第6話 ツインテールな双子のキュアとミア

 今、キッチンにいるのは僕とキュアとミアの3人。

キュアとミアはそっくりで見分けがつかない。

今はかろうじて立ち位置と持ち物で区別ができる。

今後のことを考えると、見分ける方法を探っておかないと。


 それより今は、味見の回避が先決。


「さぁ、食べてください」

 キュアが匙で掬ったチキンライスを僕の口元に運ぶ。

だが、食べない。僕の中の危機察知能力が食うなと言っている。


「ちょっとキュア、待ちなさい。私が掬って差し上げるんだから」

 ミアが割って入ってきて、キュアとミアが口論をはじめる。

これはラッキー! エミーも逃げ出す料理、味見しなくて済みそうだ。


「どうして? 私が作ったんだから、私が掬うに決まってるでしょう」

「血迷ったの? 大人しく私にその匙を渡しなさい」

 完全に平行線。終わりが見えない。

はなしの矛先を変える。


「1つ聞いていいかい。2人はそっくりだけど双子なの?」

「当たり前じゃないですか。見れば分かりますよね」

「私たちは、ツインテールツインズ・ミアキュアなんだから!」

 知らんがな。知りたくもない!


「何、言ってるの? 私たちは、双子の2つ結び・キュアミアでしょう!」

「ツインテールツインズ・ミアキュアよ」


「キュア・ミア!」

「ミア・キュア!」

 どうでもいい。

だが、見分けがつかないのは困る。主人としてしめしがつかない。


「で、どうやって見分ければいいんだい?」

「そんなの簡単。料理をしている私が優秀な姉のキュアよ」

「何を言ってるの? 私の方が先に生まれたんだから私が姉よ!」

 聞けば、2人の産まれた地方では、双子は先に産まれた方が下らしい。

姉が妹に産道を譲ったと解釈するらしい。


 生まれ故郷ではキュアが姉ということでおさまっていたが、

こっちに出てきて先に産まれたミアが姉という解釈を知り、

以来、2人の醜い争いがはじまったらしい。


 正直言うと、どっちでもいい。

それより大事なことがある。今後の主人としての活動に欠かせない。


「で、結局どうやって2人を見分ければいい?」

「そんなの簡単。2つ結びなのが私、キュアツイン!」

「そして、ツインテールなのが私、ミアツイン!」

 戦隊なのか? 2つ結びとツインテールってどう違うの?

そっちの勉強からはじめなくてはいけない。


 それに。

「ミアツインは兎に角、キュアツインでいいの?」

 そこは『キュア双子』とか『キュア2つ結び』じゃないのか?


「ゴロの問題。『キュア双子』じゃ、おさまりが悪いもの」

 たしかに。『キュア2つ結び』は検討外のようだ。


「そうよ。私たちはそんな小さなことで争ったりしないわ」

 もっと小さなことで争っているような気もする。


 メイド同士が仲違いしているとか、主人として見過ごせない。

それが双子の姉妹だったら尚更だ。

どちらかに肩入れするのは気が進まないが、はなしが進まないのは困る。


「だったら、ツインテールツインズの方がゴロがいいんじゃない?」

 と、思うままに言ってみる。


「なるほど。それもそうね!」

 キュアが簡単に受け容れる。

もう少し嫌がるかと思っていたから、ちょっと意外。

今まで誰も提案しなかったんだろうか。


「じゃあ、私たちはツインテールツインズ・ミアキュアで決まりね!」

「うぐぐぐぐ……」

 鼻を鳴らし、得意げなのがミア。ほぞを噛むのがキュア。


 このまま決着がついても別にいい。

けど、僕がミアに肩入れしたようになるのはよくない。

主人として、メイドには平等に接するべきだ。


 思案の末、ある妙案を思いついた。

2人に争わせるのではなく、譲り合う心を醸し出さる。

どちらかに肩入れするのではなく、2人と平等に接する。


「いいや。ツインテールツインズ・キュアミアにしなよ」

「ツインテールツインズ・キュアミア。いいかも!」

 予想通り、キュアが大賛成。


「どうして? どうしてキュアが先なの?」

 予想通り、ミアが大反対。


 さて、ここからだ。


「じゃあミアは、キュアがお姉さんってことでいい?」

「いいわけないですよ。私が先に産まれたんですから」

 当然の反応。


「それそれ。ミアは産道も名前も何もかも、キュアに譲ってもらうんだね」

「譲ってもらうとか、そういう問題じゃ……」

 ミアが怒り気味に言いはじめたのをあえて遮り、強い口調で言う。


「……そういう問題だよ!」

「なっ……」

 ギャフン顔のミア。僕はたたみかける。


「君たちの産まれ故郷の慣習、とても素晴らしいと思うんだ」

「姉妹の決め方のこと?」

「みんなはおかしいってバカにするわ」

 たしかに、おかしい。非合理的ともいえる。

だけどその慣習に隠れた譲り合いの精神は素晴らしいもので、大切にしたい。


「非合理的なところがいいんだよ」

 2人はキョトンとしている。

僕のペースではなしが進んでいるのは間違いない。

よしっ! このまま、一気にはなしをまとめるぞっ!

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