第2話何も案がでねーや

 手紙の内容

『何がどうって訳じゃないんだけど生きていてもつまらないし、これから先の人生もつまらないと思う。だから私に愛や希望を与えて欲しい』

 パタリと手紙を閉じた。

 

「これ達成出来たらいくらもらえる?」

 目の前にいるbarのマスターは人差し指を三本上げた。

 ここの依頼料は指一本で百万円の単位を示す。

 つまりこの依頼は三百万円だ。

「オッケー。やらせてもらうわ」

はじめちゃんこの依頼難しいわよ」

 barのマスターが真剣な眼差しで俺を見てきた。

「マスター悪いけど俺はオカマには興味無いんだわ」

「もう」

 barのマスターは頬を膨らまし女の子っぽい表情をしてきた。

 だから俺はオカマには興味無いんだって。

 barのマスターは手を振り俺は『barフラミンゴ』を後にした。


 待ち合わせ場所はここでいいんだよな。

 手紙には俺の高校の裏山に大きな一本杉があるのだが、そこが待ち合わせ場所になっていた。

 だけど全然人が現れる気配がない。

 夕陽が沈みかけているので、ぼんやりと薄暗くなっていた。


 薄暗い中一人の生徒が俺の元へと走ってくる人がポツリと見えた。

 俺の目の前に立つと、膝に手を起き「ハァハァ」と息を切らし顔をうつ向けていた。

「おい何でテメーがここにいるんだよ」

 ギャル風の女が顔を上げると「何でって、あたしが依頼者だからだよ」と応えた。

「依頼って何かい。この手紙に書いてある内容でいいのかよ?」

「はい」

 はいってお前、笑顔でそんな事言われてもな。

「テメーはあれか。友達とかいんの?」

「これって言う決まった友達はいないけど、普通に会話出来る人ならいるよ」

「俺だと役不足だと思うからそいつにお願いしに行くぞ」 

 適材適所と言う言葉を知ってるか。

 絶対俺よりそいつの方がいいって。

「いやいやおかしいでしょ。友達とかにばれたくないからあなたに依頼したんだけど。そうじゃなきゃあんな怪しい所、一人で入らないって」

 確かに、あそこの場所を女一人で入る何てたいした勇気だよ本当に。

「んなもん知るかよ。俺は帰る」

 今回せっかく引き受けた依頼だけどパスさせてもらう。

 破格の依頼料だったけどしゃあねー。

 女一人をこの場所に置いて俺は踵を返し家に向かった。


 ボロアパートに着き中に入るといったいいつこんな状況になったのか分からないが、足の踏み場が相変わらずなかった。

 床に落ちていたリモコンを拾い電源ボタン押すと適当なニュース番組が流れていた。

「あー金どうすっかな」

 と天井を見上げながら無意識に呟いていた。


『今日のニュースです。女子高生がまた連続殺人犯に刺殺されました。未だに犯人は捕まってない模様。決して女子高生を一人にさせないで下さい』

 と誰に伝えるかではなく部屋の静けさを消すようにテレビから音が流れていた。

「·········あーくそ」

 俺は勢い良く部屋を飛び出した。


 一本杉に着き辺りを見回したがさすがに遅いし、もういな···いたよ。

 ギャル風女は一本杉を背もたれにしうつむきながら座っていた。

「おい、こんな所で何してんだ」

 顔を上げると月の光で目が輝いていた。

「泣いてたのか?」

 金髪女はコクりと頷いた。

「おい、帰るぞ」

 金髪女の手を引き無理やり身体を動かした。

「え、帰るってどこに?」

「···」


 金髪女を部屋の中に入れると散らかっている部屋を見たら驚愕していた。

「まぁ適当に腰でも下ろせや」

「腰でもって足の踏み場ないけど」

 缶、弁当の容器などを片腕でなぎ払い、空いてる場所を確保した。

 そこに金髪女は座り、俺は万年床についた。


 しばらく無言が続いていたが金髪女がそれを消すように喋った。

「あなた何年生?」

「あ、二年生だけど」

「じゃああたしの後輩ね。あたし三年生だから」

 一個上かよ。

 ならもっとしっかりして欲しいもんだぜ。

「あ、別にテメーが三年生だろうが一年生だろうが興味無いね」

「それよりも早くあたしの依頼果たしてくれないかしら」

 急に強気になったなこいつ。

「具体的に何かやりてー事とか好きな人とかいねーの?」

「特に何もないかな。好きな人もいないし」

「んじゃあ無理だ。いろいろ考えるのめんどくせーから今日は寝るぞ」


 朝目が覚めると金髪女も足を折り曲げ、器用にもうずくまるように寝ていた。

 この後どうすりゃーいいんだよいったい。

 金髪女も俺の足音に気付いたのか目が覚めた。

「おう、今日学校行くか?」

「別にどっちでもいいけど」

 金髪女はどこか悲哀に満ちた表情をしていた。

「それじゃあ今日は行かないで一日中寝るか?」

 と言って金髪女の応えを聞かずに万年床に寝転がり、俺は再び眠りに落ちた。




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