喧嘩王

てるた

第1話喧嘩王

「百人!!!」

 その言葉と同時に目の前にいた、がらの悪い高校生が倒れた。

 その拳は血で真っ赤に染まり、地面もまた血飛沫で赤く染まっていた。

 その光景を見た一人の生徒がこう呟いた『喧嘩王』と。


 

「うるせーな!」

 目覚まし時計がセットもされてないのに鳴り響いたので思わず怒鳴りつけて、ぶん投げると壁に当たりがシャンと音が鳴り床に落ちた。

 俺は床で寝ていたので立ち上がりカーテンを開けると太陽が地面から生えようと顔をだしていた。

「学校に···行くか」

 とゴミ屋敷と化していた踏み場のない床を歩き、タンスの中にはしわくちゃになった制服を取り出し袖を通した。

 玄関付近で転がっていたペチャンコの鞄を手に持ち、俺は家を出た。


 カンカンと太陽が照り付けるこの夏の季節が嫌いだ。

 外に出ると額から汗が落ち身体中はじんわりと汗が発汗し衣服が肌に張り付くし、頭はクラクラして今にもぶっ倒れそうになる。

 全く持ってこの季節は嫌いだ。

 

 重い足取りで学校に着くと一年ぶりとなる二年一組の教室に入った。

 騒がしかった教室がピタリと止まり、そして俺の所を一瞬だけ見たら直ぐ様視線を戻し目の前にいた友達と話しを再開させていた。

 まぁ一年間も学校に来ていなければ当たり前と言えば当たり前だがな。

 そんな事を気にせずに俺は一番窓際の後ろの席に着いた。


「ちょっとあんた一年ぶりなのに私に挨拶なし?」

 席に着くなり早々に幼なじみの川島望かわしまのぞみが声をかけてきた。

「···どうも」

 とだけ言うと不服そうだが自分の席に戻って行った。

 ったくお節介の奴もいるもんだぜ。

 自分で言うのも何だが俺は不良だ。身長は平均並で坊主頭に眉毛は整えられているが剃り込みをいれてあり、いつもイライラしていて目をギラつかせている。

 あいつも俺との縁を切ればいいのに。

 

 先生が教室に入って来ると物珍しそうに俺を見ると目を丸くしていた。

「何だよ!!!」

 そう叫ぶと教室中の生徒が俺に注目した。

「いいてー事があんならハッキリ言えよ!」

 クラスの視線を無視して先生に啖呵を切ったが、先生は視線をキョロキョロさせているだけで反応はなかった。

「ったく頭くんなもう!」

 と言い乱暴に椅子から立ち鞄を持って教室を後にした。


 屋上に来ると日陰になっている所に足を伸ばし座り込んだ。

「やっぱり来るんじゃなかったこんなつまんねー所に」

 俺の言葉は空気中に彷徨いただただ消えるはずだったのに、何故か誰だか知らないがその言葉に対して応えた。

「あーあたしも来るんじゃなかったよこんな所に」

 俺は日陰になっていない反対側を見ると、足を伸ばした金髪で日焼けしているが顔はガングロではなくただギャル風の女が汗をかきながらそこにいた。

「暑くねーのか?」

 と言うと俺を一瞬だけ見たが直ぐに視線を戻し「あちー」とだけ応えた。

 まぁ暑かろうが寒かろうが俺には関係ないがな。

「邪魔したな」

 踵を返し屋上からでようとしたら肩を掴まれた。

「何だよ。もしそれが喧嘩する為の引き金だったら俺は女だろうが容赦なくぶっ飛ばすぜ」

「違う。あたし人生変えたいんだけど助けてくれないかな?」

「ハ? お前急に何言ってんの。んなもん知るかよ」

 俺は後ろを振り返らずに力任せに前進して掴まれていた手を振り払い屋上から出ていった。


「つまんねーな!」

 新宿は表向きではキラキラと光り輝いているか、一本裏路地に入ると無法地帯と化している。

「おうおう長野ながのさん今日もまたずいぶんと荒れてますねー」

 俺が一人事のように叫んだら路地で不良座りをしている武田頌たけだつぐるが応えてきた。

 こいつもまた俺と同じで学校という秩序の中から省かれた浮浪者だ。

 同じ高校生ながらにして髪型はパンチパーマで鋭い目付きを放ち、いつもイライラしている。

「あ!?」

 武田と同じ格好でガンを飛ばしたが武田は一向に怯まず眉間に皺を寄せ睨み付けてきた。


 しばらく睨みあいをしていたが、武田は飽きたのか何も言わずに離れて行った。

「雑魚が」

 とポツリと俺は呟き武田とは別方向に歩みを始めた。


 歩みを進めると、薄暗い路地に街灯が照らされている唯一のお店『barフラミンゴ』に入った。

 ここは犯罪者や脅迫犯どんな奴でも受け入れてくれる場所だ。

 俺みたいな者にとっては唯一のオアシスである。

 中は豆電球が数個光っており、そして何個かの丸テーブルとカウンターがある作りになっていた。

 俺はカウンター席に座るとマスターから、お酒の入った小さなグラスを置かれた。

はじめちゃん何か今日殺気だっているけど何か変な事でも合ったの?」

 barのマスターはオカマで俺と仲が良くいつも気さくに話してきてくれる。

 「別に何もねーよ。っつうか未成年に酒ってどうかと思うぞ」

「えーだってはじめちゃんこれ飲むと元気でるじゃない。だからつい」

 マスターの見た目はスキンヘッドで痩せた身体をクネクネしていた。

 気持ち悪。

「まぁんな事どうでもいいや。取り敢えず仕事が欲しい」

 と言うとマスターは酒瓶がずらっと並んである棚の後ろから一枚の紙を俺に渡してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る