第5話 神の権能

 



 現実逃避は最低限に抑えて、男が何とか理解した内容は、


 一、この世界でも地球でもない第三の異世界から侵略を受けている。その証拠が、魔素と呼ばれるファンタジー微粒子の急激な増加とシステムと呼ばれる自称神サマ以外の神様的存在。


 二、自称神サマは全能力を魔素流入防止に費やしていてそれ以外に対しては無策である。


 三、第三の異世界からの魔素流入はここのダンジョンが出口で、結界のようなものを張って閉じ込めてはいるが、完全に抑えることは出来ず、また結界の大きさも限界を迎え、結界内部は魔素で充満し圧力が年々上昇、ついに結界内で飽和し新たな次元の穴を発生させ、それが偶然地球の日本に繋がった。この穴に男が落ちたことも偶然だと自称神サマは主張し、男は反論するだけの証拠もなく歯軋りするだけにとどまった。


 四、事故とはいえ地球世界に魔素が流出したことで結界内の魔素が大幅に減少、そのため自称神サマは一時的に能力を振り分けることが出来るようになった。男が助かったのはそのおかげだと感謝を求められるが、男は管理責任を問い、賠償も求めたが契約を盾に拒否され、この話は平行線を辿り、時間もないことなので一時棚上げとなった。


 そして、男の本意ではなかったが、本題である『魔素の回収』についてだが、自称神サマ曰く『使えるようになった権能の一部を授けるからその能力で魔素を回収して持って来い。回収した魔素は神力に変換しこの世界の主導権を侵略者から取り戻す』だそうだ。


「あれ? ここに魔素がいっぱいあるんなら神力に変換し放題じゃねえの?」


 説明を聞いた男は矛盾に気がついた。


 が、答えは単純なものである。


『うむ。その疑問はもっともじゃが、これまで必要とは考えていなかったのでな、そんな権能は持っておらんかったのじゃ。この機会に新たに創造しなければならぬ。その分リソースが減ってしまうのでそなたに授ける権能も、そなたの世界で言われているチート級ではないが、まあ、うまく使ってくれ』


「なんだよ。自称神サマだから少しは期待したのによ。チートじゃないのか~」


『いや? 現時点で事実上の神である侵略者からすればそなたに授けた権能は立派なチートずるじゃよ? 何しろ向こうの思惑が外れるのじゃからな』


「いやいや。そんな言葉的問題じゃなくて、結局、具体的にはどんな能力なんだ?」


『そうじゃの、アイテムボックスやらストレージといえばそなたにはわかりやすいかの? その空間にそなたは魔素を集めればよい。なに、呼吸をするように自動発動じゃ。パッシブといったかの? アクティブにも切り替えられて、そなたが意識すれば回収効率も高まる。おお、そうじゃ、ダンジョンを攻略してコアも回収してもらわねば。実はそちらがメインじゃ。コアは魔素の塊といってもいいからの』


「なんかスゴそうでショボそうな、ショボそうでスゴそうな? 戦闘に使えるのか? あと、アイテムボックスは魔素以外も使えんのか?」


『どちらもレベル次第、使い方次第じゃと言うておこう』


「レベルあるんだ……あ。そういやシステムに乗っ取られたんだっけ。今見られるのか? やっぱり『ステータス・オープン』とか言わなきゃなんないの? ハズいんだけど……」


 恥ずかしいと言いつつも有名な呪文を口にしてしまった男。

 だが、予想した『ステータス・ボード』らしきものは空中投影も脳内イメージも発現しなかった。


『それに関しては今しばらく待つがよい。業腹じゃが、そなたが活動するにはどうしても侵略者のシステムの支配下に入らねばならぬ。今は我の結界内で切り離された状態じゃ。奴らに目をつけられぬように調整してからがそなたの出番じゃ。期待しておるぞ』


