第44話 冒険者の初戦闘
最初の部屋から出ると歩道付き一車線分ぐらいの幅がある岩肌洞窟となっていた。
松明が一定間隔に設置してあり、ヒカリゴケも手伝い光源は十分。
ただ、洞窟独特の冷たい空気を感じ、気を引き締めねばと瞬時に切り替える剣道集団。
彼らは試合を数多くこなしてきたので集中モードに入るのが得意だ。
慎重に、それでも早いペースで道を進み、分かれ道を選んだ先でついに動く物体を目撃した。
「なんだあれは……木が動いている」
2mほどの高さでハロウィンに出てくるような邪悪めいた木が、根をうねうねと動かしてゆっくりと移動していた。
「敵、でいいんだよな?」
「見た目的にもそうじゃないかな」
「だな。よし。相手は一体だ。まずは全員で行ってどんなもんか確かめるぞ」
剣道集団はうなずく。そしてリーダーの合図で一斉におばけの木に突撃した。
「「キェエエエエイ!」」
剣道特有の気合の入った声が響く。
足の速いやや小柄な男がドロップキックで初撃を与えると後続がモンスターを囲み殴る。乾いた樹皮が剥がれ木くずが舞い、無我夢中で攻撃を続けるとおばけの木はポッキリと簡単に折れた。
「うおお! 楽勝!」
彼らは初戦闘で勝利した。動かなくなったおばけの木を見ると、不思議なことにサラサラとした砂に変化し、その中に一つだけ黒い石が潜んでいた。
「おそらくこれが魔石だろう」
剣道リーダーが拾いまじまじと確認する。5センチほどの大きさでひし形の黒い水晶。中がぼんやりと発光しておりぬくもりを感じる。プレゼントにしたら喜ばれそうだ。
これがレベリングパワードスーツの強化素材であり換金素材か。
チェックし終えた剣道リーダーは魔石を仲間に渡し、それぞれが楽しんだあと手元に戻ってきた。
「さて、これをどうするかだが……俺は一番槍で突撃した勇気ある者に渡したいと思う。どうだろうか」
「え!? 俺っすか? ちょちょちょ、嬉しいっすけど待ってくださいよ。ここはリーダーが持つべきでしょ」
「いいや。君の奇襲が間違いなくこの戦いを良い方向に進めることができた。最初に持つべきは君だよ。そうだよなみんな!」
「「そうだそうだ! お前が持て!」」
やんややんやと小突かれる一番槍の彼。
「わっちょ、やめろやめろ。あーもうっ分かったよ! ありがたく貰いますよ!」
照れ笑いを浮かべ魔石を受け取るとすぐに強化に使うと言った。
「強くなればもっと稼げれるし、何よりみんなの役に立ちたいっすからね! えーと、腕の時計みたいなところに魔石を当て続けるんでしたね。――おお。魔石の光が消えた。これで強化されたってことですかね」
変化した実感がないため半信半疑な彼。手を開いたり閉じたりスーツをチェックしたりと身体をクネクネと動かした。
「まあ魔石に種類があるから黒の魔石じゃ微々たるものじゃないかな。ゲームだとそんな感じだ」
暇さえあればスマートフォンでゲームをやっているゲーム先輩が知識を披露する。言われてみれば確かにゲームっぽいシステムに一同納得した。
「よし。この調子でモンスターを倒して先に進むぞ! チームワークを忘れるな!」
「「おー!!」」
☆
「は~~……剣道集団かっこいいなー。仲間想いでステキ。それに比べて世紀末集団のリーダーはサイテーね。独占しちゃってて仲間がかわいそう。ダメダメで嫌いだなー。もっとこう、思いやりがないのかな。モテないよあれじゃー」
モニターで監視している岡崎輝が感想を漏らす。対象的に見えるチーム方針に一言申したいようだ。
傍から見てるとドラマに文句を言うおばちゃんみたいで面白い。
多分家でもああいう感じでテレビを見ているからクセが出てしまっているんだろう。
ボーッとせず、内容を自分なりに理解しようとしている証拠だ。素晴らしい。
あとは多方面の考えを持てるといいね。
剣道集団のリーダーはチームワークと言っている。これは剣道が1対1の戦いが基本だから乱戦に慣れようとしてる面もあるな。
戦闘時の仲間の動きも把握しようとしている。よくいるのが頭に血が登ってしまい状況判断ができなくなったり命令が届かなくなる暴走者。そういう危険な性格を把握しておくのがチームとしての基本だ。
私から見てもできたリーダーと言えよう。
対して世紀末のほうだが、リーダーは戦わず仲間が倒している。なのに魔石はリーダーに渡されている。
これはリーダーが自分たちより強いという信頼があるのだろう。
一点特化型というべきか。切り札が負けたらしようがない、全面降伏だと。
どちらのチームも正しい。
なにせこの先集団戦ばかりとも限らないのだから。
壁にぶつかりながら挑戦していく姿を見届けさせてもらおう。
魂を燃やせ冒険者たちよ。生を実感せよ。淀みを清めるのだ。天の望みのために。
「逆にああいうのがモテたりするんだぞ。立場に惹かれるのか、強気なところか、両方か。岡崎くんはどんな男性が好みなんだろうね」
「えッ私ですかッ!? えーっとぉ……」
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