第3話 底辺メイドは仕事ができる⁉︎
リサズタックルはすさまじい。この館が心配だが、それより……。
「こ、怖い……」
思わず本音が出る。このまま2階に降りていたらどうなっていたことか。
チャペルの窓は開いていて、暴風が通り過ぎている危険な場所だ。
僕は暴風に飛ばされていたかもしれない。あるいは、
風といっしょに飛んできたモノが直撃というのもあり得る。
エミーを見上げると、大きめタオルを手にしている。用途は不明。
3階の階段ホールでじっとしていて動かない。
「あー、ご主人様。こちらへどうぞ」
「どうぞって……」
「あー、一応、館の構造は理解してます。階段が最も安全です」
「でしょうね」
「あー、ですが……できれば3階にいてほしいです」
「どうしてさ。万が一のとき、上の階は危険じゃないのか」
「あー、リズがまだ戻ってないんです」
たしか底辺メイドの名前だ。戻らないってことは買い出しか何かだろうか。
リサズタックルのなか心配だが、僕の身の安全には代えられない。
今、僕がいるのは2階と3階の間の踊り場。少々暗い。
僕は、エミーに背を向ける。
「ここにいる。たしかに2階より下は危なそうだし、ここがちょうどいい」
「あー、むしろ、ちょうど悪いですよ」
エミーの言うことはよく分からないし、僕は意固地になっていた。
雨戸を叩く雨音は恐ろしいし、底辺メイド相手に引くに引けない。
「いいや、ここがいい。ここに決めたんだ!」
刹那。少女の叫び声がした。答えるエミーの声は涼しげだ。
「エッ、エミー。何でこんなところに人がいるのーっ!」
「あー、その方は無爵位の新しいご主人様ですよ」
追放してやりたい!
そんな間もなく、僕は何者かにタックルされた。
ひょっとすると、女神リサ様のご降臨!
そんなわけない。だとしたら、誰だ? 底辺メイドだろうか。
そのまま倒れる僕。石の床に打ち付けられて、激痛が走る。
泣きっ面に蜂とのしかかってくるのは、とてもやわらかいもの。
「い、痛たたたっ!」
「ご、ごめんなさい。無爵位のご主人様!」
声のする方を見る。本当に女神リサ様だったらどうしようと、ドキドキする!
けど、そこにいたのは少女。どうやら、底辺メイドの1人のようだ。
あどけない表情から察するに、まだ子供なのだろうか。身体も顔も小さい。
それでいて髪量は豊富で、肩から前に垂れ下がっている。
僕の上に乗っかっているが、驚くほど軽い。
それ以上に僕を驚かせることに……。
「ぜ、全裸ーっ!」
しかも、すごい! タックルよりもすごい衝撃だ!
女性の身体はこんなにすごいのか。
「あー、リズは服を脱ぐクセがあるんです」
なんて厄介な!
「無爵位のご主人様、本当にごめんなさい……」
リズといったな。とんでもない底辺メイドだ。
無爵位って言うな! 脱いだらすごいという自覚を持て!
「いいから、服を着なさい、服を!」
「あー、リズ、とりあえずこれ使って。お風呂は沸かしてあるわ」
「遠慮なく使わせてもらうよ。エミー、ありがとう」
言うなり、リズは大きめタオルを纏うと、そのまま駆け出していった。
その後ろ姿は普通の女の子といった感じだ。
タオルを纏っていれば普通。脱いだらすごい!
僕が立ち上がると、エミーが言う。
「あー、今の、リズは悪くありません」
その口ぶりは、僕を悪者にしようとしているようにも思える。
僕は当然反発する。走っていたリズが悪いに決まっている。
「なんだって? じゃあ、誰が悪いと言いたいんだ」
返答によっては解雇だ! 追放だ!
「あー、私です」
「なっ、なにぃ……」
意外な答えに、拍子抜けしてしまう。
エミーはリズや僕を悪者にするでなく、自分のせいだと言うのだ。
「あー、もう少し上手に説明できていれば、こうはならなかったんです」
神妙な顔で、少し前屈みになる。
胸を張るとよけいに大きく見えるから、このくらいがちょうどいい。
引っかかることがある。
「エミーはリズが走ってくるのが分かっていたのかい?」
「あー、リズはああ見えて綺麗好きなんですよ」
質問の答えになっていない。
「東の扉から入って、わざわざ階段を登って……」
……3階を通る可能性は低い。
そう言いかけたところで思い出す。
1・2階はエントランスホール以外、あえて窓を開けてある。
今はリサズタックルが吹き抜けている。とてもじゃないけど歩けない。
僕はあごに手を当てながら斜め上を見て、これまでのことを思い出す。
エミーは、建物の構造を理解してリサズタックル対策を完璧にした。
リズが戻っていないのに気付き、帰宅後の風呂までのコースを予測した。
リズが全裸になることも予想して、大きめタオルを用意しておいた。
完璧な仕事ぶりじゃないか!
ただし、ちょっとばかり説明にクセがある。それが玉に瑕。
僕の中に、1つの仮説が生まれる。
エミーは仕事のできるメイドなのではないか、と。
ふと、エミーを見る。悲しそうな顔で僕を見ている。ドナドナ感が半端ない。
「あー、あのー。やはり、私はクビでしょうか……」
怯えている。僕としては、しっかり仕事してくれればそれでいい。
僕はコホンと咳払いのあと「まぁ。エミー、顔を上げなさい」と言った。
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