第4話 2人目の底辺メイドは脱いだら……!
エミーが顔を上げると胸を張ったようになる。
失敗だった。つい、目が行ってしまう。
「あー、はい……私はどうなるのでしょうか?」
「そうだな。いくつか質問に答えてもらおうか」
「あー、はい。分かりました」
「では、まずは玄関のことだけど。どうして閉め切ってしまったの?」
「あー、無爵位のご主人様がお見えになるとは思っていませんでした」
答えになっていない。無爵位は関係ないだろう!
「じゃあ、僕が来ると分かってても、閉め切っていたかい?」
「あー、閉め切っていたと思います」
やっぱりだ。閉め切った理由は他にある。
それは、僕がここへ来ることよりも大切なこと。
「なぜ、僕が来ると分かってても締め切るの?」
「あー、リサズタックルの通り道を作るためです」
また質問の答えじゃない。2・3手先というところだ。
もっと深掘りするように促そう。
「通り道?」
「あー、この館をリサズタックルから守るためです」
と、胸を張る。思った通りだ。
エミーは1番大切な自分の仕事が何かちゃんと理解している。
それはこの館の管理であり、僕の世話は2の次だ。
やはり、エミーは単なるポンコツではない。説明が下手なだけ!
さっき芽生えた仮説は、どうやら真実のようだ。
エミーが誇らしげな顔になったのも、とてもいい。
かわいい顔がさらにかわいく見える。胸を張ると、その分大きく見える!
って、いかん、いかん。
「リサズタックルが来ることが分かっていたのかい?」
「あー、シーソーです」
質問の答えになっていないが、否定したとは思えない。
実際、天気を予測できる人間なんて国中探してもほとんどいない。
エミーにそれができるのなら、エミーはかなり優秀なメイドということになる。
エミーに対して、興味が湧いてきた。質問を続ける。
「では、僕が来ると分かってて締め切った場合、エミーはどんな行動をする?」
「あー、シャルを叩き起こして……」
ちょっとずれている。シャルはこの時間まで寝ているのか?
気にせずに促す。
「言ってごらん。怒ったりしないから」
エミーはにこりと笑って答えてくれる。
「あー、恐れ多いことですが、ご主人様に来ないでくれって伝えます」
「なるほど。それは随分と思い切ったことをするね」
メイドは主人の言いなりになるのが当たり前。
意見を述べるなんてことは、あってはならないこと。それがこの国の常識。
思い切ったことをすると言ったが、怒っているつもりはない。
だけどエミーには、僕が怒っていると思えてしまったようだ。
その証拠に、また萎縮してしまう。
なんとかして落ち込むエミーを励まさないといけない。
そう思っていると、雷鳴が轟いた!
今年のリサズタックルは例年よりも激しい。大きな雷が直ぐ近くに落ちる。
ものすごく大きな音と共に、稲光が雨戸の狭い隙間から何度も漏れてくる。
こ、怖い……。
男の僕でもこんなに怖いんだ。女のエミーは動転しているかもしれない。
心配でエミーを見る。が、驚くことに平然としている。
どうやらエミーは度胸満点のようだ。拍子抜けしてしまう。
「あー、繁った木がありますから」
エミーは多分、怖がる僕を気遣っている。
なんとなく、エミーの言うことが通じるようになった。
それから、庭に妙に繁った木があったのを思い出す。
そのときは雨宿りには都合がいいと思ったが、そうではないようだ。
「避雷針代わり、ということか」
エミーがにこりと笑う。よしっ、正解のようだ。
不覚にも底辺メイドのエミーがかわいいと思ってしまう。
直後にまたも雷鳴。さっきよりも大きい。
僕は耳を塞いでしゃがみ込む。
その目の前に、仁王立ちのリズが再登場。
下から見上げると……。
「ぜ、全裸ーっ!」
しかも、すごい。タックルされたような衝撃だ!
「エミー、お風呂のお湯、熱過ぎるよ」
「あー、またやってしまった。ごめんなさい」
またって。ろくに風呂も焚けないとは。エミーはやはりポンコツ?
仮説は間違いだろうか……。
それより、リズ。
「いいから、服を着なさい、服を!」
「えーっ? どうして? そんなこと言うご主人様ははじめてだよ」
こっちだって、女子の全裸は今日がはじめてだっつーの。
一体、今までのリズの主人は、リズに何をしていた? させていた?
考えるだけでも反吐が出る。
「他所は他所、うちはうち! 服を着なさい。せめて、タオルを!」
「うーん。ご主人様がそう言うなら、しかたないなぁ……」
リズは言うなり、大きめタオルを持ってきて、纏った。
まだリサズタックルは続いているが、僕の眼福タイムはこれで終了した。
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