第5話 リズの買ったもの

 直後。3人目の底辺メイドが現れた。

背後からエミーの胸を鷲掴みにして、縦に横にと揉みしだく。

いい眺めではあるが、けしからん。エロすぎる!


「あー、キャス、やめて。今はマッサージなんか不要よ」

 エミーは落ち着いている。

背後の人物をノールックで名指ししたことから、慣れっこなんだと思う。


「いいじゃないか。減るもんじゃないんだから」

 キャスと呼ばれた底辺メイドは一向にやめない。

それどころか、その手の動きは速度を増している。


「エミーは恥ずかしいんだよ。ご主人様の前だから」

 リズ、お前が言うな! お前こそもっと恥ずかしがれ。


「リズ、そんなところにいたの。タオルなんか纏ってるから気付かなかった」

 リズはタオルを纏っていると普通だ。


「ご主人様が纏うように言って聞かないんだよ。わがままなんだ!」

 違う。普通は脱がないもので、全裸でいる方がおかしい。

リズは脱いだら、すごい!


「でもリズ、そんなんじゃ存在感ないねぇ」

 それでいい。そのままでいい。


「じゃあ、脱ごっかなぁーっ」

 言いながら横目に僕を見るリズ。

冗談ではない。決して脱がすわけにはいかない。

リズはタオルを纏っているとあどけなさの残る普通の女の子だけど、

脱いだらすごい。すご過ぎる。僕をおかしな気分にさせる。


「ダメ。絶対にダメ!」

「はぁーい……」

 しゅんと項垂れるリズ。聞き分けのいい子だ。

リズは大人しくなったが、外のリサズタックルはまだまだ続く。




 エミーがまた、脈絡のないことを言う。


「あー、リズ、風呂場を綺麗にしながら待っててちょうだい」

「なるほどーっ! 風呂場を綺麗にする間は、脱いでもいいんだね」

 どうして通じる? なるほどというほど詳しく説明していないエミーなのに。


「じゃあ、私もリズに付き合うよ。リズは脱いだらすごいから!」

 キャスはエロい顔になる。

女の子同士だとスキンシップが手軽にできてうらやましい。

いやいや、けしからん、けしからん!


 でも、お風呂がきれいになるなら目を瞑ることにする。


「あー、あとでみんなで行く。お先にどうぞ!」

「うん。エミー期待しててよね!」

「リズも私に期待してくれていいのよっ!」

 『キャーッ』という黄色い悲鳴とともに、リズが駆け出す。

『こらこら、走るんじゃない』と言ったところで野暮だ。

僕とエミーは黙ってリズとキャスを見送った。




 またエミーと2人になる。今度は僕からはなしかける。


「そういえば、リズはなんで外にいたんだ?」

 素朴な疑問だ。


「あー、いけない。キッチンに行かないと!」

 エミーは言うなり歩き出す。キッチンは1階の東側にある。

キッチンに行くこととリズの外出には何か関係があるに違いない。

僕はエミーについて行くことにした。




 今ではおんぼろな西の館も、かつては宮殿の本館だった。

100人規模のパーティーが催されていた時代もある。ゆえにキッチンは広い。

今はたったの6人で使っているのだから贅沢だ。底辺メイドにはもったいない。


 キッチンに近付くにつれて、鶏肉の油の香りが漂ってくる。

そういえば、まだお昼を食べていない。

僕の昼ごはんは用意されているだろうか。


 道中、あえてエミーに聞く。


「今日の昼の献立は?」

「あー、リズは鶏肉を買いに行きました」

 質問に対する答えではないが、なるほど。やはり鳥料理というわけか。


「うん。それは楽しみだ!」

「あー、ご主人様、珍しい」

 意味が分からない。エミー補正をしても、僕が珍しいことには繋がらない。

今は分からなくても、キッチンに行けば分かることだろう。

気にせずに歩く。




 キッチンには2人のメイドがいた。

1人は手前にいて皿を洗っている。2つに結ばれた後ろ髪が大きく揺れている。

もう1人は奥でフライパンを動かしている。こちらもツインテールだ。


「キュア。お皿はまだなの?」

「もう少しよ、ミア」


「早くして。もうほとんでできてるんだからね」

「ちょっとは待ちなさいよ。あとは拭き取るだけなんだから」


 調理をはじめてから皿を洗うだなんて、どう考えても段取りが悪い。

これは危険だ。期待してはいけないやつだ。僕の危険察知能力が発動する。


「あー、2人とも注目ーっ!」

 エミーの呼びかけに、キュアとミアが振り向く。

何ということだ! 2人の顔は瓜2つ、そっくりだ!

双子だろうか。


「あー、無爵位の新しいご主人様です」

 無爵位はやめてくれ!


「あら。もうついたの? ちょうどいいわ」

「今日のお昼はチキンライスだから。期待してちょうだい」

 喋り方もそっくり。2人揃って気が強そうだ。

料理に対しての自信からだろうか。段取りの悪さが気になる。


「いや、期待はしていないよ」

「どうしてよ! 一生懸命つくってるんですからね!」

「私だって一生懸命お皿を洗ってるんですよ!」

 何の自慢だ?


「そうだ! ご主人様、味を見てください!」

「いいわね。今日のお昼は無爵位の新しいご主人様の歓迎会でもあるんだから」

「えっ、僕が?」

 言いながらエミーを見る。正直、戸惑いしかない。

味見は普通、毒見役が行うものだ。僕が行うものではない。主役なら尚更だ。


「あー、お腹が……お腹が、急に……」

 棒読みのエミーが逃げるようにどこかへと消えていった。

残された僕の身に、何が起こるのだろうか……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る