「期待っていわれても……魔物いんだろ? 俺、自信ないんだけど……」


 男は、命を助けられて内心感謝はしているが、実際異世界転移したことを実感しつつあり、ラノベの読者から主人公サイドに転向してしまったことに戸惑っていた。

 自分が小説の主人公たちのように華々しく活躍できるかどうか。いや、華々しさは重要ではない。命に危険があるならぜひ辞退したい所存である。たったさっきまで生死のはざまを彷徨っていたのだからなおさらである。


『そなたの記憶を見てその気持ちは理解する。が、残念ながらそなたに選択肢はない。あるとすればここで死を待つのみじゃ。我に抗うというのなら、結局は戦うということじゃろ? 魔物と戦わぬ理由はないであろう』


「そりゃわかってるけど……」


 正論だったが、それでも、いや、だからこそ逡巡する男。


『しかたない。卑怯なようじゃが、事実でもあることゆえ伝えておこう。そなた、故郷に帰りたくはないか? しかも、そなたが役目を果たすのが遅れれば遅れるほど故郷は災難に見舞われるぞ』


「帰れるのか? 今それ言うの? マジ卑怯じゃね? 騙してんじゃねえの?」


『騙すも何もない。確かにそなたの記憶に類似する小説とやらはあるが、我は噓は言わぬ。たとえていえば壁にひび割れが出来たようなもので、一度繋がった次元の穴はそう簡単に消えるものではないということじゃ。我が無力であるのは否定できぬが、完全に穴を塞げるのなら我とて千年も苦労はせぬよ。

 侵略者どものごときマネはしたくないのでの、地球側の穴も抑えておるが、少量の流出は止められんでおる。前にも説明したが、このまま放置すればいずれ地球にもダンジョンやら魔物が発生するぞ。

 そうじゃのう、もしそなたがどうしても我の使徒として働きたくないというのなら地球に送り返してやろう。じゃが、それでリソースは使い果たす。そうなるともう穴を塞ぐことはできぬで、この世界の魔素が一気に地球に流れ込むであろうな。

 さて、そなたはどうする?』


「きたねえ! 脅迫だろ!」


『受け取り方の問題じゃ。そなたにも我にも選択肢はないに等しい。我は最善手を打つのみじゃ』


「くそっ! わかったよ! やればいいんだろ!」


『うむ。自主的な判断、褒めて遣わす』


「なにが自主的だっつうの! で! 俺はこれからどうすればいいんだ?」


『うむ。ちょうどそなたのステータスの調整は終わった。結界を解除するので、我の合図があったらまずは目の前のコアを破壊するのじゃ』


「破壊? コアは回収しろっていわなかったか?」


『破壊して回収じゃな。今回はそなたのレベル上げもかかっておる』


「おおー! レベルアップか。このダンジョン、最大だとかいってたな。カンスト行くか?」


『ぬか喜びさせることになるが、コアでレベルアップするのは今回だけじゃ。それもいわゆる中級冒険者レベルに調整してある』


「なんで!!?」


『システムに気取られないためじゃな。そもそも奴らのシステムでは経験値とやらが倒した魔物の魔素量に比例するようになっておる。そなたに授けた権能で魔物の魔素を完全に吸収できるようになればドラゴンもスライムも同じく経験値1じゃな。レベルアップしたければ加減を覚え弱体化に留めて自らの手で倒すとよい。或いは数をこなすか、じゃな』


「……面倒な……わかったよ。なんとなく魔物も大丈夫な気がしてきた。これって、人間相手にも通じるのか?」


『そうじゃな、魔物ほどではないが今の人間たちも魔素に依存しておる。高レベルになれば顕著じゃろう。急に酸素が薄くなった感じじゃろうか? すくなくともシステム依存のスキルや魔法は使えぬようになるじゃろう』


「こえー。もしかして、俺ってチート?」


『何事も使い方次第じゃと言ったじゃろうが』


「あ。魔法っていえば、俺も使えるようになるのか?」


『それはそなたが奴らのシステムに組み込まれてから教えよう。

 さて、準備はよいか? 結界を解除するぞ』


「わ! 待って、待って! 心の準備が……」




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