実際そなたに出会うまで地球などという異世界の存在は知らんかったしのう。まあ、今更邪神と呼ばれようがかまわぬ。好きに呼ぶがよい』


「達観してんな。さすが神サマなのか? 俺ならブチ切れ案件なんだが……あ、でも泣き寝入りしちゃうか……」


『我は泣き寝入りなどするつもりはないぞ。こうして使徒も出来たことであるし、ここからが我のターンじゃ』


「うわー。これって俺が苦労するってことじゃん」


『我の身の上話などよりそなたのステータスじゃ。自分の目で確かめるがよい』


「おっと、そうだった。う~ハズいけど……ステータス・オープン。おっ、マジ出た」


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 名 前:ヘイス・コーズキー

 年 齢:28歳

 種 族:人種(普人族)

 レベル:30

 H P : 300/300

 M P : 390/390


 スキル : 鑑定Ⅰ MP回復Ⅰ 生活魔法Ⅳ アイテムボックスⅠ

      蹴技Ⅰ(new)


 称 号:大器晩成


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「うん、シンプル! どこのクソゲー?」


『確かにそなたの記憶にあるゲームのステータス表示はやたら細かかったのう。じゃが、必要か?』


「それを言っちゃお仕舞だよ。よそ様との差別化とか、大人の事情があるんだろ? 見応えあったほうがお徳感あるし」


『異世界人の感覚は理解できぬのう。そんなことより、せっかくなけなしのリソースを割いて鑑定を授けたのじゃ。確認せぬか』


 この鑑定スキルは転生モノの三種の神器だとゴネにゴネまくった結果、アスラ神が折れた結果であった。さすがにほかに要求した《転移魔法》《強奪》《時間停止付無限収納》など都合のいいスキルはリソースの問題上却下されている。


「レベルⅠって、せこいなあ。これじゃ邪神じゃなくって貧乏神じゃん。あ、貧乏な神だった」


『誰のせいで貧乏になったと思っておる。文句があるなら侵略者どもにいうがよい。ほれ、早う鑑定するのじゃ』


「へいへい。じゃあ、《MP回復Ⅰ》から、鑑定っと。お、出た。なになに……MPを1分間の回復値にプラス1の補正……は? 説明これだけ? 

 じゃ、じゃあ《生活魔法Ⅳ》は? 鑑定……光、火、風、水の基本操作が可能……って、基本操作ってなに? レベルⅣだから四種類? 一番ほしかった浄化とかクリーンは? 

 えい! 次に期待だ!《アイテムボックスⅠ》鑑定ドン! 一尋ひとひろ× 一尋× 一尋の異空間を使用可能、レベルⅠは通常時間のみ…… 一尋って何さ! どっかで聞き覚えあるけどさ! だがしかし! 時間停止はレベルが上がれば期待してもいいってことだな! よし! 許す!

 さて、(new)がついてるよ。これはあれか、コアを蹴って壊したから生えたのか。貧乏神からの言葉どおりのズルなほうのチートじゃなくって自力で獲得したやつか。達成感あるな。《蹴技Ⅰ》鑑定っと。なになに? 蹴りスキル《踏みつけ》……あ、派生スキルか。じゃあこれも鑑定。なになに? 踏みつける動作に補正……うん、わからん。


 もう称号しか残ってない。寂しいステータスだな……《大器晩成》を鑑定……20歳過ぎてから初めてレベルアップした証。え? これバレるんじゃ……いや、まだ焦る時間じゃない。きっと世の中には戦いと無縁な人もいるはず。病弱な人とか、箱入りとか……まだ続きあるな……取得経験値に28%補正。お、これはいいんじゃね? 年齢がそのまま補正値って監視されてるみたいで怖いけど、きっと自動システムに違いない。うん、OK、OK」


『見終わったな? その鑑定結果ならば我の施した偽装は間違いなく働いておるようじゃな。では本来のスキルの説明を覚えておくのじゃぞ』


「は? このスキル、パチモンなのか?」


『ほんに……はじめに説明したじゃろうが……』





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ストックが続く限り、毎日0時に更新します。




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